村上 類(16)
今、日本各地で期間限定のお化け屋敷が人気を博している。その裏にはお化け屋敷プロデューサーの五味弘文氏の存在があることを知っているだろうか。日本で一番怖いとの噂もある五味氏のお化け屋敷の魅力に迫った。
五味氏流のお化け屋敷のプロデューサーは一から十まで全てに関わることにある。ストーリーやお客さんに与えるミッション(役)を考える作業はもちろん、美術や音響担当者との打ち合わせ、お化け役の従業員へのトレーニングまでも自らの立会いのもと、約7ヶ月かけて進めていく。
五味氏は最初からお化け屋敷プロデューサーを仕事にしたいと思ったわけではないと言う。小学生の頃からお化け屋敷を作りたいという気持ちは漠然とあったが、そもそもお化け屋敷プロデューサーという仕事は存在しない。しかしいろいろな人と巡り合う中で、東京ドームシティのお化け屋敷のプロデュースをする機会をたまたま得たことが功を奏し、その後の年もプロデュースを続け、それが今に繋がっている。
その五味氏が作る、二時間待ちもざらではないお化け屋敷の魅力。それは二つのこだわりと工夫にある。
一つ目はお客さんをストーリーに深く関わらせることだ。例えば夏休み中に東京ドームシティにオープンしていた「呪いの指輪の家」は主人公の女性に指輪をはめるというミッションがお客さんに課せられる。昔のお化け屋敷は脈絡もなく色んなお化けが脅かすものだったが、五味氏のお化け屋敷はお客さんをストーリーに欠かせない存在にすることで恐怖を提供している。
人間はストレスや不安が解消されると「楽しい」がうまれると五味氏は言う。それがお化け屋敷の中では何回も繰り返されるため、普通はネガティブなお化けが人を呼んでいるのだろう。実際、お化け屋敷から出てきたお客さんに話を聞くと「スッキリした」という声が聞かれた。
二つ目は現実にはありえない、嘘だと思える要素を盛り込むこと。お化け屋敷は、いかに冷静さと想像力の振り幅を楽しめるかにあると五味氏は話すが、その冷静さをお客さんに与えるために、あえて偽物とわかる信号を出している。脅かしたあとに引っ込んでいくお化けの姿を思い出すとわかりやすいだろう。
日本各地に広まる五味氏のお化け屋敷だが、シャッター街にもお化け屋敷を作り、地域活性化に一役買っていることもよく話題になっている。だが、五味氏は地方を盛り上げるというより、若い世代に遊ぶ場所を提供していることに注目していた。ネットに向かいがちな若い人が抱えている閉ざされた気持ちを、お化け屋敷によって解放出来るのではないかと五味氏は言う。
今後もお客さんがストーリーに参加するお化け屋敷を作りたいが、お化け屋敷は海外に発信しても面白いエンターテイメントだと五味氏は感じている。それはもはやお化け屋敷という形ではないかもしれないとも言う。
避けたいはずのお化けが人を呼ぶ裏には、試行錯誤して工夫するお化け屋敷プロデューサーの存在があった。今後の五味氏のお化け屋敷の進化に期待していきたい。