大久保里香(18)
大学新卒者にとって厳しい雇用状態が続いている。 文部科学省の「学校基本調査」によると、 2010 年春に4年制大学を卒業した学生の就職率は 60.8 %で前年より 7.6 ポイント下がっている。 3 、 4 年生になると就職活動に費やされる時間によって大学の勉学に集中できない一方で、就職が決まらない人が毎年多く現れてしまうという事実は大学生にとって非常に気がかりなことだ。卒業までになんとしてでも就職先を決めようとする背景には、日本の企業の “新卒一括主義”が関わっているのではないだろうか。日本学術会議「大学教育の質保証の在り方検討委員会」委員長の北原和夫氏とリクルート・ワークス研究所の徳永英子研究員に取材した。
日本では多くの企業で新卒採用を重視する新卒一括主義を取り入れている傾向にある。厚生労働省の 平成 19 年企業における採用管理等に関する実態調査によると 新規学卒者枠で正社員を募集するにあたり、既卒者の応募受付状況は「応募可能だった」が 41.1 %、「応募不可だった」が 11.8 %、「採用の計画がなかった」が 46.8 %となっている。企業規模別にみると、企業規模が大きいほど「応募不可だった」企業割合が高くなっている。つまり、新卒で就職先が決定しなければ次年度の就職活動が一層困難となる。
日本学術会議は政府に対して卒業後3年程度は学生が新卒として就職活動が出来るよう提案をしているそうだ。新卒枠に応募できる人の数が増えるので競争は激化する可能性はある。しかし、1年目で自分の就きたい職業で就職が決定しなかった人にとっては大きなチャンスとなるだろう。なぜ、新卒一括主義を緩和させるような提案を出したのか北原和夫委員長に尋ねたところ、「学生たち に は新卒で就職先を決めてしまいたいという気持ち があり 、3年生の後半から何十枚もエントリシートを企業に出し、とりあえず就職しようとする。これでは、大学で学んだ専門的な知識を生かせないという人が多く出てきてしまう」と語った。
しかし、単純に新卒一括主義が中止、あるいは緩和されれば問題が解決されるというわけではない。人材マネジメントや労働市場の研究を行っているリクルート ・ ワークス研究所の研究員、徳永英子氏は、「就職の競争倍率は新卒という制限がなくなるため、逆に新卒者にとっては就職活動が困難になるという可能性がある」と語る。
一部の大学では、学生の就職活動のために卒業の延期を通常より安い学費を支払うことで認めている。新卒者枠での就職を目指している大学生には非常に魅力的な制度かもしれない。しかし、この制度をなぜ利用するに至ったかという明確な理由を持たず に 利用しても、あまり意味はないのではないだろうか。一概に新卒一括主義の悪い面ばかりを取り上げて非難することはできない。
徳永氏は「企業はなぜ学生が一年卒業を延期したのかを必ず面接で問うはずである。この際に、明確な理由を答えることが出来なければ企業に採用されるのは難しいだろう」と語った。つまり、新卒枠と中途採用枠のどちらで採用を希望するにしろ、学生自身が自分の将来に対してはっきりとした目的意識を持たなければ就職活動は成功し得ないのだ。
北原氏と徳永氏の両人ともに「自分の将来をしっかりと視野に入れて大学の学部選択を行うのが理想的である」という見解を示した。つまり、大学に入ってから真剣に自分の将来について、職業について考え始めるのでは遅いのである。小さい頃から働くということを考えるきっかけを親はもちろん、地域や学校で与えることは非常に重要である。
企業としても、どこにでも就職できればよいと考えている学生より、その企業に就職するため、その職業に就くために努力してきた学生を採用したいと考えるはずだ。将来の目標を決め、そのために学生時代によく勉強をすることが結果的に就職活動での成功につながっていくのではないだろうか。