記者:小川真央(18)
東京大学が秋入学の全面移行に向けて学内で検討組織を立ち上げて実動き始めたことを契機に、メディアが大々的に取り上げ、注目されるようになった「秋入学」。学生、大学、経済、社会にどのような影響を及ぼすのか、今、教育界・産業界・政府といった様々な場で議論されている。今回、関連する諸団体を取材し意見を聞いた。
秋入学実現に向けていち早く動き出している東京大学・総合企画部長期構想担当課長の小野寺多映子氏は、東京大学は正式に秋入学を導入すると決めた訳ではないと強調したが、チャレンジ精神や高度なコミュニケーション能力をもつ「タフでグローバルな東大生」を育てるという教育理念に沿って秋入学を教育改革の手段として検討していると語った。同氏はまた、秋入学によって生じる高校卒業から大学入学までのギャップタームについては前向きにとらえ、知的な冒険・挑戦の機会であり、社会体験によって視野を広げられるし、大学での学問の全体感の構築など学習期間として有意義な時間を過ごすことが可能であると指摘する。学内にも、ギャップタームのある課題が特に大きい問題と考えている数理系の先生を中心とした秋入学反対派が存在するとの問いには、反対派の意見は問題点を提示し、解決策を考えるきっかけになっているため貴重であるとも述べている。
また、地方の国立大学である徳島大学の高石喜久副学長・理事は、秋入学に対し、地域の差により生まれるデメリットは無いと語った。その上で慎重にならざるをえない理由として、秋入学が導入されることで地方に留学生が集まるか不明である点、就職・国家試験の時期とのずれといった社会整備が整っていない点を挙げた。しかし、日本全体としてグローバル化が必要との認識は他大学と変わらないため、教育改革の一環として秋入学を視野に入れており、大学院は既に春入学に加えて秋入学を導入していると述べた。
日本経済団体連合会・社会広報本部主幹の長谷川知子氏は、産業界としては大学の秋入学に対し基本的に歓迎であるという。少子高齢化やブラジルやインドといった新興国(BRICs)の台頭など、現在の経済危機において日本にグローバル人材は必要であると実感しているそうだ。そこで、秋入学が日本の学生の国際化の手段として機能すれば、最終的に日本企業の国際競争力の強化につながると考え、大学に協力していく姿勢を見せている。学生の不安要素である就職時期については、企業は一括採用以外でも柔軟に対応できると述べ、どの程度の数の大学が秋入学に移行するかを見極め、採用方法を考えていることを示唆した。
文部科学省・高等教育局大学振興課課長補佐の白井俊氏は、秋入学を目指す大学に対しては支援をしていき、春入学を維持する大学に対しては秋入学を強要しない柔軟な対応をとると述べた。文部科学省は、秋入学の支援として、ギャップタームにおける体験活動の枠組みを提供する、産業界へ採用制度の変更を促す、国家試験の時期を変更することなどを具体的に考えている。 秋に移行した場合に6ヶ月間不足する運営資金の援助に関しては、国民の税金を使うことになるため国民の理解を得なければならないとする一方で、国際化を積極的に実施していく大学の取り組みに対しては援助する意向を示した。
確かに秋入学を実施することで学生達が強制的にギャップタームを過ごさなければならない点、就職活動への影響が出る点、半年間の身分の所在が不明確である上にアルバイトをすれば年金を支払わなければならない点、国家試験の時期にずれが生じる点、コストがかかる点など数多くの問題があることは事実である。しかし、複数の大学が協調することで、産業界や政府と連携が可能になり、秋入学に向けて社会の基盤は整っていくだろう。各大学の方針は尊重するべきであり、全大学が秋入学にする必要はないが、秋入学は日本の教育改革の一つの有効な手段になるのではないか。5年後の秋入学の導入まで社会がどのように変化していくか注目したい。