ハトラ・トマスドッティル大統領、関西万博で語る
記者名:Minato Suzuki(16歳)
2025年5月29日、大阪関西万博内にあるウーマンズパビリオンにて、アイスランド史上2人目の女性大統領となったハトラ・トマスドッティル大統領と、ジャパンタイムズの元編集長でありジャーナリストの大門小百合氏によるトークセッションが開催された。「ジェンダー革命は女性だけのためのものではありません」とトマスドッティル大統領は語る。トークセッションは会場で笑いや拍手が起こる場面もあり、終始和やかな雰囲気の中で行われた。

アイスランドはどんな国?
ジェンダー平等先進国として知られるアイスランド。世界経済フォーラムが毎年発表している、「世界におけるジェンダー格差指数」において、2025年時点で16年連続1位の記録を誇っている。
現在でこそジェンダー平等先進国として知られているアイスランドだが、歴史をさかのぼってみると決して女性の地位は高くなかった。そんな状況は、1975年にアイスランドで起こった「女性の休日」と呼ばれる大規模なストライキによって一変した。賃金格差など、当時の女性の社会における立場の低さがきっかけとなって起こったこのストライキには、9割以上の女性が仕事や家事を休み参加したと言われている。女性を失った社会はそれから時を待たずして機能しなくなった。その日を転換点としてアイスランドは女性の社会参画が進み、わずか5年後にはアイスランドに世界で初めて民主的に選ばれた女性国家元首、第4代大統領のヴィグディス・フィンボガドッティル大統領*が誕生した。
*ヴィグディス・フィンボガドッティル(Vigdís Finnbogadóttir)大統領: アイスランドの政治家で、同国の第4代大統領(1980年〜1996年)を務めた人物である。世界初の民主的に選出された女性国家元首であり、16年間の在任期間は女性国家元首として現時点で最長記録。

「女性の休日」が生んだ変革の波
1975年の大規模なストライキが起こった当時、大統領は7歳だった。自分の母や姉たちがストライキに参加し、大統領は父や兄とともに家に残ったという。「伯母の一人に『なぜストライキをしているのか』と尋ねました。一部の女性は休日と呼び、他の女性はストライキと呼んでいましたが、彼女は『自分たちが重要であることを示したいから』と答えました。」
ストライキに参加した女性の中には、自身の夫や上司からストライキに参加しないよう脅された人もいたという。大統領はインターネットもまだ存在していなかった1975年に、全女性国民の9割以上が参加したこのストライキを計画し実行するのには並外れた勇気が必要であったはずだと述べる。また、1975年から継続的に行われているこの運動について、今年は性別格差だけでなく、世代格差やグローバルな格差を埋めようと計画していると語った。
男性も巻き込んでいく
トークセッションの後半で大門氏は、このような運動にどうすれば男性を巻き込めるかと質問した。大統領は次のように回答した。
「経済成長し平和な世界で強い社会を築くためには、男女格差を縮める必要があります。それは単に代表権の問題ではなく、経済と社会の根底にある価値観を転換させることなのです。たいていの場合は女性や若者がそれを推し進めるのですが、女性だけでなく男性もこの問題を意識し、変革に参加することが必要なのです。」
大統領は近年の男性、特に少年のメンタルヘルスに関する問題に触れ、その原因は私たちが「男性にもジェンダーがある」という事実を忘れてしまっていることだと指摘した。そして、アイスランドで制定された男性の育児休暇の取得に関する法律や、自身が開催した、男性のみでジェンダー平等について語らうイベント「バーバーショップ・ブレックファースト」を例に、男性と女性の両方が話し合いの場について初めて平和な世界が実現可能となるのだと述べた。
「女性が間違った在り方だと主張するような状況を、男性側が無理やり維持し続ける必要はありません、それは男性にとっても正しい在り方とは言えないからです。
ジェンダー革命は女性だけのためのものではありません。性別、年齢、生まれた地域、文化的背景、経済的背景に関わらず、誰もが住みやすく繁栄できる平和な世界のために行うことだと考えています。それが、私にとってより良い世界への変革です。」(トーマスドッティル大統領)

トークセッションを終えて
今回のトークセッションで最も印象に残ったのは、男性をどのようにジェンダー平等の取り組みに巻き込むかという質問に対する大統領の返答だった。これまであまり考えたことのなかった視点に、目から鱗が落ちる思いだった。特に「男性にもジェンダーがある」という言葉は、私自身もジェンダー平等について考える上で無意識のうちに排除してしまっていた考えであり、その重要性を認識させられたと同時に、現在の社会にとって不可欠な考え方であると感じた。

取材後記: 今回は特に考えさせられる話題などが多く、自分の見識を深めることができました。また、トマスドッティル大統領はとても家族仲が良好のようで、トークセッションに参加されていたご家族を途中で大統領が紹介するなどの場面もありました。
自己紹介: 今回の取材以外でも万博を訪れる機会があったのですが、多種多様な国々のパビリオンやテーマパーク並みの人込みに圧倒されるばかりでした。閉幕するまでにはまだ期間があるので、できるだけ多くのパビリオンを回りたいです。