記者;川口洋平( 17 )
熊本市 の慈恵病院に設置され、5月10日から運用が始まった『こうのとりのゆりかご』 ( 通称:赤ちゃんポスト ) 。運用から4ヶ月がたち、今までに6人の赤ちゃんがこの施設に預けられた ( 9月2日現在 ) 。新生児の虐待を防ぐなど期待される影響は大きいが、ポストに子どもを入れるかのような感覚から、育児放棄を助長する原因となるなどの批判もある。
なぜ『こうのとりのゆりかご』を設置することになったのだろうか。
慈恵病院の蓮田太二理事長によると、赤ちゃんの立場に立って、赤ちゃんを一人でも多く救いたいとのことから『こうのとりのゆりかご』の設置を決めたという。カトリック系の病院である慈恵病院が、キリスト教では中絶を禁じている立場から、中絶の代替手段として赤ちゃんを生まれてから手放すというという仕組みを取り入れたわけではないということだ。
『こうのとりのゆりかご』を運営していく上で、これまでにあった類似施設の廃止理由が参考になる。群馬には平成4年まで『天使の宿』という名前で『こうのとりのゆりかご』と同様に身元を知られずに赤ちゃんを預けられる施設があった。無人のプレハブ小屋にパイプベッドという簡素なつくりのこの施設には約5年半で10数人が預けられたが、平成4年にベッドで死亡している男児が発見され、この施設は閉鎖された。
同様に、東京都済生会中央病院にも病院内の廊下に、「育てられない方は赤ちゃんを置いていってください」という立て看板の横にベビーベッドを置いただけの『捨て子台』と称される施設があった。東京都済生会中央病院附属乳児院の大庭尚子看護師長によると、終戦後2 ~ 3年に渡って戦災孤児救済のために『捨て子台』が運用されていたという。詳しい運用状況は資料がなく分からないが、昭和22年に児童福祉法が制定され、孤児の数が少なくなったためこの施設は昭和23年ごろに廃止されたという。
『こうのとりのゆりかご』が国内初の施設だと思われがちだが、以前にもこういった施設はあったため、運用方法を誤らなければ、先例にもあるように社会的に有用な施設となるにちがいない。また、「赤ちゃんポスト」という名称から安易に捨てるという印象を受けがちだが、慈恵病院では、『こうのとりのゆりかご』という名称を使っており、ポストという名称はマスコミが勝手につけた非公式な名称だという。
ただし、匿名で赤ちゃんを受け入れるということは問題ではないだろうか。大庭看護師長によると乳児院 (2 歳までの養護施設 ) に預けられた赤ちゃんのうちの75~80%が親元に帰ることができ、帰ることのできない人は 40~60 代になっても自分のルーツを探しに施設を訪れるという。もし全て匿名で預けられたら、親元に帰れる割合はゼロ。預けられた赤ちゃんは一生自分のルーツを追い続けることになるのだ。
今後このような施設が全国的に広まったら、母体に負担のかかる中絶件数が減る一方で、育児放棄を助長することにもつながるとも言われている。これについて大庭看護師長は、中絶と捨て子の関連は少なく、根本的に性教育を充実させなくては、現状の中絶件数や捨て子件数は変わらないという。乳児院に預けられた子どもの親の事情を多い順に並べると、親の病気、虐待、育児放棄で、そのうち親の身元不明で育児放棄として預けられるのは年に 1 回程度しかなく、育児放棄というよりも、経済的事情などで親がやむを得ず一時的に乳児院などの施設に預けることが多いそうだ。このことから、育児放棄の心配は、あまりないといえるだろう。
「子どもは社会の宝だ」と大庭師長は言ったように、 子どもは未来の社会を担う大切な存在である。 今後、『こうのとりのゆりかご』のような施設が全国的に広まり、適切に運用されることで、一人でも多くの赤ちゃんが救われることを願う。