記者:三崎友衣奈(16)

 近年、世界中で女性が活躍している姿を見ることができる。日本でも労働基準法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などの制定で、行政による女性の社会進出の支援が出来上がりつつある。しかし、女性が働き始めても「男は仕事、女は家事」という日本の古くからの考え方は、社会にまだ根強く残っている面もある。出産・育児、そして夫の転勤などが、まだまだ女性のキャリア形成の障害となっていることは否めない。
 私たちは、こうした障害を乗り越えて実際に仕事を続けてこられた女性たち、さらに女性を取り巻く環境整備に努力している企業を取材し、女性が働き続けるための条件や働き易い環境とはどんなものか、考えてみた。

 女性の社会進出における最大の障害と考えられる、出産と育児についてNHK元副会長の永井多恵子氏に伺った。氏は1子目の出産時には産休(産前産後休業)と有給(有給休暇)を含め産後3ヶ月、2子目のときには体調を崩し産後3年間の休暇を取った。氏の入社当時は「女性は、会社へ行ったらまずオフィスのちらかっているものを片付けていた」という。そうした古い体質の職場環境の中で、輝かしいキャリアを築いた自身の経験からこう語る。「出産による産休、育休(育児休暇)での仕事のブランクなら、自分自身の努力で埋められる」。上司の理解もあり、育休から復帰直後の短い期間は母乳を与える時間を保障するという意味で特例として認めてもらい、9時半から4時半までの時間で仕事をこなしたそうだ。

  しかし、育児については自身の努力ではどうにもならず、保育所、保育ママに頼らざるを得なかったという。「育児中は短時間勤務という形で、母子にもなるべく負担がかからないように仕事をし、しばらくして子育てに余裕ができたらフルタイムで働く、という会社の制度があれば良かった」と話す。「不安定な雇用でなく、しっかり復職できるという保証があれば安心できる」。

  また女性が働く上で次に問題となるのが「夫の転勤」だそうだ。今でも、夫の転勤についていくために女性社員が退職しなければならないという状況は多いという。

 このような女性の社会進出に立ちふさがる大きな壁をひとつひとつ壊しているのが、女性の力を活かして業績を伸ばしてきた資生堂だ。育児、そして転勤という大きな問題をかかえる女性をサポートし、より安心して仕事に励める環境をつくる努力をしている。

資生堂人事部の松本真規子氏

  資生堂では、夫が転勤した場合、その転勤先近くの支社に妻である自社の社員も異動させるなどの配慮をしているほか、育児休暇中の社員用にインターネットで行う職場復帰支援プログラム「wiwiw」の実施や、女性向けの仕事の研修「ポジティブ・アクション」の実施、父親のためのワーク・ライフ・バランス塾など、様々なプロジェクトを社会に先駆けて行っている。

  「昔から女性の多い会社であり、その女性がよりよい環境で仕事をできるようにしたい」と語るのは、人事部参与の安藤哲男氏だ。安藤氏は資生堂内の保育所『カンガルーム』の設置に携わってきた。『カンガルーム』は事務部門を集結させて実質的な本社機能を担うようになった同社の汐留オフィスに程近い事業所内に、2003年9月に設置された。社員と近隣の企業にも解放し、保育所として活用されている。生後57日~小学校就学前までの幼児を預かっており、料金は認可保育園と同程度、常駐スタッフ7人のうち一人は看護師と、環境も充実している。

  この『カンガルーム』を利用している人事部の松本真規子氏は、3歳4ヶ月の子どもを、生後11ヶ月からこの保育所に預けている。会社に近接した場所にある保育所の存在はとても助かっているという。「子どもを迎えるために職場を出るのは、極端に言えば、お迎え時間の1分前でいい」。一年間の育休後も同じ職場に戻ることができ、復帰後はその期間の仕事のキャッチアップに努力したそうだ。

  また、デメリットと考えられるラッシュ時に子どもを連れて通勤することに関しては、利点にもなりうると話す。「一番のラッシュ時を避けて『カンガルーム』が開く8時くらいに到着するよう通勤している。仕事をしているとどうしても子どもとのコミュニケーション不足になるから、電車内での子どもとの会話は貴重な時間だ」という。

 安藤氏によると、産休・育休などの長期の休暇はそれほど取りにくいものではないという。「長期の休暇の場合は年単位の休みになるから社員の気負いは少ない。逆に毎日早い時間に仕事場を抜ける短時間勤務の方が気になる人は多い」。

資生堂人事部参与の安藤哲男氏

  先の松本氏も、「退職することなど考えもしなかった。休みも、社員同士で互いにサポートしてきたからこそ取りやすい」と語る。松木氏は妊娠したと分かった時点でどのくらい育児休暇を取るか上司と話し合ったほど、職場の雰囲気は出産後も働き続けることが当然だと思えるものだったと言う。こうした良好な人間関係がそれぞれの負担を軽くしているようだ。

 女性の社会進出に立ちふさがる出産・育児、夫の転勤という問題は、会社・社員の積極的な協力によって軽くできることがわかった。しかし、全ての女性が必ずしもそのような恵まれた環境にいるとは限らない。ここで、永井氏の言う「夫の協力」が特に大きな支えになることは言うまでもない。安藤氏は「私たちは女性が働き易いための選択肢を広げている。その中でどれを選ぶかはその人次第」と、女性の社会進出は働く環境だけではなく女性自身の問題でもあると話していた。いくら環境が整っていても、本人が何もしなければ何も変わらない。環境ばかり求めるのでなく、自分の力を信じて努力することも大切ではないだろうか。出産・育児を経ながらキャリアを継続する中で永井氏、松本氏が持ち続けていた「向上心」は、とても魅力的だった。