ケータイ小説からミリオンセラーが誕生し、07年上半期(06年12月~07年5月)の文芸作品売り上げトップ10に5作品も入った。ケータイ小説とは携帯電話サイトで一般の人が執筆・閲覧できる小説の総称で、執筆者、読者ともに10代、20代が中心である。普段読書をしない若者が活字を読むようになる一方、語彙が少ない、文章表現に乏しいなどの問題もあり賛否両論だ。実際にケータイ小説を読む高校生はどのように受け止めているのだろうか。 |
2008/02/6
出席者:原衣織(16)、畔田涼(16)、貝原萌奈実(16)、藤原沙来(18)、川口洋平(18)(司会)
普段読書をしない人もケータイ小説は読んでいる
洋平:ケータイ小説を読んだことありますか? どんな本をどんなときに読んだのか教えてください。
涼:私は通学時間や夜眠れない時に暇潰しとして「恋空」を携帯で途中まで読みました。
萌奈美:「恋空」を途中まで読みました。ちょっと古いけど、「DEEP LOVE」も読んだことがあります。通学時間や寝る前の他に、恋の話を聞きたい時に読むかな。本が読みたいからではなくて、面白い恋の話を聞きたいから読む感じ。でも結構目が疲れるので長時間続けては読めないんですけどね。
沙来:私も通学時間と学校で暇な時に、携帯で「恋空」を、本で「恋空」をちょっとだけ読みました。周りの友だちも客観的にケータイ小説を見ているので、「これおかしいよね」とか「おもしろいよね」と言い合いながら読むことが多いです。
衣織:「恋空」はマンガ・本・携帯、全部で読みました。他に今回のRTに向けて携帯から数作品途中まで読んでみましたが、名前はちょっと覚えていません。私は朝通学の時に携帯で読んでいて、何度か優先席以外でも携帯を使っているとおじさんに怒られたことがあったので、今は学校の休み時間に友だちの本を借りて読んでいます。
洋平:みんなの周りではどんな人がケータイ小説を読んでいますか。
涼:私は高校生ですが、周りで読んでいるという話はあまり聞きません。中学生の妹は携帯でも本でも読んだみたいです。学校の読書の時間に書籍化されたケータイ小説を読んでいる人もいると言っていました。
萌奈美:高校生ぐらいになると本を読む人と読まない人にはっきり分かれるけど、普段本を読まない人がケータイ小説を好きな傾向にあると思う。
衣織:私の周りには、本は難しいから読めなくて、マンガも話の展開がよくわからない、ケータイ小説が一番わかりやすいと言って読んでいる子がいます。
沙来:本は持ち運びが大変で重くてかさばるから読まないけど、携帯は手軽なので、授業中や眠くなりそうな時に読むという人はいます。
洋平:皆さん書籍だったり携帯の画面上だったり、何らかの形でケータイ小説を読んだことがあるんですね。どんなことを思ったのか第一印象を聞かせてください。
涼:カギ括弧が多く、個人的には普通の小説より親近感がわいて読みやすいという印象を受けました。でも情景描写がすごく少ないとも思います。
洋平:読みやすいというのはストーリーが学校生活に則していて、自分に近いから?
涼:それもあると思います。
衣織:私が読んだ4,5作品は全部共通して恋愛物でした。どの作品も女の子はびっくりするぐらいかわいくて頭も良くて、でもちょっと天然ボケという設定で、いつも4,5人の男の子から好かれているけど、結局彼氏を選ぶというストーリーが決まっていました。マンガの方がもっとヒネリがあると思います。
沙来:「恋空」はカギ括弧が多かったので、涼ちゃんとは反対に読みづらかった。私は主人公のような状況になることもないし、文体や言葉遣いも普段使わないものだったので読みにくいなという印象を受けました。でも一般の高校生はそういう言葉を使っているんだなって客観的に楽しめたし、面白く読めました。
萌奈美:ケータイ小説って、友だちから恋の話を聞いている感覚だと思う。普通の小説では登場人物が何人かいて、いろんな見方ができるようにキャラクター設定されているからそれぞれの登場人物に感情移入ができる。でも、ケータイ小説の場合はその主人公にだけ感情移入するから、ほんとに恋の話を聞いている感じがします。
洋平:主人公と同じ世代だからこそ受け入れられるのであって、もし自分がもっと大人だったら同じような話を読んでも共感はできないと思う?
萌奈美:そうですね。そう思います。
記号だからこそストレートに伝わる思い
洋平:今、括弧が多いという文体のことが出ました。僕もいくつかケータイ小説を本で読んでみて、セリフの後に星や音符などのメールでよく使う記号がついていることに気づきました。普通の小説には無いよね。記号が入っていることで、読むときに抵抗や読みにくさを感じたり、逆に読みやすいと思ったりしましたか。
衣織:そういう記号を使わないと表現できない思いもあると思います。普段友だちに恋の話をメールでするとしたら、絵文字とか顔文字とか多用するでしょ。情景描写が不十分な分、記号を使わないと表現できないんだなと思いました。
洋平:普通の小説での比喩的表現が、その記号一個に込められている感じ?
