富沢 咲天(17)

 ODAというと、漠然と先進国が途上国を手助けするというイメージを持つ人が多いのではないだろうか。そもそもODA(政府開発援助)とは政府または政府の実施機関によって開発途上国の経済、社会の発展や福祉の向上に役立つために行う資金・技術提供である(外務省HPより)。資金を贈与する無償資金協力や、円借款と呼ばれる低金利で返済期間の長い緩やかな資金協力、そして日本の技術や技能を伝える技術協力がある。日本は1954年から継続してODAを行い様々な国々に人材・物資・技術・お金を提供してきた。しかし不況で日本の経済が落ち込んでいるなか、国内にこそお金を使うべきではないかという意見がある。ODAは今、本当に必要なのだろうか。

外務省の杉村氏を取材

 外務省のホームページによると、一般会計ODA当初予算額は1997年の1兆1687億円をピークに減少している。2012年度の予算額は5612億円とピーク時の半分以下だ。

 外務省国際協力局政策課の杉村奈々子氏は「日本のODAを、国際社会の基準(対国民総所得比)で見ると、世界の他の国々に比べて少ない」と指摘する。世界的に見るとODAを行っている国でこの数字が日本より小さい国は韓国とギリシャしかない。しかも現在韓国はODAの増額に力を入れているので、日本が追い抜かれるのは時間の問題だそうだ。だからといって政府が出せるお金は限られているので「NGOやNPO、国際機関、企業などとうまく連携し、お金を無駄遣いせず効率よく使う必要がある」と杉村氏は語った。

 さらに、日本のODAは決してバラまきではなく戦略的であると杉村氏は強調する。例えばマレーシアに大規模な国際・大水深港を建設したが、それはマレーシアの液化天然ガスや、携帯電話などに必要なレアメタルを日本に輸出するためでもあるという。
 中国は今や日本を抜いて世界第2位の経済大国だが、そんな中国に金額は少なくなったもののいまだにODAを続けているのはなぜか。それは環境問題などを解決するにあたり、まだまだ日本の技術が必要とされているからだという。中国の環境汚染は深刻で、汚染物質は風に乗って日本にも影響が及んでいる。対中国のODAで重点的に行っている事業は大気汚染、黄砂など直接日本に悪影響をもたらすところに絞ってやっているそうだ。他国を援助することで日本にも良い結果をもたらす一例と言える。

 杉村氏は「ODAに対する様々な意見があることは承知している。国民がちゃんと判断できる材料がみんなに届いているのかをよく検討する必要がある」と語る。多くの日本人はODAが日本にとってどのような利益があるのかをよく知らない。このため最近「見える化サイト」(JICAホームページ)が立ち上げられた。杉村氏は「ODAの評価や効果をきちんと示して国民の理解を得る。ODAに関心のない人にも興味を持ってもらい、すでに高い関心を持っている人たちには、彼らが必要とする情報が伝わるようにしたい」と述べた。

難民を助ける会の穂積氏を取材

 ではNGOにはODAはどのように映っているのだろうか。特定非営利活動法人「難民を助ける会」は寄付金だけでなく、ODAからも活動資金を受け取り活動している。シニアプログラムコーディネーターの穂積武寛氏は「NGOは一つ一つの団体がやっている事業規模は政府と比べると小さいが、パッと素早く動くことができることが強み」と言う。バラまきとの批判の反省から、政府は日本NGO連携無償資金協力(以下N連)という仕組みを作った。NGOの会費や寄付金は、財源として不安定なため収入が予測できず、大きな事業を計画しにくい。しかしN連 を利用すれば、承認された金額は確実に受け取ることができるので大いに役立っているそうだ。

 途上国がいつまでも援助に頼らず自立していくためには、資金調達や事業運営を自分たちで行う能力をつけてもらうことが必要である。難民を助ける会では地雷処理やエイズ予防の啓蒙活動のために現地人のスタッフを訓練し彼らに行ってもらっている。また、一人一人のニーズに合った車椅子を作るための技術を教え、事業を行うための資金調達のアドバイスなどの支援もしている。「国やNGOが援助を行わなくてもいい日が来るのが究極の目標。その日までは支援を続けたい」と穂積氏は語った。

 「ODAはsolidarity(連帯責任・連帯意識)だ」と強調するのはアフリカ・アンゴラ共和国大使館公使参事官のミゲル・ボンバルダ・ダ・クルーズ氏だ。アンゴラは2002年まで内戦が続き、経済的にも国を安定させるため支援を必要としている。アンゴラの主な産業は石油やダイヤモンドなどの資源関連で世界中に輸出している。しかし「石油はいつかなくなってしまうから産業を多様化する必要がある」と言う。アンゴラは資源に大変恵まれている国だ。およそ30種類ものレアメタルがあり、水資源が豊富で広大な国土は気候も良い。将来は大規模農業を行い、食糧を自給自足し、そして農産物を世界に輸出できるようにすることが目標であるという。ボンバルダ・ダ・クルーズ氏は「この大規模農業では日本の技術が使われるだろう。将来アンゴラが安定して平和を構築した時には、日本が困ったことがあったら必ず助ける」と語った。

 現在のODAは与えるだけの一方通行の支援ではなく、日本にも利益をもたらすようになっている。支援する側とされる側の両方が得をすることにより、世界の経済、環境、生活、治安、衛生などが少しずつ向上していくのではないだろうか。共に生きていく世界の仲間として、政府とNGOが協力してODAをうまく活用することもこれからますます必要になるだろう。