大久保里香( 17 )
私が「無保険児童」のことについて知るきっかけとなったのは学校の保健の授業で読んだ「無保険児童」の記事であった。保険証を所有しないために満足に医療を受けることができない中学生以下の児童がたくさんいるということは非常に衝撃的なことであった。さらに「無保険児童」について調べていくと「無保険児童」を救済するために国が「中学生以下の児童に保険証を無条件で交付する」という措置を検討していることを知った。私はこの「無条件で交付する」という非常に思い切った対策に興味を持ち詳しく調べた。
2009 年 4 月 1 日に施行された「改正国民健康保険法」の中で、中学生以下に 6 ヶ月の期限付きの短期保険証が資格証明書の代わりに無条件交付されることが新しく採用された。今までは、保険料を滞納している世帯には「保険証」の代わりに両親と子供の両方に「資格証明書」が交付されていた。資格証明書をもっていると病院の窓口では医療費を全額負担しなければならないが、後日それぞれの市町村の役所に申請を出すと本来負担すべき医療費以外が返金される。しかし、それでも経済的に苦しい世帯では病院の窓口で高額な医療費を支払うことができず、子供が医療へアクセスする権利が制限されているという現状がある。
昨年の 9 月の段階で日本には 3 万 2903 人もの中学生以下の子供が保険証を持っていないという現状が厚生労働省によって報告されている。親の滞納で子供が医療へアクセスしづらい状況を解決するために 11 月 27 日に民主党、社民党、国民新党、共産党が共同で「国民健康保険法の一部を改正する法律案(国保無保険児童救済法案)」を衆議院に提出し、 その後、 内容についての 与野党協議 を経て 衆議院厚生労働委員会委員長提案 として 新たな改正案が 提出され、 12 月 19 日に 「改正国民健康保険法」として 参議院本会議で可決された。 野党 4 党 の 「改正国民健康保険法」 が 法案提出から 1 ヶ月以内という異例のスピードで可決されたことを考えると、国が一団となって子供の窮状を解決しようと取り組んでいることを汲み取ることができる。
一方で、保険証を無条件で交付することで起こる弊害は保険料滞納者世帯の増加と、保険料滞納者と納付者間の不公平感である。 この点について「国保無保険児童救済法案」の提出に関わった、民主党の郡和子衆議院議員に取材をしたところ、「子供のことを第一に考え、子供の医療への安心は国が守っていかなければならない。また、保険料を滞納している世帯のほとんどが何らかの問題を抱えているために保険料を納付できない現状があると捉えている。」と語った。つまり、郡議員は保険料を払うことができるのに滞納している世帯は少ないという見解を示している。
また、日本には国民健康保険料滞納者に保険料をなるべく払うよう促す制度がある。保険料滞納者に対して電話催告や面接、訪問徴収、悪質な滞納者に対しては財産調査を行い、差押えをするなどの措置をとる場合もある。
保険料を滞納すると、中学生以下の子供を除き滞納者は保険証を所有することができないのである。困ったときに医療を受けること に一定の制限がある が保障されない 生活をしなければならないということが、保険料の滞納者と納付者のもっとも大きな違いだろう。
そして、中学生以下に無条件で交付される保険証に 6 ヶ月という期限がついていることにも理由がある。期限をつけることで、保険証継続の申請に親が各市町村の役所に出向く機会を作り、保険料の納付相談の機会も同時に設けることで、納付を促していく狙いがある。厚生労働省保険局国民健康保険課の角園太一氏は「保険料の支払い滞納に困ったときは、各市町村の窓口 役所に相談に来てほしい。そうすれば納付相談にのることができ、なんらかの対応をすること も が できる。」と言っている。このことを踏まえると保険料を滞納しづらい環境はかなり確立されているといえる。
保険料を払える人はきちんと払うことは国民として当たり前のことである。もし本当に保険料を払えないような問題を抱えてしまっても、滞納してそのままにしておくのが一番よくないことだ。やむを得ず滞納している人は一人で悩まずに、各市町村の窓口役所に相談しに行ったり専門家に相談したりすることで問題を解決する努力してほしい。そして、保険料が払える状況にありながら滞納している人がいるならば、考えを改めてほしい。保険料を納付すること自体が社会全体で子供を守ることにつながり、新たに施行された「改正国民健康保険法」の本旨が十分に生かされることになる。