坂本光央(10)

 皆さんは、『聴導犬』という犬を知っているだろうか。聴導犬とは、耳の不自由な聴覚障害者を補助する犬のことである。普段ほとんど見かけない聴導犬だが、具体的にはどんな仕事をしているのだろうか、どのような訓練をしているのだろうか、8月18日に社会福祉法人日本聴導犬協会八王子支部で、日本聴導犬協会会長の有馬もと氏と利用者の村澤久美子さんに話を聞いた。

目覚し時計を使ったデモ

 聴導犬は、もともと、1966年にアメリカのデトロイトで生まれて、その後、日本では1983年に聴導犬第一号が誕生した。

 有馬会長の話では、聴導犬は、聴覚障害者に八つの音(料理タイマーや警報機の音)を利用者に教えるように訓練されているが、生活の中で八つの音の他にも、利用者の必要な音を聞き分け、教えるようになるという。さらに例えば、利用者が目覚まし時計をセットするのを忘れても、聴導犬の方が習慣を理解しているので、いつも起きる時間に起こしてくれる。

 聴導犬を利用する村澤さんによると、以前は、鍵を落とした時、近くの人が気付いてくれて、声をかけられても気付かなかったという事や、湯を沸かし過ぎても気づかず、匂いがし始めてから気づくという事もあったという。しかし、聴導犬が来てからは、湯が沸いた音が鳴ると、自分の前まで来て音が鳴ったところへ連れて行ってくれるという。聴導犬がいることで、一緒にいるだけでも安心できるし、助かっているという。

 聴導犬の服の色はオレンジ色で、はぐれた時に見つけやすくするためである。さらに、服には聴導犬だという事を証明するためのIDコードがついていて、これは聴覚障害という『見えない障害』に気付いてもらうためでもあるという。

有馬会長に取材

 有馬会長の説明によると、このような仕事をする聴導犬の候補犬は、捨てられて、保健所や動物愛護センターに送られた犬から選ぶという。捨てられてきちんと世話をしてもらえなかった犬を補助犬に育てるのは愛情と時間がかかるが、一頭でも多くの犬を救い、障害者の良きパートナーに育てたい、これが日本聴導犬協会の設立当初からの基本理念なのだ。訓練法は、保健所などで候補犬選びをして、ソーシャライザーと呼ばれるボランティアの家で2~8ヶ月育ててもらい、社会のマナーを教える。その後、本当に適性があれば、訓練をし、最終試験に合格すると、ようやく聴導犬になることができる。最終試験では、電車・バスなどの乗車、スーパーでの買い物など十一科目があり、電車・バスの乗車の試験の時には、車内で空き缶を転がしたり、わざと物を落としてその反応を見るというのがあるそうだ。訓練では、決して叱らずに、できたらほめる。音を教えると褒美がもらえる、と考えるようになるそうだ。また、聴覚障害者は話せないこともあるので言葉で命令しないで、手で指示する訓練をしている。こうした訓練で、聴導犬になれるのは、実は、600頭に1頭だという。

 日本聴導犬協会では、このような訓練のほかに、聴導犬の無料貸与とアフターケア、身体障害者支援、地域貢献など、色々な仕事をしている。

 聴導犬は、日本全国で52頭(2013年8月現在)しかいない。これには、『聴導犬』というものが世間に知られていない、又は借りたいけれど職場の協力が得られないという理由が挙げられる。なぜなら、聴導犬を借りる条件の1つに、日中も聴導犬の介助が必要な人しか飼えない、と書いてあるからだ。しかし、聴覚障害者でも、ペット犬と暮らしている人なら、家の中で3種類の音を教えてくれる『聴力お手伝いペット犬』になれる訓練方法を無料で教えてくれるそうだ。

 聴導犬の実働頭数を多くするには、知る人が多くならなければならない。日本聴導犬協会も普及活動をしているが、借りた人が、それと同時に広報もしなければいけないそうだ。
聴導犬を知り、借りることが出来ても、一般市民に知られていないがために、飲食店やスーパーには入れないことがある。そういう時には、ユーザーにも説明義務があるが、それでも理解してもらえなかったときは、日本聴導犬協会はアフターケアとして説明してくれるそうだ。 聴導犬は、盲導犬や介助犬と違いあまり知られていない。しかし、日本聴導犬協会の努力により、聴導犬を知る人が増え、普及にもつながることを期待したい。


