- ホンモノの森とは何か
- いのちの木を植えよう!
小林夕莉(15)
今、日本にはホンモノの森がたったの 0.06 %しかないという。ホンモノの森とは、人工的に作られてきたものではなく、「土地本来の」木から成る森のことである。この、土地本来の森を再生することを目指して植樹活動を続けている方がいると聞き、「森に本物も偽物もないだろう」と思った私は土地本来の森とはどのようなものか知るため、その活動を取材した。
取材したのは IGES 国際生態学センター所長(横浜国立大学名誉教授)の宮脇昭先生である。先生は「日本一多くの木を植えた男」と呼ばれている。
先生の講演を聞くために、5月2日に神奈川県の大楠山のふもとでおこなわれた「第 61 回全国植樹祭湘南国際村サテライト会場植樹祭」「第 2 回レナフォ湘南国際村植樹祭」に参加した。今回の植樹祭は立場の異なる老若男女 1,300 人が参加し、 5,000 本( 22 種類)もの木を植えた。
「植樹をするうえで大切なのは、土地本来の木を植えることと混植・密植をすることだ」と宮脇昭先生は言う。先生によると、その土地本来の木とは、その地域に古くからある神社やお寺などに自生しているような木のことである。それらの木はとても長生きし、それらの木から成る森は「鎮守の森」と呼ばれている。先生は、鎮守の森を作ることを「ふるさとの木によるふるさとの森づくり」と呼ぶ。
混植とは、広葉樹や針葉樹、いろいろな植物を混ぜて植えることだ。密植とは、それらを1平方メートルに2、3本という密度で植えることらしい。なぜそのようなことをするのかというと、もともと昔の土地には、広葉樹も針葉樹もまざって生存していたので、混植をすることにより、土地本来の生態系を取り戻すことができるからだ。また、密植をすることで植物が競争し、勝った方は強くなり、負けた方は枯れて栄養分として育つのを支えるようになるそうだ。
植樹の後、参加した若者にインタビューをしてみた。植樹を行ってみて同世代の若者たちに何を伝えたいかと聞くと「やってみると楽しいこと」と是枝泰介君( 10 )、「もっと自然に興味をもってほしい」と関理沙さん( 25 )が答えた。また、どんな森にしていきたいかと聞くと「都市からでも行ける動物や植物が共存している森にしたい」と大阿久咲希さん( 15 )が答えた。
その後ベテランの方に、若者に何を伝えたいか、と聞くと「休みがある若いうちにいろんなことに触れておいてほしい」と蟹田綾乃さん( 30 )が、「人や本物の自然に触れてほしい」と高野義武さん( 65 )が答えた。また、植樹の良さについては「誰でも平等にやることができ、自然に触れることができることかな」と蟹田さんが答えた。
ReNaFo 事務局長の新川眞( 59 )さんは「若者に植樹を伝えるのは難しい。でも、植樹祭のようなイベントを通して自然と触れ合う楽しさ、大切さを感じてほしい。今回の参加者が体験して感じた自然とのふれあいを、他の人に広めてほしい」と言った。
また、植樹を広める活動の一つとして、現在「学校の森づくり」というものを行っている。「学校の森づくり」とは、地震などがおきた時、地域の人が避難する小学校や中学校に木を植えようというものだ。木は学校が火事に巻き込まれたりしないよう炎を止めたり、倒壊しないように支えることができるからだ。それは、関東大震災の時にすでに確認されているそうだ。また、高野さんは、「『学校の森づくり』は学校の生徒・父兄にも植樹を体験してもらういい機会になっている。自分たちで植えた木で自分たちの生活を守ると思えば、植樹も身近に感じられる」と言った。
宮脇先生は「自分の命を守る森は自分たちで作っていかなければならない。また、その過程で自分の体を通して生の命に触れ、命の尊さ、儚さ、素晴らしさを理解していくことが大切だ」と言った。
いのちの木を植えよう!
竹内緑( 15 )
学校で自然と直接触れ合うことのできるビオトープ委員会に所属し自然と環境に興味のあった私たちは、「植樹」という言葉に興味を持ち、宮脇昭 IGES 国際生態学センター所長(横浜国立大学名誉教授)の著書『鎮守の森』(新潮文庫)を読んで植樹の意義を知った。植樹の重要性はどのようなところにあるのだろうか。専門的なテクニックを持ち合わせていない私たちにできることはなんだろうか。
そんな疑問への答えを求めて、5月3日、「湘南国際村フェスティバル 2010 」で宮脇昭先生の特別講演「いのちの森林~ 9000 年の森づくり」を聞いた後、宮脇先生を取材した。
宮脇先生は、 1970 年代から海外も含め世界 1200 ヶ所で森の再生に取り組み、土地本来の木をポット苗を用いて植えるという、独特の「宮脇方式」という植樹手法を生み出している。
「森を蘇らせる男」と呼ばれる宮脇先生は、講演会で「植樹はいのちの木を植えること」と語った。宮脇先生のいう「いのちの森」とは、いわゆる鎮守の森(神社の境内にある森)のような「土地本来の本物の森」、すなわち、その土地に本来生えていた木々から成る森のことである。
宮脇先生によると、戦後、日本は木材として利用する目的で、本来その土地に自生していないスギ、ヒノキ、カラマツなどをほとんど国土全域に植えて造林した。しかし日本にあふれかえる花粉症の元凶であるスギやヒノキ、カラマツなどの樹種だけでは根が浅く張りが弱いため、台風の後などはえぐられたように倒れている。また山火事の被害にあうことも多い。
一方、いのちの森、すなわち土地本来の木からなる本物の森は、長く人間と共存し、数度の火事や地震、台風では倒れたりしない。しっかりと張って深く伸びた根が、もろい急斜面でも岩をくくるように押さえつけ、がけ崩れを防いでくれるのだそうだ。宮脇先生によると、あの阪神淡路大震災でも神戸市本来の木であるカシノキやシイノキ、ヤブツバキなどは焼けずに残って、そこで火をくい止めたというのだから驚きである。
このような例を知ると土地本来の木を植えることがいかに重要かを実感する。私たちの命を守る木、すなわち「いのちの木」。このことから「植樹はいのちの木を植えること」であることもうなずける。
しかし宮脇先生は、木を植えることだけが大切だと言っているわけではない。植樹は「自分の体を通して木に接し、行動することに意味がある」という。
近年問題になっている地球温暖化の問題も、木を植えることが解決策のひとなのだ。今や地球温暖化は秒読みの状態で限界に近付きつつある。それに歯止めをかけるためには一人ひとりが意識を高く持つこと、今すぐに行動を起こすことが必要なのだ。一人ひとりが植樹をすることの意味はそこにある。
木は1本植えれば木、2本植えれば林、3本植えれば森、5本植えれば森林という。宮脇先生は、コンクリートジャングルと化した都心でも、いのちの木を植えることは不可能ではない、木を植えた瞬間から変わる、と言われた。変わるのを待つのではなく自分が変えなければならない。