HIVに対して今私たちが出来ること

寺浦優(14)

 現在日本では、1日約4人ずつHIV感染者が増えていると言われている。そして、多くの人たちが、その事実に気がついていない。私は、日本のHIV 感染者と予防の現状、それを解決するためには何が必要なのかを調べたいと思った。

 財団法人エイズ予防財団会長、島尾忠男さんによると、検査を受けてわかったHIV感染者は1082人、AIDS発症後にわかった人は418人だ。しかし、あくまでもこの数字は実際に検査を受けた人たちや発症してしまった人たちだけの数字なので実際はもっと多いそうだ。

 では、どうしたら検査を受けに来る人が増えるのだろうか。それには「HIVに関する正しい知識が必要だ」と、赤枝六本木診療所院長の赤枝恒雄さんは話す。今の若者には正しい知識はなくHIVを人ごととして考えているようだ。

 また、実際に高校生に教育を行っているWYSH(Wellbeing of Youth in Social Happiness/若者の真の幸福の略称)プロジェクト代表の木原雅子さんは、「一般的な情報は普及しているが、HIVを自分の身近な問題としてとらえていない」と言っていた。木原さんの行っているWYSH教育は、①性の問題が他人事ではないこと、②一部情報により性関係をせかされていることを提示し、現在、学校での予防教育を広げている。

 現在渋谷区保健所では、検査などの他に電話相談も行っている。相談者は多く、平成19年度に1265件もあったそうだ。主な質問内容は、感染の不安、感染経路の相談、検査をするべきか、というもので、保健所では不安を解消するための機会、検査に結びつけるために力を入れている。

 「ぷれいす東京」という団体では、HIV感染者の手記を関心の無い人たちに見せ、アプローチを行っていて、正しい知識を得ることが出来る。自分の身体のことを知り、自分を大切にするべきだと代表の池上千寿子さんが話していた。

 私たちは今、あきらかに知識不足だ。HIVのリスクが自分にあり、自分の身近な問題であることを知る人が少ない。そのため、本当に検査を受けて欲しい人が受けていないのが現状だ。これを解決するためには、HIVが決して遠い存在でないことを理解し、若者に丁寧な教育を行っていくべきではないだろうか。今の若者を変えるには教育が必要であり、自分の身体としっかりと向き合い考えていくことが最も重要である。


『HIV』の本当のメッセージ

井上麻衣(18)

 最近、頻繁に『HIV』という言葉を聞くが、『HIV』と聞くだけで死の恐怖や未来への不安などマイナスのイメージを思い浮かべる人が多い。では実際の『HIV』についての知識がある人は一体どれくらいいるのだろうか。世の中の『HIV』に対する偏見や差別がなくなるようにと願い、事実を知る為の取材を始めた。そこで見えてきたのは二つのメッセージだった。

 現在、日本の『HIV』感染者は増加し、確実に広がってきている。渋谷区保健所によれば東京都のHIV感染者は平成18年が354件で、平成19年は423件である。エイズ予防財団の島尾忠男会長は 「1日平均で4人がHIVに感染するか、エイズ患者として発見されている」と語る。決して人ごとではない人数だ。感染者の男女比は男性が女性よりも圧倒的に多く、感染経路としては性行為による感染が多いという事が取材をして分かった。

<予防の大切さ>

 取材に応じてくれた専門家が口を揃えて言うのは、「如何にして『HIV』感染を予防するか」であった。エイズ予防財団の島尾会長は「情報社会なので若い人の性に対する受け止め方が鍵となる」と言う。また「早いうちからの性教育が必要」と語るのはHIVに対する予防啓発や直接支援を行う“ぷれいす東京”の池上千寿子代表である。池上氏も島尾氏も早くからの性教育が予防への第一歩だと強調し、今の若者への性教育の不十分さを懸念する。

 WYSH(Well-being of Youth in Social Happiness)代表で京都大学大学院准教授の木原雅子氏は「地域や地元の身近な情報を知らないため、自分には関係ないと他人事のように捉えている」と述べ、さらに赤枝六本木診療所の赤枝恒雄医師は「主にメディアが脅かしすぎていて本当の知識を知らない」と厳しく批判する。渋谷区保健所でも「HIVに対する知識不足が問題を深刻にさせており、正しい知識が何よりの予防方法だ」という指摘を聞いた。予防をすれば『HIV』早期発見にも繋がる。見えてきた一つ目のメッセージは「予防の大切さ」だ。

<未来がある>

 「HIVに感染しても死ななくなった」と強烈な印象の言葉を発したのはエイズ予防財団の島尾会長だ。また赤枝医師は「HIVに感染しても慢性疾患として長く生きられるから大丈夫」と語った。今まで持っていた死への恐怖というマイナスイメージを一新させる一言だ。さらに渋谷区保健所では「検査が自分の命を守る」と繰り返し、予防の大切さを訴える。

 WYSH代表の木原氏は「若い人自身がHIVについて考えることが何より重要」と自分の身近な問題として捉える事の大事さを強調した。「自分の体とは一生の付き合いなのだから自分の体を知り、大事にしてほしい」と“ぷれいす東京”の池上代表はSexaul Health(性の健康)を呼びかける。

 以上で見えてきた二つ目のメッセージは「HIVはマイナスのイメージではなく、未来もあれば、またHIVと共に生きていける」という希望のあるメッセージだ。

 この取材をするまでは『HIV』に勝手な偏見を持っていただけで自分とは無関係な問題だと思っていた。しかし『HIV』は身近な問題であり、本当の『HIV』を知る事が社会から差別や偏見を無くす最適な方法である事が分かった。


自分の体、どれだけ知ってる?

