海上自衛隊の鵜川尚丈2等海佐に聞く「私たちが知らない自衛隊」
記者:林遼太朗 Ryotaro Hayashi (17歳)
近年ロシアによるウクライナ侵攻など、脅威はますます増え、国防の重要性がより浮き彫りになっている。普段は厳格なイメージを持たれる自衛隊の事をより詳しく知り、私たち若者が安全保障や政治を「当事者」として意識しやすくするには、どうすれば良いだろうか。横須賀市船越町にある海上自衛隊の自衛艦隊司令部を訪問し、鵜川尚丈2等海佐にインタビューした。
私たちが知らない自衛隊
神奈川県横須賀市に到着すると眼前に海上自衛隊の艦艇が現れ、スケールの大きさに圧倒された。建物に入ると旭日旗や岸田元首相のサインが入った旗が目に入り、私に強烈な印象を残した。
鵜川2佐は「一部の例外を除き、世界中の海軍で階級は同じように区分され、ほぼ同じ呼び方をされます。海上自衛隊も他国から見れば海軍として扱われるので、私のような2等海佐(2佐)は中佐(Commander)として各国の基地などでは相応の待遇を受けることができます」と熱弁する。
特に海軍は「世界は海でつながっている」という意識が強く、国際交流は非常に盛んだといい、鵜川2佐も船乗りとして世界中を回った経験の中で、海外では「隊員一人ひとりが言わば外交官である」という意識を強く持ったという。また、選抜されれば、自衛官として在職中に一般企業や他省庁に出向して研修を受けたり職員として働ける機会もあるなど、経験できる業務の幅広さを知って驚いた。
国を守る自衛官になったキッカケ
私は元々「自衛官は生真面目で何か特別な信念を持った人がなるもの」と考えていた。自衛隊に興味はあったが、身近で自衛官と接する機会はこれまでなかった。
自衛官になったキッカケを聞くと、こう答えてくれた。「元々高校時代に映画‘『トップガン』を観て、『戦闘機ってかっこいいな』と思った事が最初のキッカケです。自衛官の多くは映画やアニメへの憧れから入る『普通の高校生』です」と語る。鵜川2佐もその憧れから、予備校で地道に勉強し、防衛大学校に進学したという。また小学校の頃の体験も大きく関わっているという。
「僕が通っていた小学校の校歌に『国家に尽さん(尽くそう)』という歌詞がありました。この言葉が子どもながらに強く印象に残り、国の役に立つ仕事は何だと考えた結果、自衛官を目指そうと思うようになりました。」(鵜川2佐)
自衛隊は、あくまで普通の国民一人ひとりによって構成されているということを今回の取材で改めて認識することになった。さらに自分が持っていた自衛隊への偏見や先入観に気づかされ、実際に現場を訪れて自分の見解を深めることの重要性を痛感した。
鵜川2佐が考える、戦争への抑止力
現在、世界ではウクライナやガザ地区問題、シリア内戦など戦争が絶えない。私はこの「戦争」について現役の自衛官がどう考えるのか興味を持ち、疑問を投げかけた。すると鵜川2佐はこう話す。「世界で一番戦争を嫌がるのは国防に関わる私たちのような人間です。戦争は、主に『領土、民族、宗教』の3つの問題が契機となって行われる、外交努力で解決できなかった場合の政治の一手段です」と説明する。「周辺国からの領海侵犯などグレーゾーン事態を経て戦争に発展する場合が多いため、相手の意図をくじき、戦争を起こさないために常に24時間態勢で警戒監視、情報収集をしています」と戦争への思いと自衛隊の役割を強調した。
鵜川2佐は自衛隊の国際協力や共同演習の意義について、「自衛隊の安全保障は『力による現状変更を許さず、手を出せない環境の構築』を目指しています。国際協力で支援を行い良い関係を築き、共同演習では訓練を通じて同じ価値観を共有する他国との友好関係を示せます。ただし、『相手が意思と実力を持てば、すぐにやってくる』という危機感は持っています」と語った。この話から私は「平和を唱えるだけでは平和をもたらせない」と強く感じた。
私たちの日常に関わる自衛隊
自衛隊は地震や台風などの大規模な災害が起きた時、必要に応じて災害救助に派遣される。自衛隊も消防や警察と同じで、国民の生命や財産を守る事が仕事だ。この救助活動をみて「自衛隊ではなく災害救助隊なのでは?」と疑問を持つ人もいるだろう。しかし鵜川2佐は2つの理由を提示してこの意見を否定する。
まず「自衛隊の装備は本来、侵略してくる他国の武力に備えたもので、緊急時の脅威を想定しています。一方、警察は国内における治安維持、消防は火災や地震などの災害が対処領域なので、この違いが対応力の差を生みます」と述べた。自衛隊は外敵に対応できる能力を持ち、その力を災害救助にも応用しているのだという。
また「自衛隊は自己完結型の組織で、必要な衣食住を自前で用意できます」と説明。被災地のインフラに頼らずに自らの力で救助活動を行える強みを示した。普段、外敵に向けて国民を守る自衛隊だからこそ、人命救助にその能力を活かして貢献できる事を知り、私たちはそのことを忘れずに自衛隊への感謝の気持ちを持つことが大切だと強く感じた。
自衛官である鵜川さんから、私たちへのメッセージ
取材の最後に、「私たち若者をはじめとした社会全体が持つべき自衛隊への向き合い方はあるのか」を質問した。
鵜川2佐は若者に向け「興味を持ってもらい、知ってもらう事が重要」だと示し、自衛隊について知ってもらいたい例を幾つか挙げた。「自衛隊では多種多様な業務を経験でき、私のように一度きりの人生で様々な仕事ができる。また、海上自衛隊は海外に行く機会が多く、国際感覚を養うにはうってつけの職場です。そして『国を守る』という究極的に人の役に立つ仕事ができます」と力強く語った。
私はこの取材を通して、終始現役自衛官として国を守る役割を担う鵜川2佐から「日本を守る」という誇り高い気持ちを感じた。そして力には力で対抗するのではなく、必要な時に一致団結して小さな力を大きな力に変える重要性と、自衛隊が国際的に協力する事による平和への貢献を強く実感した。私は今回のインタビューを通じて、この様な平和を守る為の任務に就く人がいるからこそ第二次世界大戦以降の約80年間戦争を経験せず、今日も平和に朝を迎えられている事を心に刻んだ。そして日々を一生懸命に生きることで、より意義のある日々を過ごしたいと思った。
取材後記: 以前まで自衛官というと少し硬いイメージがあったが、鵜川さんは時折ジョークや私的な会話も交えながら、わかりやすく自衛隊に関する様々な事を説明してくれた。今後も取材を通して様々な社会の一部に触れ、私たち若者の未来を広げたい。
自己紹介: 最近、ラーメン巡りにハマっている。特に家系と直系二郎が大好きだ。受験勉強の間の休憩に摂取するカロリーと塩分が、僕につかの間の安息を与えてくれる。