記者:南雲満友(18)
リーダーシップって何だろう。 そしてそれを育むリーダーシップ教育とは何だろう。2013年8月1日から8日まで日英記者交流でイギリスを訪問した際に、チルドレンズ・エクスプレスの姉妹団体であるHeadliners(ヘッドライナーズ)の記者とユースワーカーたち14名(ロンドン局7名、ベルファスト局4名、フォイル局3名)、さらに日本の若者34名に取材をした。それを通して見えてきた「リーダーシップ」についてまとめた。
可能性の引き出し
日本には、「出る杭は打たれる」という諺にもあるように、周りの空気を読むという文化が存在し、「リーダーをやりたい!」と宣言することで周りから浮いているように思われる風潮がある。皆で一緒という意識が強いのだ。そのためか、実際には学校でリーダーシップ教育が行われていないことが多いようだ。日本の若者34人に「リーダーシップ教育を受けたことはあるか」と質問をすると、「ない」という回答が多かった。
これに対し、イギリスではリーダーシップ育成プログラムが盛んで若者たちは自ら進んでリーダーの役割を経験していた。ロンドンデリーにあるフォイル局のキティー(17)は「私はドラマの監督をやった。皆がわかってくれないときに、仲間のやる気を引き出すことが大切だ」と語った。またロンドン局のプレシャス(17)は「バンク・オブ・ユーロのビジネスプログラムでリーダーに選ばれ、公平であることの大変さを学んだ」という。
イギリスで様々なリーダーシップ育成プログラムを実施している団体Changemakersにもロンドンで取材をした。同団体は1994年に教育者らによって設立され、信頼、知識、異端児、愛情、勇気という“5つの価値”をベースとしてリーダーを育成するプログラムを行っている。2泊3日のキャンプやプロジェクト、121のコーチングセッション、スキル育成期間を含む3ヶ月のリーダーシッププログラムがあり、対象年齢は16歳から25歳に絞っているという。スタッフのスラッジ氏は「16歳は個性が発達する時。自分についてわかり始める。だから16歳からを対象にしている」と説明する。また、「リーダーシップは元来自分の中から始まる。潜在能力を引き出し、自分を信じることで発揮できる」と語った。16歳で個性が芽生え、その時期にリーダーシッププログラムを経験することで、リーダーシップについて自分なりの定義を行い、自覚することにつながるのだ。参加した若者には、これらのプログラムを通して、自信、コミュニケーションスキル、影響力、自己動機付け、認識などを学んでほしいという。そして、「リーダーシップスキルは短期間で身に付くが、それをどんな状況でも発揮できるように育むことが大切だ」と話す。リーダーシップを育成する過程では、可能性を気づかせて引き出し、それを維持していくことが大切なのかもしれない。
グループ学習
日本との比較でスラッジ氏は授業のやり方の違いをあげた。イギリスやアメリカの学校授業ではグループ学習が多くとられている。それに対し日本は個人学習がほとんどである。フォイル局のグレイス(18)は「グループ学習はやりがいがあるし、自信とリーダーシップを身につけることができる」と話した
リーダーはサポーター
リーダーに必要なスキルについてイギリスと日本の若者たちに聞いたところ、コミュニケーション能力、動機付け、誠実さ、グループを良い方向に導くこと、妥協、統率力という意見が共通して多かった。そしてリーダーときいて想い浮かべる人は女王、首相、生徒会長などがあがった。
そのなかで新たなリーダー像も見えてきた。ベルファスト局のナオミ(18)は「リーダーは皆をサポートする役割がある」と従来のリーダー像である皆を引っ張る人ではなく、支援するというポイントをあげた。Changemakersのスラッジ氏も「リーダーはまず仲間をサポートし、助言を与え、合意を形成していくことが必要だ」と語っている。力で上から指示するようなリーダーではなく、相手の立場にたって考え、コミュニケーションを通して、仲間をやる気にさせる。そして皆をサポートしながら、的確な方向に導いていくリーダーである。
そもそもリーダーシップとはリーダーだけに必要なことなのであろうか。ロンドン局のイスメール(21)は「将来、自分の子どもに何かを教え、育てていくにはリーダーシップが必要なのではないか」と身近なことにリーダーシップの必要性をあげた。またフォイル局のキティー(17)は「グループの中で誰もが色々な方法でリーダーになれる」と話す。これらは「リーダーシップは身近なことから始まる」というChangemakersのスラッジ氏とも重なる。
リーダーシップの可能性
「リーダーシップはリーダーシップ教育がなくても育つ」とナオミ(18)は語る。学校でのグループ学習やディスカッション、そして友達関係などでもリーダーシップを身につけることができるという。つまりリーダーシップとは日常生活で行っていることに直結しているのだ。スラッジ氏はリーダーシップについて「一生の旅」と笑顔で締めくくった。私たち若者にとって本当に大切なことは、毎日の生活を自分でリーダーシップを育む機会にしていくことではないだろうか。そして「リーダーシップって何だろう」と考えていくことが、真のリーダーシップ教育なのかもしれない。