記者:原衣織 (17)
2008年6月11日、「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」が成立した。この法律は、携帯電話業者に対して、保護者からの不要の申告がない限り18歳未満の利用者すべてに有害なサイトへのアクセスを制限する「フィルタリングサービス」を適用することを義務付けるものだ。
確かに今日の日本では、出会い系サ イトなどインターネットを通じて子どもが犯罪に巻き込まれる事件が相次ぎ、いかに子どもを有害な情報から守るかということが問題となっている。しかしこの ようなフィルタリングサービスを適用すると、そのサイトの危険性の有無を子どもが自分自身で判断できなくなってしまうのではないか。
フィルタリングサービス以外に有害サイトから子どもを守る方法はないのかどうか。フィルタリングサービスを提供している株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモと、国がフィルタリングに介入する ことに反対している慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉氏に取材した。
現在、有害なサイトという線引きは誰が行っているのだろうか。その認定をしているのは、「EMA( Content Evaluation and Monitoring Association )」
「I – RO I ( Internet-Rating Observation Institute )」という二つの第三者機関だ。二つの判断機関が存在することで権力集中を防ぐことができるといい、「その認定権限を国が持つのは危険だ」と両者とも反対の見方を示す。
しかし、現在のフィルタリングでは各種検定のサイトや塾のサイトまで制限されており、「不便だ」などの不満の声もある。この疑問に対し中村氏 は、「現在のフィルタリングはきめが粗く、完全なものではない。あくまでも少しだけ安全にするものにすぎない」と話す。
一方、 ドコモ は「悪質なサイトがフィルタリングをかいくぐるためURLを変えたりすることはあるが、ネットスター社という会社が24時間体制で監視しており、多少のタイムラグはあっても子どもがそれよりも早く見つけることはほとんどないのではないか。」と話す。
フィルタリング以外に有害サイトから子供を守る方法はないのかという疑問に対しては、両者とも情報リテラシー教育をあげる。
ドコモ は、 小・中・高・保護者・教員などを対象として「ケータイ安全教室」を開き、講師を派遣しているという。そのような教育をしているのならフィルタリングはいら ないのではという疑問には、「リテラシー教育は即効性に欠け、社会的認知まで時間がかかるため、まずはフィルタリングを行うことで多様なニーズに答えるよ うにしている」と話す。 また 、 中村氏 は「携帯やインターネットのことは、若い世代よりもその親の世代の方が分かっていない。だからこそ危ないと感じ不安になる」といい、親や学校の先生に対する啓発の重要性を強調する。
保護者がフィルタリングを利用して 子どもにとって「安全な」環境を確保する、それは一見問題がないように思える。しかし子どもはいつまでも子どもではなく、親がいつまでも管理できるわけで はないのだ。フィルタリングによって受け取る情報を管理されてきた子どもは、「有害な」情報に触れてきていない分、有害か無害かを自分で判断する眼を養い にくい。そういった子どもたちが大人になったとき、危険に巻き込まれる可能性はむしろ高いのではないだろうか。
そうならないためにも、保護者はインターネットをただ「危険」なものだとみなして一方的にアクセスを制限するのではなく、ネットについての正しい知識を子供に与えるよう努力すべきだ。その上で、それぞれの家庭でネット社会に対応するルールを作っていけばいいのではないだろうか。