2008/02/21 

  大久保 里香(16)

 戦後の日本の経済を急速に成長させ、支えている産業は製造業である。製造業を支えている人々は理系人であり、世界に誇れる製品を生みだしているのも理系人なのだ。つまり、理系人が日本からいなくなるということは格段に日本の経済力が落ちることを意味している。しかし、日本は今、“理系離れ”という深刻な問題に直面している。世界57の国と地域が参加して行なわれた国際的な学力調査、 OECD 国際学力調査の結果、日本は 2003 年に比べて 2006 年の結果、科学力は 2 位から 6 位に、数学力は 6 位から 10 位に下がったことがわかった。日本の社会は理系離れを食い止めるためにどのような対策をとっていけばよいのだろうか。

 まず、どうして理系離れ、つまり理系嫌いが増えてしまったのだろうか。お話を伺った『理系の地位を向上させる会』の坂井崇俊さんはこの一つの原因を「理系の魅力を感じるような教育を子供に施していない。また、理系へすすんでも地位の高い人にはなりづらい」と語った。  

 一つめの原因である、理系の魅力を感じるような教育を子供に施していないことについては現状が変わりつつある。文部科学省では科学技術・理科・数学教育を重点的に行う学校を『スーパーサイエンスハイスクール( SSH )』として指定し、理科・数学に重点を置いたカリキュラム開発や大学や研究機関等との効果的な連携方策についての研究を実施する活動を始めた。実際にSSHに指定されている学校に取材へ行き、具体的にどのような活動を行っているのか、お話を伺った。

 筑波大学附属駒場高校の仲里先生は「実験カリキュラムを作って高校の授業内容に先端技術を含ませながら教えた」、都立小石川高校の金澤副校長は「授業をより充実させるために努力している。予算も増えたので前よりも多く実験を取り入れることができるようになった」、東京工業大学附属科学技術高校の多胡先生と門馬先生は「授業に興味を持ってもらうために大学の教授を学校に呼び、講義をしてもらうことや、大学・大学院の生徒と生徒が一緒に研究をすることなどを取り入れ最高の教育を施そうと思っている」と語った。取材を行ったどのSSH指定校も実験や体験学習を多く取り入れることで生徒の理系への関心を得ようとしているようだ。

 高校で理系科目の受験にとらわれない本当の面白さを実験や体験学習を通して生徒に伝えることで、その生徒たちが大学へ行っても積極的に、また、探究心と目標を持って勉強に取り組むことができるだろう。そして、そういった生徒が大人になったあと再び子供に理系科目の真の面白さを伝えることができ、徐々に理系科目への難しくてつまらないというイメージが薄れ理系への好感が上がっていくことが予想できる。このことよりSSH指定校の導入は理系離れを食い止めるためのひとつの方法として効果が期待できそうだが、SSH指定校以外でも自発的にこの活動を行ってほしい。

「理系の地位を向上させる会」代表の坂井崇俊さん
普段は会員同士で積極的に意見交換を行う

 次に、理系は高い地位につけないという原因について「もっと自分の仕事に自信を持つべきである」と坂井さんは語った。理系人自身が自分の仕事に誇りと自信を持っていなければ、理系人の仕事に対して理解も感心も人々に抱かせることができないだろう。より多くの人に対して自分の仕事を理解してもらい、すばらしさを認めてもらうことで理系人の活躍の場がもっと広がるのだ。そして、最終的には理系人も高い地位につくことができるような社会に自分たちで変化させていかなければならない。たいていの人々は少なからず偉くなりたいと思っている。理系人も高い地位につくことができるようにすることが、理系人を増やすために大切なのではないだろうか

 実験よりも受験勉強のほうが優先されている現在、私たちは真の理系の面白さについて理解することができていない。その結果、理科嫌い、つまり理科離れが進んだのだ。しかし、本当の勉強とは自分たちが学びたいことを楽しく、そして生きていくために役に立つことを学ぶことである。一人一人が何を学びたいか、そして何をしたいか明確な意思を持って文理選択ができる社会であったら、理系離れという問題は発生しなかっただろう。

都立小石川高校の金澤副校長を取材。同校は旧制府立五中時代から理系教育に力を入れている。
東京工業大学附属科学技術高校の門馬教諭と多胡教諭
数学科の多胡教諭は生徒を授業にひきつけるために、教科書にマスコットキャラクターを取り入れるなど工夫をこらしている

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