記者: 前田佳菜絵(15)
今年の1月、Yahoo!JAPANニュースに「『部活週2休』有名無実化 文科省の指針」という記事が掲載された。中学校や高校の運動部が早朝や休日にも活動をすることに疑問を投げかけ、スポーツ障害を予防するためなどに過度な活動を警告するこの記事は、5月31日の時点で5740人のfacebookでシェアされた。大きな話題を呼んでいるこの問題について、文部科学省は「運動部活動の在り方に関する調査研究報告」という指針を発表しているが、それに法的拘束力は無い。そもそもなぜ「運動部活動のやりすぎ」という問題が起こってしまうのか、そしてそれを指針以外の方法で防ぐことはできないのだろうか。
まず、先述の記事を執筆した、名古屋大学大学院教育発達科学研究科の内田良准教授に取材をした。内田氏は、運動部活動のやりすぎが起きてしまう理由について、「たくさん練習すれば強くなれる」という考え方に問題があると指摘する。内田氏は「効率よく練習するという考え方が無いのが問題だ。強くなるために休むことはスポーツ科学界では常識になりつつあるのに」と語る。さらに、「そもそも部活動の意義は、授業以外においてスポーツや芸術活動の機会保証することにあるのだから、最低限の活動ができればよいのであって,過酷な練習を強いるものであってはならない」と熱弁し、運動部活動にありがちな勝利至上主義を改めるよう促した。改善策として内田氏は、休日や早朝からの練習を無くして最大で週3日から4日の活動にすることを提案する。「練習量を減らすことで前向きに部活動に取り組めるようになるはずだ。もしそれ以上の活動がしたいのなら、民間のクラブチームなどに入るべき」と内田氏は話した。
また、文部科学省が発表した「運動部活動の在り方に関する調査研究報告」について内田氏は、「そんなところまで国が口出ししていいのかとも思う」と言う。「国は部活動の目安を示すべきだが、部活動とは学校が全く好き勝手にやっていいものだから、その目安を100%守るべきではない。ただ、指針が出された時に学校の現場は改めて活動について考えるべきだ」と悩みながらも語ってくれた。そして文部科学省に対して「指針に拘束力を持たせることができないなら、できるだけ厳しい言葉で活動状況を改めるよう示してほしい」と話した。最後に内田氏は、「声をあげることで一歩一歩、少しずつでも運動部活動の実態は変わっていくはず。自分の考えを他の人にどんどん伝えていけば、意外と早くこの環境が変わるかもしれない」と強い期待感を表明した。
横浜市教育委員会事務局指導部指導企画課長の三宅一彦氏と、同主任指導主事の根岸淳氏にも取材をした。横浜市教育委員会は昨年、市立小中学校に通う子どもの保護者に、部活動の顧問としての教員の長時間労働解消へ協力を求める文書を出したことで話題になった。なぜ運動部活動のやりすぎが起きてしまうと思うか、と尋ねると「人によって部活動に対する価値観が違う」と話し、部活動の顧問、生徒本人そして保護者間の相互理解が重要だと指摘した。三宅氏は「その相互理解を促すのが教育委員会の仕事だと思う。昨年文書を出した後から、保護者と学校の距離が近くなっていると感じられる。最終的には、生徒たちに『3年間この部活をやってきて良かった』と思ってもらいたい」と笑顔で語った。
横浜市教育委員会が2010年に発表(2015年に改訂)した部活動に関する指針には、「部活動を通じて豊かな人間性とたくましく生き抜く力を育み、調和のとれた学校生活を目指します」と書かれている。他にも、教育効果に繋がる部活動をするようにと明記されている。
最後に、文部科学省スポーツ庁政策課学校体育室運動部活動推進係長の佐藤理史氏と、同学校体育室指導係(併)保健教育係の係長の原康弘氏に取材した。佐藤氏は、そもそも部活動は教育外のものだから過度な練習を強制してはいけないと話し、「部活動は自主的に活動するもの」と強調した。そして、部活動の日数などを制限していない理由について「例えば中学1年生と高校3年生で同じ日数活動しなければいけないというのもおかしいし、地方によっては日の出の時刻も違うから活動時間帯も変わってくる。全てを一律にする必要は無いと思う」と説明してくれた。また、今年の3月にスポーツ庁が「安全性を確実に確認できないなら運動会での組体操実施を見送るべき」と発表したが禁止はしなかったことについては、原氏が「地域によっては安全対策を講じているから、禁止にはしていない」語り、どちらの問題にも地方の事情などを考えて対応していることを示した。
運動部活動のやりすぎを防ぐために行っていることについて質問すると佐藤氏は、「大臣政務官の下の『タスクフォース』という集中的に話し合う組織で今現在検討しているところだ。いつ頃問題への対策が決まるか、指針の形で発表するかなどはこれから決めていく」と話した。また「問題解決のために、教育委員会を金銭的に支援している」とも明かした。最後に、「まずは教員の方々に指針の存在を知ってもらうことが第一歩だと思っている」と佐藤氏はまとめた。 これらの取材で三者とも問題視していたのが「部活動は教育の補助的なものなのに、過度な活動が強制されている場合がある」ことだった。部活動が学校生活の大半、と捉えている生徒が多いように感じる今だからこそ、特に運動部活動の顧問や保護者なども含めて部活動の意義を改めて考え直すべきではないか。