2015/08/26 松本 哉人(15)
新宿や渋谷の道端で、雑誌を掲げて立ち続ける人。しかし、多くの人はその目の前をまるでそこに何も無いかのように通り過ぎていく。そんな光景を目にしたことは無いだろうか。「ビッグイシュー日本版」という雑誌がある。その出版元である有限会社ビッグイシュー日本東京事務所の活動説明会と、販売者とスタッフ、ボランティアが参加する定例サロン(会合・月1回開催)に参加して話を聞いてきた。
そもそもビッグイシューはイギリスで1991年に創刊され、2003年に日本でも大阪を中心に活動を始めた。その活動はホームレスの人にビッグイシューが作った雑誌を独占的におろし、そのホームレスが販売者となってそれを路上販売して自らの収入源にするというものだ。実際には販売価格のほぼ半分である180円が販売者自身の収入になっている。日本でも創刊から去年までの12年間でおよそ668万冊が売られ、同時に9.5億円余りが販売者にもたらされてきた。現在も日本全国に140人ほどが販売者として雑誌を売り続けているそうだ。説明会の中で話してくれた東京事務所長の佐野未来さんは、「一番大切にしているコンセプトはセルフヘルプ。自分自身が助ける力を身につけることを私たちが側面から応援する、それを一番大事にしています」と話す。そのため、「雑誌を買った代金がただの寄付になってしまわないように皆さんが面白いと買い続けてくれる雑誌を作る、これがビッグイシュー日本の一番大事な仕事」と話していた。
さらに2007年には認定NPO法人ビッグイシュー基金が設立され、就業支援や健康診断、スポーツや文化のクラブ活動などをしている。私が参加させていただいた定例サロンの中ではボーリング部やサッカー部などのクラブとその活動が紹介された。それぞれの活動を語るときはどの人もとても誇らしげで、それらの活動もまた、販売者を支えているのだと感じさせた。
具体的にビッグイシューが支えるホームレスとはどんな人なのだろうか。以前はホームレスと言うと「仕事をしようとしない怖い人々」というイメージが大きかった。しかし、サロンに参加していた販売者の方々は世間の普通の大人たちと何も変わらないように見え、ホームレスの方々も人間として別段私たちと違うわけではないのだということを感じた。現実に、佐野さんは「私たちが、ビッグイシュー日本が設立された時、すでにホームレスの人の6割がなにかしらの仕事をしていて、必ずしも仕事をしたくない人々ではないのだと感じた」と話す。さらに、ビッグイシューの販売者は「ビッグイシュー行動規範」というものに基づいて販売をしている。これは実際にビッグイシューの表紙の裏にも書かれているが、「攻撃的または脅迫的な態度や言葉をつかいません」や「街頭で生活を稼ぐほかの人々と売り場について争いません」など全販売者への信頼を守るためのものだ。この最低限のルールの中で販売者は場所や時間、売り方などを各自工夫して販売しているのだという。
また、ビッグイシューを支えている要素の一つが「同じ販売者が同じ駅にずっと立っている」ことだという。販売者が日々同じ場所に立ち続けることで通りかかる人が興味を持つことでビッグイシューについて知り、販売者とかかわりを持つことで「実は、ホームレスの人は働かないって言われているけども、働きたいって思っている人もたくさんいる」、「ホームレスの人はもともとホームレスに生まれたのではなくてたまたまそうなってしまっただけなのだ」と知ってもらえたら社会の認識が少しずつでも変わると思っているそうだ。
普段私たちはホームレスを見慣れてはいても彼らのことを正面から考える機会は少ないのではないだろうか。募金や寄付のお金ではなく商売を通して路上からの脱出を図る販売者の存在をこの機会に認識しなおし、考える人が増えることを期待する。