藤原沙来(18)

 「カレシの元カノの元カレを、知っていますか」。テレビCMやポスターでHIV検査を促すためのキャッチコピーだ。

 日本人のHIV感染者・エイズ患者数は年々増加している。平成19年度では全国で1082件、東京都で423件もある。(平成19年東京都AIDS News Letterより)。年齢別に見ると、20歳未満は13件にものぼり、そのうち東京都では3件(平成19年エイズ発生動向年報より)と、真剣に向き合わなければいけない大きな問題なのだ。

そもそも、HIV感染/エイズとは何か。

 HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染すると、通常6~8週間経過して、血液中にHIV抗体が検出される。その後、自覚症状のない時期が数年~10年以上続き、免疫が低下し本来ならば自力で抑えることができる病気を発症するようになってしまう。その中で、決められた疾患(代表的な23の指標)を発症した時点でエイズ(後天性免疫不全症候群)発症と診断される。

HIV感染の主な経路は性行為、母子感染、血液を介しての感染である。せきや涙から感染することはない。

 これ程身近に存在し、誰もが感染する可能性があるにも関わらず私たちは知識がなさすぎる。HIV感染の知識普及・エイズ診断・治療・予防及び予防治療などを行っている財団法人エイズ予防財団に取材をした。島尾忠男会長は「情報ばかりに頼らず、避妊具を使うこと。性行為の際はお互いによく話し合う能力を持ってほしい」と語った。若者自身に高い意識を持つよう求めている。

 中高生を中心としたアンケート・インタビュー調査により、新たな教育のあり方を提示しているWYSH(Wellbeing of Youth in Social Happiness・“すべての子どもたちが心身共に健やかで幸せに過ごすことができる社会を目指す”)は、若者の社会では性行動を含む様々な問題が密接に関係しているという調査結果を得た。国連合同エイズ共同センター長で厚生労働省・若者のエイズ予防研究班主任研究者でもある木原雅子氏は「若者はHIV感染を他人事だと思っている。まず、性関係をもったら、誰でも感染する可能性があると考えるべきだ」と指摘した。

 学生が多く集まる渋谷区保健所にも取材した。西塚至副参事は「10代でHIV感染したら20代でエイズ発症するのを避けるためにも、低年齢のうちに正しい知識を伝えたい」と述べ、保健所と若者の連携の重要性を訴えた。多くの保健所は学生が行ける時間帯には対応していないのだが、区内にある東京都南新宿検査・相談室では平日の夜と土日も対応しているという。

 検査は保健所や医療施設以外でも行われている。赤枝六本木診療所の赤枝恒雄院長は子どもたちの現状を重くとらえ、平成14年5月から若者を中心にエイズ街角無料検診を開始した。「1人でも多くの若者に早く、知識のないうちから情報を提供したい。制限があって学校では十分に教育を行えないからだ」と指摘し、多くの若者が早い段階で正しい知識を得ることを強く望んでいた。赤枝院長はラジオにも出演し、啓発活動を行っている。

 特定非営利活動法人「ぷれいす東京は」 HIV患者のコミュニティーを作り、HIV/エイズと共に生きる人たちが、ありのままに生きられる環境を創り出すことを目指して活動している。池上千寿子代表は「性の健康、つまり自分の体とどう付き合うかを考えることが大事。検査を呼びかけるのではなく、検査に行かなくて良いように自分の体と向き合うべき」と根本的なことを強調した。

 状況の改善のためには、若者自身が情報を共有しなければいけないが、HIVを他人事と思い、関心すらないことに問題がある。

 1つの改善方法は、教育を平等に受けることのできる学校で広く扱うことだろう。1つしかない自分の体は自分自身で守らなくてはいけない。そのために学校は、教育で自分の体と向き合う機会を増やし、自分の体を知る重要性をもっと訴えていくことで、若者の意識は変わるはずである。制限があって直接的に教えられないという現状もあるが、それを超えて取り組まなくていけない深刻な問題である。

 若者は自分の体と向き合った上で、まずHIV感染について知ることが必要だ。「自分が感染しているかもしれない」身近に存在する事実を早く1人でも多くの人が正しく認識し、その意識を広めなくてはいけない。

 では、実際に検査へ行き自分の体を知ってみよう。 カレシの元カノはもちろん、未来の彼や彼女のためにも。