衣織:そうですね。会話のニュアンスとか。
洋平:それは多分この世代でしか共有できないようなものなんだよね。
沙来:記号を使うのはメールの延長線上だと思う。メールは絵文字だけで送ることもあるし、絵文字だからこそストレートに伝えられる思いもあります。文字は色々なことを伝えられるけれど、読む人によってイメージする情景は違ってしまうことも多い。でも携帯の記号が示している意味は大体同じだから、読む人にとってはわかりやすいと思います。
衣織:でも記号が多いとうんざりしませんか? メールなら絵文字の種類がたくさんあるけど、私が読んだケータイ小説の本の中では星や音符だけで、文字で表現できないのかなって思いました。
涼:私は「恋空」を携帯で読んだので、記号に全く違和感を覚えなくて、今言われて「ああそうだったかも」と思いました。もし本で読んでいたら、携帯で読んだ時とは記号に対する印象が変わっていたかもしれません。
衣織:ケータイ小説は行間がすごく広くて、本で見るとこの間がムダな感じがしますが、みんなは行間が広い方が読みやすいですか?
萌奈美:メールは行間が空いている方が読みやすいと思う。本はびっしり文字が書いてあるのが当たり前で、段落とか小学校で習う作文のルールがあるけど、メールには無い。メール感覚で読めば読みやすいけど、本になると確かに「なんでここ空いているの?」と思いますよね。
洋平:みんなはケータイ小説を本で読むとき、小説ではなくて、メールや掲示板の延長線上として読んでいるのかな。
萌奈美:そうですね。私が初めて読んだケータイ小説は「DEEP LOVE」で、普通の小説かと思って本を読んだら全く違いました。「恋空」は最初からそのつもりで携帯でしか読んでいません。
本ではなく携帯だから読むのか!?
洋平:ケータイ小説は携帯だからヒットしたり読もうと思ったりするのかな、それとも本でも同じだと思う?
涼:私は携帯だからこその良さを大切にしてもらいたい。もし「恋空」が最初に本で出版されていたら、ここまでのヒットにはなっていなかったと思います。
沙来:「恋空」は映画化されて、映画の女優さんが有名だったから、みんな携帯や書籍に流れたんだと思う。テレビや雑誌などのメディアの宣伝に影響を受けて、自分たちがまだ知らない三角関係とかに興味を持ち、実際に読んだり見たりする子が多いんじゃないかな。
衣織:「恋空」は確かに携帯からじゃないとここまでヒットしなかったと思いますが、本屋さんに行ったら他にも沢山ケータイ小説が書籍化されて並んでいるので、今だったら携帯でアップされる前に書籍化されても、ある程度は売れると思います。
洋平:自分がケータイ小説のような小説を書くとして、原稿用紙に向かったら書けないけど、携帯でなら書けるな、と思うことはある?
萌奈美:私は普段自分で小説を書いています。導入や情景描写はきちんとしたいので、頭の中にイメージがあっても上手く書けないと嫌になってしまうけど、ケータイ小説はそもそもそういうのが必要ないからどんどん書けると思う。慣用句がわからなかったら記号でごまかせばいいわけだし。
衣織:ケータイ小説はすごく書きやすいと思います。友だちの恋愛模様を綴った日記と大差が無くて、導入部分も考えなくていい。私が昨日読んだものは携帯のプロフみたいに「何才、身長何センチ、顔は何、髪型は何」とズラズラ箇条書きにしてありました。言葉遣いも普段話している通りでいいので、書こうと思えば誰にでも書ける気がします。
沙来:携帯の方が書きやすいと思います。ペンを動かさなくても指先を動かせば書けるし、原稿用紙に比べて携帯のほうが手軽。「言葉にすると難しいけどこんな感じ」というニュアンスも記号一つで伝えることができるから。
ケータイ小説は新たなジャンル
洋平:ケータイ小説が流行して、最近ランキングの上位に入っているよね。それを受けて、日本語が乱れていくと言っている大人がいます。日本語の乱れや、小説の文学的価値が下がると言われていることについてはどう思いますか。
萌奈美:ケータイ小説はケータイ小説で、普通の小説は普通の小説って分けて考えればいいと思います。ケータイ小説を大人は批判するかもしれないけど、新しいものが生まれて、現に読んでいる人がいて、それを面白いと感じているなら存在を否定する必要は無いと思う。過激な表現は別にしても、誰かがイヤな思いをするわけでもないし、少しは物語を読むことにはなるので、小説とみなさずに新しいジャンルが成立したと考えればいいと思う。
涼:小説離れや本を読む人が少なくなっていることが問題視されているけど、日頃文庫本を読んでいた人が、ケータイ小説にはまって文庫本を読まなくなるケースは少ないと思う。ケータイ小説はケータイ小説として存在する価値があると思います。
衣織:今の二人と大体同じ意見だけど、ケータイ小説は状況や描写が似ているから、ずっと読んでいると飽きると思うんですよ。そうすると現代のわりと読みやすい普通の小説に流れることも考えられる。だから小説は難しいものだと捉えている人が読書の導入としてケータイ小説を読んだらいいのではないかと思います。
沙来:私もケータイ小説は読書をするきっかけになると思うし、記号や言葉遣いを楽しむこともできるので、一つのジャンルとして確立していけばいいと思います。ただ、ケータイ小説は実話ではないのにあたかもその子が存在しているかのように主観的になって読んでしまうし、短くて感情移入しやすい点が問題だと思います。
衣織:感情移入するのは問題ですか? 私は普通の小説を読んでいても感情移入するし、いいと思う本は友だちに貸して「あの主人公の考え方いいよね」と話し合ったりします。ケータイ小説ではみんながそれをしているみたいであんまり抵抗は無かったのですが。
沙来:例えば一般の書籍には書いていない恋愛の状況やリスクを負った行動を、興味本位で実行しようとしたり、三角関係を楽しみたいと言ったりしている友達がいる。現実ではあり得ないことを、身近に感じさせてしまうのは問題だと思います。
(編集注)携帯小説では、星や音符などの記号だけが使われている。絵文字は携帯の機種によって異なるため使用されていない。書籍化された場合も記号は原文のままである。