原 衣織(10歳)

浜康幸県会議員

私の祖父母は長野県長野市に住んでいて、長い休みのときはいつもそこに行く。祖父は退職する前は営林局で山に木を植える仕事をしていたので、いまでもよく山や川に連れていってくれる。山の奥にある川はとても水が澄んでいて、川の底まで見えるくらいだ。大きなダムもたくさん見た。

その長野県では今、田中康夫前知事が打ち出した「脱ダム」の方針をめぐって前知事と県議会の多数派が対立し、結果的には知事を選び直すことになった。そこで私たちチルドレンズ・エクスプレス記者は、脱ダムについて理解するために8月12日、長野の中学生4名と座談会を行うとともに、脱ダム賛成派の石坂千穂県会議員と脱ダム反対派の浜康幸県会議員に話を聞いた。

田中前知事が脱ダムを主張する主な理由は自然環境の破壊だが、それについて浜議員は「ダムはできれば作らないほうがいいが、堤防を直したり河川改修だけを行うと、ダムを作る以上に環境破壊になる」と言う。

横浜にある私が住んでいるマンションは遊水池の上に建っていて、雨水をいっぺんに川に流さない仕組みになっているが、砥川と浅川の流域にはそのような処置はできないのか。石坂議員は「浅川の場合は流域の学校の校庭に遊水池を作ったり、各家庭が雨水を貯める方法をとれば上流にダムは必要ではない」という考えだ。一方浜議員は「砥川流域は地盤が弱いので、建物の下や道路の下に遊水池は作れない」と言う。

もしもダムが崩壊してしまったら、ダムがない場合よりも大きな被害がおこる可能性があるが、それについて浜議員は「ダムは何百億円もかけて、設計のプロの人がきちんと計算して作るのだから安全だ」と言う。けれども石坂議員は「浅川流域にはフォッサマグナから横に枝分かれした活断層があるので、大地震がきたら崩壊する恐れがある」と話す。

中学生たちとの座談会では「ダム問題について県議たちだけではなくて、長野県全体で考えていくようにしてほしい」と言う意見が出た。それについて浜議員は「222万人の県民のみんなが県庁にきて会議をするわけにもいかないから、おじさんたちみたいな議会の人がみんなの代表として意見を言ってるんだよ」と話す。石坂議員のほうは「県議会に伝わってこない弱者の声を代弁したい」と話す。

この取材で一番印象に残ったのは、私が想像していたように「絶対にダムは作っちゃダメ!」「ダムはもっとたくさん作らなければいけない!」とはっきりと対立しているわけではなく、「出来ればダムは作りたくない」(浜議員)「ダムを作らなければいけない川もあるし、『絶対にダムはダメ!』というわけではない」(石坂議員)と、2人の意見にあまり差がなかったことだ。それならば、もっとちゃんと話し合えばこの問題は解決することができるのではないかと思った。


●「ダムへの思い交錯する長野」     
 秋津文美(15歳)

田中前知事により2001年2月に「脱ダム」が宣言され、治水・利水ダム等検討委員会が設立され、調査が始まったが、今年7月5日に知事不信任案が可決され、再び知事選となった。現在、計画が中止されているダムは9つある。長野県はダムという重大な問題と対峙している。ダムは本当に必要なのか、もしくは本当に作らなくて良いのか。治水・利水ダム等検討委員である長野県議会の、浜康幸議員(52)と石坂千穂議員(54)に聞いた。また、長野市に住む中学生にも話を聞いた。

浜康幸議員は、貯水と治水の面から長野のダムの必要性を説く。「9本の川はダムでなければ治水不可能だ」と言う。下諏訪ダムの例を挙げ、ダムを作った方が、川の土手を堤防にして水害を防ぐより、面積で比べると自然が残るとのことだ。下諏訪ダムの建設費は県民一人あたり約1万円になる計算で、負担はそう大きくないと考えている。

石坂千穂議員は「ダムでなくても(治水は)出来る」と言う。遊水地を作ったり、各家庭で水を溜めたりするだけでも違うし、舗装も浸透性のあるものにする、との事だ。また、「浅川ダムは主に治水を目的にしているが、浅川の水害は、中流から流れ込む水による、都市型水害」と、上流に造る浅川ダムの必要性を否定する。まだ代替案がまとまっていないことについては「今は調査をし、計画作りの期間」とし、「どこの流域住民を対象とした世論調査でも、『ダムは止めてほしい』と言う人が多い。流域住民の意見も尊重して欲しい」と語る。

中学生の原田麻衣さん(14)はダムによる環境破壊を気にする。「長野も、自然がきれいと言われていたけれど、もう汚くなって来ている。私は(ダムに)反対です」。
春田翔太郎くん(14)は「『脱ダム宣言』に反対」だと言う。「ダムは災害を防いでくれる役割をする。ダムがなかったために、災害が起こった時に、多くの人が死んでしまうかもしれない。地域の人にとって安全には代えられない」。

ダムの問題に関して、「賛成派と反対派で対立する問題ではない」と言うのは小林あおいさん(14)だ。「上流と下流の人では、環境が違う。ダムを作ると自然破壊の問題があるがダム以外の代替案だと、お金が掛かる。住民同士の話し合いで解決出来ると良い」。西沢麻美さん(15)も「もっと、自分と違う環境の人の暮らしを知らなければ。両サイドに分かれていると、何も出来ないと思う」と話す。

長野県はダム以外にも問題を多く抱えている。そんな長野県政に対し、中学生たちは思う。「県会議員が意見を言うことが少ない。もっと一人一人意見が言えるようにして欲しい」「知事選に出馬した人は自分の考えばかりではなく、相手の意見にも耳を傾けて欲しい」「県会議員・知事は本気でやる人。真剣に考える人に」

いまは問題がこじれているようだが、ぜひ長野には、民主的に解決策を探って欲しい。みんなが納得できる解決策が見つかれば、それは、ダムが造られようと造られまいと、その方法自体が、偉大な「長野モデル」になるのだと思う。

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