2008/03/05
藤原 沙来(18)
日本で Gap Year と聞いて分かる人はほとんどいないのではないだろうか。一方、英国では Gap Year は知らない人はほとんどおらず、利用する人が多いという。
Gap Year とは、高校卒業後に大学を1年間休学して日常生活では経験できないような体験をするプログラムのことである。大学に進学する前の1年間、ボランティア活動や旅行を通して人生経験を積むことで、正規の教育だけでは得られないものを補うことができるとしている。日常生活では味わうことのできない貴重な体験ができる期間にもなり、将来社会を担っていくことになる学生にとっては有意義な経験となりそうなプログラムである。
ところが、日本ではあまり知られておらず Gap Year のような期間を経て大学に進学する人はほとんどいない。
「日本人のいない環境で、さらに現地の人とコミュニケーションがとれるような方法によって海外で暮らしてみたかった」。日本人で Gap Year に参加した石川桃子さんは、ボランティアに関する本を見て Gap Year を知り、大学卒業後に11カ月間、英国で知的障害を持つ子どもたちの寮で働いた。主に寮で子供たちの遊び相手になったり、食事の介護やお風呂に入るのを手伝ったりするといったプログラムには、1年間大学を休学して参加した日本人と高校卒業後参加していた他国の人の計3人だったそうだ。
「最初は言葉が通じないことから疲れて大変だった。でも、徐々に地域の人となじめて英語も話せるようになった。人間として成長できて、自立心が育つというメリットがある」と Gap Year の魅力について語った。しかし、「日本で浸透しない一番の原因は日本の受験制度だと思う。他にも、ホームページ・手続きなどはすべて英語であることや現地に日本人スタッフがいないのも理由かもしれない」と魅力的なプログラムであるのにも関わらず日本で広がらない現状を残念に思っているようであった。石川さんは、「経験と学業の順序はどうでもよくて、人間として自立して成長する過程の1つの手段として Gap Year は忘れられない経験」と改めて Gap Year の面白さを強調し、「日本の大学がこのプログラムに理解を示して猶予を与えてくれるよう変わったら日本でも浸透していくと思う」と今後の発展に期待していた。
英国人で Gap Year に参加した Anna Pinsky さんは高校卒業後に6ヶ月間、日本で身体障害を持つ人たちのボランティアの介護スタッフとして働いた。「新しいスタートをきるために。そして、自分とは違う立場の人を理解できるようになるために挑戦をしたかった」ことから色々と調べ、 Gap Year に参加したと言う。 Pinsky さん同様、高校卒業後の3人の英国人とともに日本で、様々な場所にわかれてボランティア活動をしたそうである。「学校を出て初めて大人と同じ立場での仕事であったこと、さらに、言葉が通じなかったことで最初は疲れたが、3ヵ月もすれば全く違う文化・世界に触れることを楽しく感じた。 Gap Year に参加したことは非常に有意義で、大学生活の中で、今しかできないことをやって時間を有効に使おう」と感じたという。
日本で Gap Year が浸透していないことに関して、「日本でボランティアをプラスの評価としてもらうのは難しいと思う。日本の教育が変われば少しは浸透していくのでは」。また、「英国では self solving (自己解決力)は評価される。一方、日本では社会に出てから、人間育成をされる過程で個人が形成され、それが評価の対象となる」。日本と英国の社会で求められることが違い、日本では Gap Year などでの経験を英国ほど重要視されないことが浸透しにくい要因だと考えているようだ。
英国では、5歳から16歳までが義務教育で、大学への進学を目指す人はその後2年間、大学進学に必要な全国統一試験のための教育を受ける。この試験の結果によって大学が決まり、同時に Gap Year に参加する場合は申告さえすれば国が学費を負担してくれるため、いつでも進学することは可能だ。日本では、受験に追われ大学卒業後は就職と Gap Year に参加する時間さえほとんどない。
英国では、ボランティア活動などによって養われる自立性や協調性、自己解決力が求められる。日本では、個人の経験よりも、いかにそれぞれの会社や企業に順応するかが求められる。こういった違いから日本では Gap Year が浸透しにくいのだろう。 Pinsky さんが言うように、経験してみないと分からないことはたくさんある。将来、自分は何をしたいのか、何に興味があるのかは大人になってからでは遅いと思う。国際化が求められている今だからこそ、1人前の人間としての成長や自立心の育成のために新たな経験の重要性を訴えていきたい。ぜひ、今後日本人の学生が社会と自分を客観的に見る機会として導入して欲しい魅力的なプログラムである。