記者:畔田 涼(17)
女性の理想のライフコースは時代とともに変化している。結婚し専業主婦になり、育児をすることが理想とされた時代もあった。現在では、仕事と子育ての両立を望む女性も多い。社会に進出しバリバリと仕事をこなす女性が、女性にとっての理想像としてマスコミに取り上げられる機会も増えた。朝日新聞社が2006年に実施した全国世論調査によると、女性も外で働くべきだと考える人は、全体で77%に達するとの報告が出ている。また法的にも、1999年の改正男女雇用機会均等法の施行をはじめ、性差別が禁止規定になるといった整備が進む。「女性が働きやすい会社は業績も良い」というデータもある。
しかし日本はまだ「M字型労働力率カーブ*」を描いているのが現状だという。原因は何なのか。この状況は私たちが将来、社会に進出するときには改善されているのだろうか。それを知りたいと思い、取材を行った。
M字型労働力率カーブ:女性の年齢別労働力率をグラフにすると、出産・育児期である30代前半を谷底としたM字型になる。欧米ではすでに台形となっているが、日本ではM字の多少の底上げはあるものの、出産で退職し子育て後に再就職というライフスタイルが依然として主流を占めている。この就労パターンは女性のキャリアを中断させることで男女の賃金格差につながっている(AERAムック『ジェンダーがわかる』2002年3月より)。
まず、今とは全く社会情勢が異なる1960年代に就職し、2度の出産を経て仕事を続けてこられた元NHK副会長である永井多恵子氏にお話を伺った。永井氏は夜7時のニュースキャスターといった、男の聖域に進出してきた女性だ。永井氏の職場では当時、妊娠した女性社員が会社をやめるとき「久しぶりに良い知らせを聞いた」という社員の皮肉もあったという。周りの同僚が結婚、出産で退職していくなか、自分には仕事が向いているという思いで、育児と両立しながら仕事を続けてきた。「苦労と思うかどうかはその人次第よ。育児によって包容力もつくといったプラスの面もある」と語る永井氏だが「子どもがまだ赤ちゃんだった頃、母親である自分の顔を覚えてなかった時は悲しかった」と母親としての苦労を語る。
一方、現在では育児休暇の取得率が98%にものぼるという企業でも話を聞いた。資生堂だ。資生堂は社員の7割、顧客の9割を女性で占めている。「女性の活用が業績向上に繋がる」という理念のもと、男女共同参画をCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)として取り組んできた。その結果、M字型労働力率カーブは解消され、子育て中でもキャリアを継続できるようになったという。
育児休暇を取得したことが、キャリア評価に響くことはないのだろうか。これに関して、資生堂人事部の安藤哲男氏は次のように述べた。「資生堂では、育児休暇後は原則として以前と同じ職場に復帰できます。また、休暇中を評価に入れないなど、出産がキャリアに響かないようにしています」。
また、数年間のブランクがあった後で復帰後すぐにキャッチアップできるのかという疑問に対しては、1年間の育児休暇経験者でもある同社の松本真規子氏はこう語る。「育児もしなくてはならなかったので、最初の1ヶ月はつらかった。でも、自分が知らない1年があることが悔しくて、早くキャッチアップしたい気持ちが大きかった」。
また、女性の社会進出に先駆的な取り組みを進める資生堂では、核家族の増加といった時代の流れを受け、事業所内保育施設「カンガルーム汐留」を設置。革新的な取り組みとしてメディアに取り上げられた。一方で、子どもを連れての通勤に疑問の声も上がったが、先の松本氏は「子どもを連れての電車通勤はつらい。でも、通勤時間に子どもとのコミュニケーションを取れるのは、働く母親としては嬉しい」とデメリットをメリットとして捉えている。
働く母親にとっての問題は育児だけではない。大きな障害となっているのは「夫の転勤」だ。資生堂では 「夫と同一地域への異動制度や、夫の転勤中は休職できる制度」を平成20年4月以降、導入していく予定だ。この新しい選択肢設置により「夫の転勤による有能な女性社員の流出を防ぐ」ねらいだ。
時代とともに、考え方は変化している。女性の社会進出には様々な考え方が存在する。人によって選択が異なるのだから、答えは一つではない。一人一人が、自分にとっての正解を選択できるような環境をつくることが必要であり、それが今後の課題だ。
働く女性にとって選択肢が拡大されることは嬉しいことだ。選択肢が増えれば、働きたくても働けなかった層が動き出し、M字型労働力率カーブは改善されるのではないだろうか。しかし「女性自身が権利を主張するばかりではダメ。自分自身が努力しなければ、女性の社会進出は一般論のままで終わってしまう」と資生堂の安藤氏が述べるように、自分自身の考えを持って行動しなければワークライフバランスの実現は不可能だろう。
私たちが社会に出て働く頃には、男女に関係なく、全社員のワークライフバランスを実現できるよう、企業や行政には努力してもらいたい。そして、私達自身も会社に必要とされる人材になるべく努力しなければならない。そのためには、永井さんや松本さんのように、仕事に対する熱意とポジティブな考え方が大切なのだと感じた。