記者:原 衣織(16)
 現在日本の労働人口の4割は、女性が占めている。子供を持ちながら働く女性も珍しくなく、大企業の役職者として活躍する女性の姿をマスコミなどで目にすることも多い。この国の職場における女性差別はなくなったかのような印象を持っている人も、少なくないのではないだろうか。しかし、内閣府発行の『平成19年度版男女共同参画白書』によると、日本の男性一般労働者の平均賃金水準を100とすると、女性一般労働者の平均賃金水準は66.8だという。また、日本の女性就業者のうち管理的職業従事者は10.1パーセント、全体でみると4.1パーセントと極端に少ない。これで職場における男女平等が真に実現されていると言えるのだろうか。数年後自分たちが社会に出る時に備え、女性が社会に出て働くということの現状を知りたいと思った。

 「当時はそれこそ男女は雲泥の差。私も茶碗洗いから始めたわ」。そう話すのは元NHK副会長の永井多恵子氏だ。1960年、NHKにアナウンサーとして入局し、出産後も働く女性が少数だった中、保育所と家庭福祉員を併用しながら二人の子どもを育てた。一人目の子供が幼い時は、理解のある上司に恵まれて、いわゆる日勤にしてもらったが、二人目の子供の時はそのような配慮がなく苦労したという。

永井多恵子NHK前副会長

 では、昔に比べ様々な制度が充実してきたいま、子供を育てながら社会で働く女性をとりまく環境は永井氏の頃とどう変わったのだろうか。

 株式会社資生堂は、女子大生の就職先人気企業のランキングの上位を常に占めている企業だが、女性への支援策が充実していることでも有名だ。育児休業取得率は98%。CSR(企業の社会的責任)の一環として、労働者の仕事と生活の均衡を図る「ワークライフバランス」のために様々な活動を行っている。

 中でも注目されるのは、資生堂が2003年9月に汐留オフィスの隣接ビルに開設した事業所内保育施設である「カンガルーム」だ。看護師1名を含むスタッフ7名で生後57日~小学校就学前の子供を預かっており、資生堂の社員以外も利用することができる。設立当初からこの事業に携わっている、人事部参与の安藤哲男氏に話を聞いた。

資生堂人事部参与の安藤哲男氏

 「男女共同参画を進める上で子育ての支援は不可欠なステップ。保育の場所がないと、女性が産後仕事に戻れない」そう安藤氏は述べる。子供が近くにいるという安心感は仕事への集中に繋がるし、また送迎のため早退する必要がないので同僚へ負荷をかけることも少ないという。

 しかし、毎朝、汐留にあるカンガルームまで子供を連れてくるのは子供にとっても親にとっても負担なのではないか。それについて、現在3歳4か月の子供を11か月の時からカンガルームに預けている社員の松本真規子氏は「電車通勤はデメリットでもあり、メリットでもある」と話す。「やはり子供には負担。しかし電車が空いている時は絵本を読んだりするなど、子供とのコミュニケーションの時間としても活用している」と言う。

 また、通常4月からしか入所できない公立の保育所と違い入所時期に制限がないため、産前産後休暇および育児休業の期間を調整しやすいということもこのカンガルームのメリットの一つだ。松本氏も、カンガルームはいつでも入所できることを知ったために1年半の予定だった育児休業を1年で切り上げて職場復帰した。資生堂の産休および育児休暇は3年まで習得可能であるにもかかわらず1年のみで復帰したのは、仕事にブランクを作りたくなかったことが理由だという。「最初の1か月はつらかったが、自分が職場にいなかった1年を取り返したいという気持ちの方が大きかった」と話す。

 永井氏の時代は産前産後6週間のみだったという出産および育児のための休業だが、現在は多くの企業で育児休業制度が設けられるようになってきた。しかし制度が整っているにもかかわらず早く復帰するという松本氏のような例もある。「制度を利用するかしないかはその人次第であり、選択肢を増やすことが大切」そう安藤氏は話す。様々な働き方があり、選ぶのはその人自身だ。企業にできることは、様々な制度を整えることで「選択肢を増やす」ことなのだ。

 今回、育児支援策に力を入れている最近の企業の中でも特に先進的な取り組みを行っている資生堂という事例を知ったことで、自分が社会に出て働く未来に少し希望を持つことができた。しかし、これは日本の企業の平均的な姿ではないことも忘れてはいけない。近年、確かに男女平等は進みつつある。しかし、この現状は、まだ男女不平等が当たり前だった時代に進んで道を切り開いてきた永井さんのような女性たちの大変な努力の成果なのだ。私たちは、彼女たちの努力に感謝しながらも、自分たちでもその道を広げるように努力しなければならない。すべての女性が自分に合った生き方・働き方を、自由に選択できるような未来のために。

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