特定非営利活動法人ジェンの木山啓子氏に聞く

記者:林遼太朗 Ryotaro Hayashi (17歳)

2024年12月24日、東京都港区赤坂にあるJENの事務所で取材を行った。私は小さい頃から父親の影響で映画『スター・ウォーズ』を鑑賞していている中で「共和国はなぜ争うのだろう」という問いが生まれ、次第に「現実世界でもこんなことが起こっているのだろうか」と疑問を持つようになった。また2024年の3月に日テレの報道インターンに参加して、戦場での取材に従事された記者の方々から話を聞いたこともある。これらがきっかけで、国際情勢、特に紛争やテロについての関心が深まった。今回、JENの事務局長を務めている木山啓子氏にお話を伺い、NGOやJENのこと、これからの課題や若者に向けたメッセージなど貴重な話を伺った。

JENについて

まず特定非営利活動法人とはどういう組織ですか?

JENの事務局長 木山啓子氏

木山啓子氏(以下木山氏):特定非営利活動法人は、「特定の目的のために働く集団」と言うと分かりやすいです。JENの場合は、紛争や災害で厳しい状況にある人たちのサポートを行うプロフェッショナルなスタッフの集団です。私たちは非営利組織(NPO)であると同時に、非政府組織(NGO)でもあります。非政府とは言っても政府機関と働かない訳ではなく、国連、政府関係者も含め様々な人達と協力し合って活動しています。

JENは国際紛争や自然災害について現地の人の心のケアや自立支援等を行っていますが、支援活動について具体的に最新の情報を教えてください。

木山氏: 紛争や災害で厳しい状況にある人たちの支援をしていますが、復興には時間がかかります。世界中の支援が圧倒的に足りないので、一度支援をした後にその支援が後戻りしないよう継続的な効果が生まれる形でのサポートとなる事が大切です。例えば、食料を配って、被災者が一時的に緊急事態を脱している間に、彼らが食料を自給自足できるよう農業支援をする等の支援を行っています。

 世界中で災害、紛争が多発し、被害の規模が大きくなり、支援を必要とする人が残念ながら増え続けていて、現状では世界中の支援家、団体、国連の支援活動を全部足しても、最低限必要とされる量のやっと半分にしかなりません。そのため同じ支援を何度も提供し続けなくても済む様、緊急事態にあっても自立を支えていくことを大事にしています。

UNHCR Global Trends 2023(画像提供:JEN)

現在力を入れている活動についても詳しく教えてください。

木山氏:「忘れられがちな人びと」への支援を行っています。例えば、ウクライナやガザ地区とは異なり、ほとんど報道されない地域の状況は知られることが少なく、そのため支援が集まらず、復興が進みません。私たちはメディアの注目の多い少ないにかかわらず、厳しい状況にある人びとをサポートし、支援を必要とする人たちを減らすことを目指しています。

 具体的にはアフガニスタンとパキスタンとトルコでの活動に力を入れています。アフガニスタンでは40年以上にわたる様々な紛争や自然災害の被災者、パキスタンでも武力衝突や洪水の被災者、トルコではシリア難民の受け入れ支援と地震災害の被災者の支援を行っています。

国際協力に関わるきっかけ

個人としてこれまでの道のりを教えてください。

木山氏:大学卒業後に先輩が紹介してくれた会社に入って、その会社で男女の扱いに差があった事を社長に抗議したのですが、全く聞き入れられませんでした。そこで、「説得力のある言葉を持つ人になるために勉強したい」と留学して修士号を取得しました。帰国して普通の会社に勤めていた時、親友に「世界中で大学に行ける人は5%もいないのに、大学院まで行ったあなたが普通の仕事をしていてはいけない。国際協力をして世界に貢献しなさい」と叱られました。JICA(独立行政法人国際協力機構)の下請け会社で働き始め、その後現場経験を求めてNGOに入り今に至ります。

ご友人は国際情勢や難民に興味がある方なんですか?

