前田 佳菜絵(14)
皆さんは「宿題代行サービス」という言葉を聞いたことがあるだろうか。宿題代行サービスとは、その名の通り宿題を代行してくれるサービスのことだ。しかし、一般的に考えて宿題を他の人にしてもらう、ましてやお金を払って業者にやってもらうのは「やってはいけないこと」という認識の人が多いだろう。例えば、Newsweek日本版websiteのコラムニストで在米ジャーナリストの冷泉彰彦氏は、この風潮を、親と子供が業者と共謀して「教師をだます」行為だと問題視している(2015年7月30日同website)。また教育評論家の石川幸夫氏は、教師は代行を見抜けると自信をつけるのではなく、社会環境の変化にあわせた宿題のあり方についても真剣に検討すべき時代になっている(8月22日付産経新聞)と指摘する。
このようにサービスに否定的な意見が多いことに対して、実際に宿題代行サービスを行っている業者はどのように思っているのだろうか。そもそも、どのような思いで宿題代行サービスを行っているのだろうか。宿題代行屋Q代表の板津知直さん(31)に取材した。
なぜ宿題代行サービスを始めたのか、と聞くと板津氏は「誰もやっていないことだから。教育に関したビジネスをやろうと思ったが、個人参入は旨味が無いし勝てる自信が無かった。インターネットのサイト売買でこのサイトを購入して、去年の夏から始めた。もともとは『便利屋』のようなものだったが、それを宿題代行だけに特化させた」と語った。夏休みの宿題がある時期が最も依頼者が多いと板津さんは話し、「夏以外は大学生や資格勉強をしている社会人からの依頼が多い。今年の夏は依頼が多過ぎて、半分以下しか受けられなかった。しかし、その分高品質なものは提供している」と語った上で、「『上位の人』は、彼らにとって無駄なことはやらない。だから、そう いう人たちの依頼を受けるためにあえてサービスを高額にしている」と話した。また、苦労する依頼について聞くと「『枠から外れる』もの。読書感想文などは枠が決まっているが、裁縫や絵本作り、作曲などは苦労する」と板津さんはこぼした。
宿題代行サービスに賛否両論あることについて板津さんは「当然だと思うし、予想通り。常識的に考えたらダメなことだからね。でも、あえて僕は着眼点を変えて、誰もが『いけないこと』と思うこのサービスを始めた」と誇らしげに語った。また、宿題を親などに手伝ってもらうことと宿題代行サービスを利用することの違いは「料金を払うか払わないか以外は無いと思う」と話した。サービスを始めてからの約1年間、学校側に代行を指摘されたなどのトラブルはないという。「学校側は宿題を丸投げしているから、正直意味が無い。実際、先生たちは代行に気づいていると思うけれど、変に指摘もできないのだろう」と板津さんは推測した。
宿題代行サービスの是非を語る上で、サービス推進派と反対派のどちらもが挙げていたのが「教育のあり方」についての批判だ。今のような教育制度では宿題代行サービスがあっても当然だし、教師側が指摘できないのも納得できること、というのが双方の意見をまとめた結果だ。私たちは、今「宿題代行サービスの是非」を語るより先に「教育制度の是非」についてもう一度考え直すべきなのだろうか。