飯沼茉莉子(13)
AO入試に興味のある人なら、慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス( SFC )を知っていると思う。慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスの2学部(総合政策学部、環境情報学部)は 1990 年の開設と同時に、日本で最初に AO 入試制度を導入したことで知られている。今回私たちは自分たちにも読者にも役に立つ情報を得たいと思い、 AO入試の面接を担当されたこともあり、また総合政策学部の前学部長でもあった慶應義塾常任理事の阿川尚之先生( 59 )に取材をした。
SFC の 2 学部の AO入試について、個人的に気をつけていることは「第一次試験の書類審査で、活動報告書など提出書類を正直に自分の力で書いているか」であり、「第二次試験の面接では、短時間に、自分がどれだけこの大学に興味を持ち、入りたいという意欲があるかをアピールできるか」だと阿川先生は言う。
つまり、親や塾の先生の手を借りずに文章が書けないといけない。先生は、高校生に完璧な文章を期待してはいないと言う。親や塾の先生が手を入れた文章が第一次審査を通ったとしても、面接では落ちるだろう。面接者は面接の時に、書類に書いてあることを本人が自分で考えて書いたものかを見抜くために相当ひねった質問をしてくる。受験生はそういう意地悪とも思えるような質問にも答えられなければならない。自分で考えて書いていない受験生は質問に答えられず黙ってしまうという。
面接の時は誰でも緊張するだろう。質問をされても、緊張のあまりすぐに答えがでないかもしれない。しかし、そこで、すぐに答えは出ないけれど一生懸命考えているところを先生たちはしっかりみている。静かな受験生の場合は特に丁寧にみるという。また、この大学に入りたい気持ち、大学に入って何をしたいのか、情熱をアピールすることが大切だという。それには、自分がどういう人間かを面接者にわかってもらうために、自分の言葉で表現できないといけない。
阿川先生のお話から、合格している子に共通していることは、どれだけ真剣に物事を考えているかであるということがわかる。書類にどれだけ立派なことを書いても、面接で見抜かれてしまうのだ。
阿川先生は、 AO入試は多くの受験生の書類を読み、面接を一日中行うのでとても大変だが、自分が会ったことのない個性の強い受験生に会えるのがとても楽しいと言っていた。逆に、もっともらしいことを言うだけの学生には、阿川先生はあまり魅力を感じないと言う。
今、世間では AO入試での入学者の学力低下が問題視されているが、阿川先生は、「 SFC は AO入試をやって良かった」と言う。『日本の論点 2009 』(文芸春秋・編)にも書いているが、「 AO入試を通じて素晴らしい学生をとることができる」、「生身の若者に接し、その力と意欲を全身で感じ取って合格者を決められる」ので、 SFC では AO 入試を中止したり縮小をするつもりは全くないと言う。これからも SFC の AO入試は続くだろう。
AO入試は、学力試験の点数だけではわからない、受験生の人間性と能力をみることができるところが優れているところだという先生の考えに、私も共感する。成績はずば抜けて良くなくても、自分の人間性や活動内容を評価してくれるところがとても魅力的だと思う。