木山氏:はい。その方は留学先にフィリピンを選ぶなど世界の課題に目を向けて実際に活動していて、当時から尊敬していた親友でした。現在でも会って社会課題や人権などについて話し合うことが多いです。彼女がいなければ私は今の仕事に巡り合えなかったので、一生感謝し続けます。

難民支援の課題と多様性への配慮ーDO NO HARMの原則

現地で印象的な経験や記憶に残る出来事はありましたか。

木山氏:現地の方は自信を無くしてとても無力に見える時があります。地震や洪水や紛争の様に、自分のせいではない出来事によって家や家族を失ってしまったにもかかわらず、自信を無くされているのです。ですが、どんなに無力に見える方でも復活できる底力があり、その底力を引き出すことを一番大切にしています。無力に見えた人々が、ほんのわずかな支援によって自信を取り戻し、生活を再建されていく力強い姿が記憶に残っています。

 また、日本の災害の現場でも起こることですが、難民の方々が避難される時、近隣住民同士が一緒に避難するわけではないので、避難先では横のつながりが希薄になります。避難先での情報格差を防ぐために、情報誌を発行するという支援活動をしたことがあります。難民キャンプと言っても人口が10万人を超える一大都市で、様々な年代の人がいました。この難民の高校生たちの中でジャーナリスト志望の方を募り、取材・記事執筆・編集・写真撮影等、ジャーナリストとしての勉強をしてもらいながら情報誌を発行して、難民キャンプで配布しました。難民の方々の中で情報がとても伝わりやすくなり、ボランティアの高校生も自分に誇りが持てるようになったり、大学でジャーナリズムの勉強したいという気持ちが芽生えたり、夢を持てるようになりました。「人の役に立ちたい」という気持ちが、みんなの背中を押すことを改めて感じた瞬間でした。

今まで支援してきた経験の中で大変だったことはどんなことですか。

木山氏:紛争(内戦)などの様に対立する人同士がいる状況での支援の場合、「中立でいる」ということはどちらの側にも立たない、つまりどちらの味方でもないので、「どちらにとっても敵である」という状況です。その我々が支援をする際、何をどの様に支援すれば中立な支援となるのか、常に工夫を求められる難しい問題です。片方のグループだけを支援すれば、もう一方からは「敵」だと認識される可能性があります。それでも支援を続けると「敵方ばかりを支援している」となり、支援を受けていないグループからの反発が高まります。その様に、対立を深める様な支援は「害を及ぼす支援」として慎むべきこととされています。「無邪気に誰かを支援することが害を及ぼしているかもしれない」ということを常に自分に戒めて支援活動を実施することが必要です。誰も取り残さず、且つ支援自体が悪影響を及ぼさない様に配慮することが大切です。これを「DO NO HARM(害を及ぼさない)の原則」と言い、常に心掛けるようにしています。

国際支援団体として援助をしていく上での今後の課題は何でしょうか。

木山氏:今後の課題は、多発する紛争と頻度が上がる災害です。特に災害は年々被害規模も大きくなっています。その対策が重要な中、支援する側とされる先進国でも気象災害は多発しており、支援の資金を集めづらくなっています。その中で取り組み方にも工夫が求められています。

確かに先日のフランスのハリケーンなどの先進国での災害は増えている様に感じます。先進国でも難民支援や災害支援に充てるお金が少なくなることが起きるかもしれないですよね。

木山氏:今もJENが支援している2022年にパキスタンで起きた洪水も、被害が巨大化した気象災害の一例だと考えています。通常の年からは想像できない程の降雨量に加えて北部ヒマラヤ山脈の氷河が溶けた水が川と一緒に流されてきて大洪水が起きました。日本の2倍の国土面積のパキスタンの3分の1が水没したと言われていて、日本で例えるとほぼ本州全域が水没したことになります。

日本ではパキスタンの被害が甚大であるという現実が知られておらず、私自身ショックを受けました。私たち若者ができることはありますか。

木山氏:やはり「声」を挙げる事が重要です。日本では声を挙げるという意識が弱いですが、和歌山県紀伊半島の原発建設反対運動などの様に「住民の声」によって変える事ができた事例もあります。若い世代が「仲間」を作って声を挙げていくことが大切だと思います。その為にも、世界や日本で起きていることに興味を持って知って調べて考えて、声をあげていただきたいです。

