理事 鈴木茂義さんにインタビュー

記者:福田有佳 Ayaka Fukuda(18)

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを契機に設立された「プライドハウス東京」。LGBTQ+コミュニティを支援し、多様な情報発信の拠点となるこの施設は、今も国内外から高い注目を集めています。プライドハウスの設立経緯や意義、東京での実現に向けた苦労などについて、理事の鈴木茂義さんにお話を伺いました。

*本インタビューはプライドハウス東京という組織の意見ではなく、鈴木茂義氏個人のご意見を伺うという形で行いました。

 4月21日に東京レインボープライドに実際に初めて参加した私(記者)は、沢山の当事者とアライの存在を目の当たりにしました。よりLGBTQフレンドリーな社会へと移行していく、このパラダイムシフトの最前線を走る各団体や個人の姿に非常に涙が出そうになる場面も少なくありませんでした。また、特にプライドパレードでは渋谷の街ですれ違う方々の暖かい”happy pride!”の声に大きなパワーをもらいました。

 また2024年春、私が2週間留学したフィリピンでは、カトリック教徒が大多数を占めており、町中に”believe in god”などのメッセージが溢れ、LGBTに寛容な文化に驚かされました。そしてそれに比較すると宗教色がほぼない日本では、いまだLGBTに関する寛容な理解が達成されていないように感じます。プライドハウス東京設立までの苦労や社会の理解、また今後の展望について伺いました。

プライドハウス東京の誕生とその背景

 まず、プライドハウス東京の始まりについて尋ねました。鈴木さんは「プライドハウスは、もともと2010年のバンクーバー冬季オリンピックで、LGBTQ+の人々が安心して集える場所として設立されました」と語ります。その後、国際的なスポーツイベントごとに各地に広がっていき、東京でもオリンピックをきっかけに「この流れに続きたい」との想いで設立が進められたそうです。2020年に、ようやく新宿で常設のプライドハウス東京レガシーがオープンしましたが、「コロナ禍でLGBTQ+のユースが安心して過ごせる場所を失っていた状況もあり、常設化は急務でした」と鈴木さんは振り返ります。

安心できる居場所としての役割

 ここには多様な書籍や資料が揃っており、LGBTQ+について学ぶために訪れる人々も少なくありません。私もレインボープライドでの体験を通して、LGBTQ+の人々が「自分らしくいられる場所」の必要性を強く感じました。渋谷の街を行き交う人々から「Happy Pride!」と声をかけられる瞬間に、共に歩むコミュニティの力強さを感じました。  

 「プライドハウス東京はLGBTQ+コミュニティにとってどのような存在意義を持っているのでしょうか」という問いに鈴木さんは「やっぱりね、常設の居場所があるっていうのは大きいんですよ。ここに来れば誰かがいて、安心して過ごせる場があるってことがね、まるでお守りのような存在なんです」と語ります。  さらに、「居場所として存在することがありがたいと感じてくれる方も多くて、ここが自分の場所なんだって思ってもらえるのは本当に嬉しいですね」と教えてくれました。

継続運営のための挑戦

 「長期的な運営には多くの課題もあったのではないでしょうか」の質問に鈴木さんは「持続可能な運営には、資金や人材、さらには地域社会との協力が不可欠です」と教えてくれました。特に東京で施設を継続するためには、LGBTQ+コミュニティ内だけでなく、企業や自治体とも連携し、広く支援の輪を築くことが重要だといいます。「学校で教職員向けのLGBTQクラスの研修をしてほしいという依頼や、生徒さんたちが学びに来ることも増えています」と鈴木さん。「また、企業と協力してダイバーシティに関する講演や資料の作成も行い、少しずつ社会全体の理解が進んでいると感じます」とも語り、企業や自治体とともに行う取り組みの重要性を強調されました。

私(記者)が感じた課題と希望

 インタビューを終えて、プライドハウス東京の意義を改めて感じると同時に、日本がLGBTQ+フレンドリーな社会になるためには、まだまだ課題が多いと感じました。例えば、私が留学したフィリピンでは、カトリック教徒が多いにもかかわらず、LGBTQ+に対して寛容な姿勢が根付いていました。一方、日本は宗教的な制約が少ない環境であるにもかかわらず、まだLGBTQ+に対する理解が進んでいない部分が多いように感じます。鈴木さんも「日本ではLGBTQ+に対する基本的な知識が浸透しつつあると感じています。一方でそれがすべての人に普及していないのが現状だと感じています」と指摘し、教育やメディアを通じた啓発の必要性を強調しました。また「法や制度の更なる整備が必要だと感じている」ともおっしゃっていました。

すべての人にとって優しい社会へ

 私は、日本がLGBTQ+に対する理解を進めるためには、教育やメディアを通じて偏見をなくす取り組みが重要だと考えます。「LGBTQ+の理解は特別なことではなく、当たり前のこと」という意識が根付くことで、一人ひとりが尊重される社会が実現できるはずです。また、企業がダイバーシティのポリシーを整え、同性カップルに対する福利厚生の適用や、ジェンダーに縛られないドレスコードを導入するなど、職場環境の整備も重要な一歩です。鈴木さんが語るように、「LGBTQ+に優しい社会は、すべての人にとって優しい社会」であり、この社会が目指す方向性は、決して少数派だけの利益ではなく、全体の幸福に繋がるものだと感じました。

記者と理事の鈴木茂義さん

自己紹介: こんにちは。本記事の執筆を行なった福田です。約1年間に渡る取材活動を通じて、多くの新しい視点や知識に触れ、自身の持っていた無意識下の偏見にも気付かされることが多々ありました。また、執筆活動は「伝える」ことの必要性と責任を考えさせられる機会でもありました。これから青年記者になろうと考えている方は、専門家の意見を伺うことのできる貴重な機会を活かし、様々な角度から社会を見つめ、言葉にする過程を楽しんで欲しいです!