須藤 亜佑美

 ほとんどの人は、同性愛者などのLGBTの存在を知っていても、実際自分の周りにいるとは全く思っていないため、恋愛について話すときは、女性には当然のように「彼氏がいるの?」と聞き、男性には「彼女がいるの?」と聞く。2015年の電通ダイバーシティラボによるアンケート調査によると、LGBTと称する人の割合は7.6パーセントまでにも及んだ。つまり、知り合いが100人いれば7人は自分をLGBTと判断していることになる。しかし、多くの人はLGBTへ配慮のない発言をし、そのような言動によって構成される環境が「異性愛の男性」「異性愛の女性」という枠に入らない人々を苦しめていることを知らない。

土井代表を取材する須藤記者

 2015年11月5日、東京都渋谷区と世田谷区でパートナーシップ証明書が発行され、戸籍上の家族ではないことを理由に同性カップルを差別することができなくなった。このように、徐々にLGBTの存在と権利が認められてきている一方、日本の同調性を重んじる社会の中で苦しんでいるLGBTが多いのが現実だ。2007年の厚生労働省のエイズ対策研究事業の成果報告によると、LGBTの3人に2人がこれまでに自殺を考えたことがあり、14パーセントは実際に自殺未遂の経験があるとの結果が出た。どうしてLGBTはこれほど生きづらい状況に置かれているのか、身近な学校環境に焦点を当てて実情を探ってみた。

愛澤亜紀さんを取材

 まず、LGBTの子ども達は学校でどのような環境に置かれているのか。人権を守るために活動するNGO、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の日本代表土井香苗さんに取材をした。LGBTの生徒たちが置かれている状態について、土井さんは「LGBTの生徒は、まず自分自身を受け入れること自体が困難」という。教科書では異性愛が前提となっていたり、LGBTに対する差別発言が気兼ねなく言い交わされていたり、着る制服は生まれつき割り当てられた性によって決められるのが当然と思われる中で、LGBTの生徒は他人に自分の性的指向や性自認について打ち明ける以前に、これを恥とする自分の心と戦わなければいけないのが現状なのだ。

 当事者の意見を直接知るために、LGBT当事者という自覚を持ちながら学校生活を送り、現在愛知県の女子大生であるりぃなさん(仮名)に経験を語ってもらった。りぃなさんは、小中学校で徐々に自分の女子に対する恋愛感情に気づくようになり、「多分レズビアン」だそうだ。しかし、同性愛は非常にネガティブなもので日本には存在しないと思い込んでいたため、「悪いことをしてしまう自分が大嫌いだった」と語る。りぃなさんにとって転機となったのは、高校の時に参加したLGBT当事者のサークル活動であった。「異性愛の女性」や「異性愛の男性」という枠に当てはまらない人が意外と多くいることを知り、少しずつ自分をありのままで受け入れられるようになったそうだ。

 しかし、りぃなさんは自分の性的指向について依然としてオープンになることができない状況に置かれている。高校の時は、生徒に加え先生までもがLGBTに対して差別的な発言をし、学校に行くこと自体を苦痛に感じたため、親しい友達以外には自分の性的指向を隠したまま卒業した。現在も、LGBTに対して批判的な意見を述べる人が周りにいるため、自分の性的指向については何も言っていない。自分を隠しながら生きることは、とても苦痛だという。りぃなさんが特に居心地が悪いと感じるのは、ほとんどの人は全員が異性愛者だと思い込んでいることだ。「LGBTかどうかは見た目だけでは分からないんです」とりぃなさんは訴えるように語った。

 LGBTの生徒の抱える問題についてより広い範囲での理解を得るために、発達の凸凹を抱えている子どもたちを支援する学習教室の運営などをしているRaccoonの代表で早期発達支援士の愛澤亜紀さんにもインタビューをした。愛澤さんは今まで多くのLGBTの生徒のカウンセリングを行ってきた経験を持ち、今回は様々な事例について聞くことができた。最初の例は、35歳でゲイのAさんについてだ。Aさんは中学・高校のときは男子校の一貫校に通い自分の性的指向を隠していたが、やがて行動や仕草がおかしいと周りの人に言われ、机に落書きをされるなど悪質ないじめに遭った。高校と大学を卒業し自分の会社を運営している今は、愛するパートナーを見つけることができたものの、未だ家族には自分の性的指向については打ち明けることができていない。自分の気持ちを隠し続けながらいなければいけないことが大きなストレスになっており、精神状態が不安定なため摂食障害を抱えている。

 次に、現在20歳で性同一性障害のBさんは男の子として生まれたものの、幼い頃から女の子の服を着たがり、サッカーをするときもボールが怖くて逃げるような子どもであった。周りは女の子らしいBさんを異質な存在として扱い、性的ないたずらもされたため学校にいけなくなり、食べることや歩くことが困難になってしまった。学校にいじめについて問い合わせても「できる対処はしました」というのみで、根本的な解決には遠かった。それでも、学校には行きたいと願ったBさんは、徐々に親の理解を得ることができ、最終的には高校も卒業することができたそうだ。他にも多くのケースがあるが、「全てに共通するのは学校環境の空虚な『調和』により異性愛の『男性』『女性』という枠に当てはまらない性的マイノリティーが苦しめられているということだ」と愛澤さんは指摘する。

 LGBTにとってより良い学校環境を作り上げるには何が必要なのだろうか。いじめをしてはいけないということは大前提として、LGBTを卑下するようなことを言わないことが大切だ。りぃなさんは「記事を読んでいるあなたと同じ教室にも当事者はきっといるだろうし、近所や職場にもいる。それを念頭に入れて、差別発言をしないことだけでも、LGBTの人にとってより過ごしやすい環境が作られる」と語る。目では見えないかもしれないが、LGBTは確実に周りにいる。LGBTへの差別は他人事ではないことを、より多くの人が認識していくことを期待したい。
*LGBT:L=レズビアン/女性同性愛者、G=ゲイ/男性同性愛者、B=バイセクシュアル/両性愛者、T=トランスジェンダー/生まれた性別と異なる性別で生きる人