国際交流と個人レベルの平和構築の重要性

2025年現在、世界ではトランプ大統領の再選など、以前の世界各国が協調する「グローバリズム」から自分たちの国を第一とする「ナショナリズム」への転換が起きている様に思います。国際社会の分断によって起こる新たな戦争や難民問題ついて、私たち若者はどうやって向き合えばいいでしょうか。

木山氏:紛争中の国に駐在して働いた時に出会った現地の方は皆「正義の戦争なんてない」とおっしゃっていました。この経験から私は、悲しみと憎しみの連鎖は次の戦争のきっかけを作るので、戦争は「起こしたら終わり」と考えています。戦争が起きてから武器供給や経済制裁で「支援」するのではなく、とにかく戦争を未然に防ぐサポートをすることが大切だと思います。

 個人レベルでは、「世界中に仲間を作る」事をしてみて欲しいです。個人の集合体が「国家」なので、一人一人が行動して各国に友人を作ることで力を発揮して欲しいです。今はSNS等で簡単に海外の人と交流できるので、実際に会話してみてお互いに分かち合い、少しずつその輪を広げていくことができます。お互い個人の顔を知っていたら、戦争なんて出来ないはずだと思います。まずは関心と意識を持って行動することです。

繋がって仲間を作ることが戦争や平和への意識づけになりますね。

木山氏:そう願っています。戦争を「最後の手段」と認識するのではなく、戦争自体を選択肢に入れないことが大切です。その為に自分に何ができるのか、真剣に考えて行動していただきたいです。日本が国ぐるみで難民について関わりを持つ事で、難民受け入れの現状も変わってゆくかもしれません。一人ひとりの力は小さく見えるかもしれませんが、大きな力は一人の力の集合体です。

若者ができること、メッセージ

グローバル化した社会で暮らす私たち若者に対し、メッセージやアドバイスをいただけますか。

木山氏:今、皆さんは、目の前のコミュニティや自分の身の回りでうまくいかない事があるかもしれません。ですが、私が人生の師と仰ぐ先生はいつも「辞めたい時が伸びる時」と教えてくださっています。これは、辞めたくなるほど難しい局面を乗り越えようと努力している時にこそ実力がつく、という意味です。上手くいかないことに出会うことは人生の「肥やし」であって、人生のプラスにはなっても、マイナスにはならない。「よし、成長の機会が与えられたんだ」という気持ちでより広い世界に飛び込むとうまくいく事もあるかもしれないし、うまくいかなくても学びを得て成長できます。自分の限界は勝手に自分自身が脳内で作り上げ決めつけているだけで、これ以上無理と思っても「そうかな?」と疑った方がいいのです。

 また、成長は階段状になっていて、高い場所にある明かりに向かって進んでいたはずなのに、壁にぶつかると明かりが見えなくなります。その闇は、前に進んできたからこそ出会える闇です。何とか壁を上るとまた、明かりが目に入る、その繰り返しをする内に明かりがだんだん近づくと思います。

その明かりは目標や夢ということですか?

木山氏:目標や夢でもいいし、「最高の状態の自分」でもいいと思います。

やはり壁にぶつかって目標や夢が見えなくなっても、這い上がれば再び見えてくるかもしれないので限界を超えていくという事ですね。

木山氏:そうですね、見えてくるかもしれないのではなく、必ず見えてくると思います。壁を乗り越えると、幸せな世界が広がっています。


取材後記: 今回の取材ではQ &A方式で、記事内ではわかりやすい様に木山さんの発言にフォーカスして記事を執筆した。特に印象的だった話として、木山さんがフィンランドへ行った時の話がある。フィンランドでは小学生であっても人として尊重され、自分の意見を表明できる様なコミニュケーション型の教育がされている。そこから私は日本ではまだまだ小学校や幼少期の人権教育が足りず、改善していくべきだと強く思った。

自己紹介: 最近、アメリカのヒップホップ文化にとても興味がある。その中でもカニエ・ウェストというラッパーに目を引かれた。彼の曲の歌詞での自身の宗教観や近年の反ユダヤ発言、大統領選への出馬などラッパーでありながら政治や言論に影響を与える姿勢は、彼の音楽性をより際立たせていると感じる。