聴導犬の今

前田佳菜絵(12)

 町で補助犬の募金活動などをよく目にする。だが視覚障害者の補助をする「盲導犬」を知っている人は多くても、聴覚障害者の補助をする「聴導犬」を知っている人は少ないだろう。日本聴導犬協会八王子支部で話を聞いた。「聴導犬は聴覚障害のある人の体にタッチして日常生活の音を知らせる犬です」と日本聴導犬協会会長の有馬もとさんは言う。デモンストレーションしてくれた犬は、目覚まし時計の音や警報機の音をCE記者の体にタッチしたり「ふせ」をして教えてくれた。
  
 日本聴導犬協会が設立されたきっかけは、保健所が犬や猫を処分していることの批判をかわすためだと有馬会長は言う。そのため、今でも保健所で保護された犬が聴導犬になっている例が多い。だが保護犬の中でも人間が大好きなことなどの素質がある犬は300頭のうち1頭だと言う。

利用者の村澤さんに取材

 厚生労働省の調査によると、日本聴導犬協会に取材をした8月時点の聴導犬の実働頭数は52頭だという。これは「盲導犬」の約二十分の一、身体障害者の補助をする「介助犬」の六分の五だ。聴覚障害者の数と比べると、やはり聴導犬は圧倒的に不足しているという。また、都道府県ごとの実働頭数も10頭の県がある一方で、1頭もいない都道府県も多い。その対策について有馬会長は「仕事などの関係上聴導犬を借りることができない人もいると思いますが、実際に聴導犬を借りている(借りていた)人が耳の不自由な人に『聴導犬はいいよ』と広めてもらわないとなかなか普及しません」と言う。現在、世界で一番成功している英国聴導犬協会も、最初のユーザー50名が広報活動を引き請けて、聴覚障害者へのPRをしてくれるようになってから頭数が増えたそうだ。日本聴導犬協会も今年度、12名の元聴導犬ユーザーと聴導犬の協力のもと「全国聴導犬普及キャラバン」をおこなっているという。
   
 最後に有馬さんは、訴えるように「耳が聞こえない人は孤独なんです。家族などと話していても話についていけず孤独感を味わうことがあるんです。聴導犬は癒しです。音を知らせてくれるだけではありません」と語った。

デモが終わってごほうびを待つ聴導犬たち

 実際に聴導犬と生活している長野県の村澤久美子さんにも取材をした。聴導犬のことは新聞で知って、村澤さんが指導している手話のサークルで日本聴導犬協会のデモンストレーションを見に行ったそうだ。
 
 だが、村澤さんは当時精密機械の会社に勤めていて 、聴導犬を会社に連れて行くことができず、聴導犬を借りることができなかったため、家の中のみで音を知らせる「聴力お手伝いペット犬」を借りた。しかし、日本聴導犬協会に転職して、今の聴導犬「かるちゃん」との生活を始めることができたそうだ。今は、かるちゃんに目覚まし時計の音やキッチンタイマーの音、職場でのドアノックの音などを教えてもらっているそうだ。

 今でも日本聴導犬協会からアフターケアを受けている村澤さん。最後に聴覚障害者に「聴導犬は道具ではありません。大事な家族です。聴導犬と生活を始めることで、今までにない安心が得られ、リラックスできるのは、聴導 犬と生活して初めて分かることなんですよ。一人でも多く の耳の不自由な方に、聴導犬との生活で、安全と安心を得てほしいです」と語った。
   
 盲導犬や介助犬が活躍している中にも聴導犬を必要としている聴覚障害者が確かにいる。広報活動などを続けている日本聴導犬協会の人、募金をしている一般の人がいる。そのことをこの取材で強く実感した。これから、聴導犬がもっと社会に広まること、障害者や補助犬が暮らしやすい社会になることを強く願う。