記者:秋津文美(14歳)

「囲碁をする小中学生が、今むちゃくちゃ増えている」と言うのは日本棋院企画広報部の大岡拓也さん。碁石をかたどったネクタイピンと、白黒交互にビーズが並んだ腕輪は、「囲碁が好きという表れ」なのだそうだ。現在、日本の囲碁人口の10分の1、50万人の子どもが囲碁をしていると推測する。

5月5日に開催された任天堂こども囲碁大会も、回を重ねる毎に応募人数が増えて会場が足らず、抽選制になった。プロの卵になる院生試験の受験希望者も増えている。しかし、合格する実力者は増えていないそうだ。院生試験は13歳まで、プロ試験は30歳まで受けられる。現在プロの最年少は12歳だ。プロの世界は厳しい。442人いるプロのうち、賞金だけで生活しているのは20人程度だという。15歳くらいまでにプロにならないと、トップにはなれないそうだ。

子ども達が囲碁を始めた理由として、少年ジャンプで連載中の囲碁マンガ「ヒカルの碁」の存在がある。「ヒカルの碁」の担当編集者である集英社の高橋雅奈さん(38歳)は、連載を始めるとき「囲碁はどちらかと言うとマイナスかと思っていた」という。囲碁は古いというイメージがあったからだが、読者の小学生・中学生にとっては未知のものだった。囲碁の新鮮さとストーリーの面白さ、作画の小畑さんの絵の力が人気の秘訣だと言う。囲碁を知らない子どもに読ませるために、最初の頃は専門用語に「※印」を打って説明していた。だが、分からない言葉によって出る雰囲気を優先させることにした。「『右上スミ小目』と言ってバシッと打つ。マンガの絵と合わさって『右上スミ小目』なんてどこか分からないのに、それっぽい。かっこいいんですよ」と、碁石を打つ真似をする。言葉の意味が分からなくても話の展開は面白い。分からない言葉を知りたかったら自分で囲碁を始める。「ヒカルの碁」を読んで囲碁を始めたと聞くと嬉しいという。

「ヒカルの碁」を読んで囲碁を始めた飯塚あいさん(14歳)は今年2月、院生になった。囲碁が何より好きだと言う彼女は、将来囲碁のプロになりたいと言う。「言葉では言い表せない面白さが囲碁にはあるんです。」と言う。ちなみに、チルドレンズ・エクスプレスが小中学生を対象におこなったアンケートによると、204人中75人が囲碁に興味があると答え、そのうち14人が「テレビ・マンガで見て」と答えていた。

女流本因坊の小林泉美さん(24歳)は、10ヶ月の頃から囲碁を始めた。両親と祖父がプロで、小林さんが石を取れる所を当てたので、お母さんが「この子は天才だ」と思って教え出したそうだ。小学校6年の時に院生になり、囲碁が好きだから、一生囲碁が打てるプロになろうと思ったという。高校に行かないで囲碁の勉強をして17歳でプロになれた時、ホッとしたという。寝ているときと食事中以外は、頭の中に碁盤があって囲碁の事を考えているそうだ。「私が小学生・中学生の頃は、囲碁を知らない人がほとんどだった。囲碁は『おじいちゃんがやるもの』と思われていて、若い頃から『年寄り』と見られていたから、今はすごく良いなと思います。」と話している。

大岡さんは、「ヒカルの碁」が終われば、囲碁ブームも消えると考える。「ヒカルの碁で子どもに受け入れられることが分かった。先ず子ども教室を増やすこと。囲碁の普及と底辺の拡大に全力を尽くしたい。それが使命」と語る。