前田佳菜絵(14)
2016年のG7伊勢志摩サミット開催、2020年の東京オリンピック開催などが決定されていく一方、まだまだ国際社会で活躍する日本人は少ないとされる。しかし、皆さんはスーパー・グローバル・ハイスクール(以下SGH)という言葉を聞いたことがあるだろうか。SGHとは「グローバルリーダー育成に資する教育を通して、生徒の社会課題に対する感心と深い教養、コミュニケーション能力、問題解決力等の国際的素質を身に付け、もって、将来国際的に活躍できるグローバルリーダーの育成を図る」ために文部科学省に指定されて活動している高等学校のことだ。では、ここでのグローバルリーダーとはどのような人材なのか、またSGHの最終的な目標とは何なのだろうか。
まず、SGHを創設した文部科学省初等中等教育局国際課計画指導係に取材を行った。矢田裕美係長によると、SGHを創設したのは「現代社会に対する感心と深い教養に加えてコミュニケーション能力や問題解決能力を身につけた、将来国際的に活躍できるようなグローバル人材を育成する」ためだそうだ。グローバルリーダーとは、と聞くと「私自身も思うところがある。だが、この事業で輩出したいのは、グローバルな社会課題を発見・解決し、様々な国際舞台で活躍できる人材、例えば、グローバル社会に出てイノベーション(改革)を起こしたり、新しいことをやったり、新しい事業を起こしたりして、社会に対してインパクトを与えられる人材も一つの例だ。」と矢田さんは答えた。また、矢田さんは「SGHに指定するずっと前からグローバルリーダーの育成の精神を持ってきた学校はもちろんあった。しかし、SGHに指定することによって、国費を投入して一線を画した特別な取り組みをやってもらう意味がある。大事なのは10年後、そしてその後もグローバルリーダーがちゃんと育成できているか」とも話す。
平成26年度は246校、平成27年度は190校の応募の中から両年度とも56校、つまり合計112校が選ばれてSGHに指定され、5年間文部科学省からの予算で活動する。各学校はSGHに指定されたら実施することをまとめた企画書を応募の段階で提出するが、選ばれる基準は「1つではない。学校が考えるグローバルリーダーは学校によって異なる」と矢田さんは説明した。指定されたら「目指すグローバル人材像の設定」「研究開発テーマの設定」「グローバルなビジネス課題、社会課題の研究」「大学との連携」「国際機関、企業等との連携」の活動を行うが、どの学校も目指すグローバル人材像や研究開発テーマは違うそうだ。また、矢田さんは「SGHの目的は英語教育ではなく、世界や地域の課題を世界の人々と一緒に解決できる人材の育成だ。しかし、これら解決するには必然的に英語が必要になってくる」とも話した。
実際に平成26年度からSGHに指定されている東京の渋谷教育学園渋谷高等学校に取材した。渋谷教育学園渋谷高等学校では「探究型学習を、いかにして「行動できるリーダーの育成」につなげるか」という研究開発テーマで活動している。同校SGH委員副委員長担当の北原隆志先生によると、一年生の一学期は「The World in 2050」というテーマで2050年の未来をデザインするプレゼンテーションや英語でのディベートを行い、二学期は「Hiroshima Project」というテーマでヒロシマについて議論などを実施、三学期は「Wars and Conflicts」というテーマで戦争や紛争について英語でのプレゼンテーション及びエッセイライティングを行っている。特に「Hiroshima Project」では米国フロリダにある提携校の世界史の授業用教材を作成し、優秀なチームはその学校で特別講師として授業を行うことができる。また、二年生では「Social Justice(社会正義)」というテーマで子どもの人権や環境課題について考え、発信していく。
しかし、北原先生は「この学校は『自調自考』『高い倫理観』『国際人」の3つを目標としていて、SGHに指定される前から中学一年生からアクティブラーニングやディベートは行っていた。中学の授業で本格的なプレゼンテーションを行うようになってかれこれ15年になる。」と語った。SGHに選ばれてからについては「東京外国語大学に通う海外の大学院生を学校に呼ぶことと、フロリダへの派遣が文部科学省からの予算で新しくできるようになった。また、教科横断型授業は以前から少しずつ始まっていたが、SGHに指定されて本格的に実施するようになった」と北原先生はいう。例えば「Hiroshima Project」では公民科、情報科、英語科や国語科が連携し、「Wars and Conflicts」では生徒たちは経済、現代社会、歴史、理科数学、文学、芸術、家庭科保健体育の7つの分野に分かれて意見を交わすそうだ。さらに「Social Justice」では、子どもの人権については家庭科と英語科が連携、環境問題については国語科、地歴科、理科、英語科が連携する。
また、北原先生は「地球社会の問題は、世界中の各分野のエキスパートが力を合わせて初めて解決できる」とも話した。そのため、「SGHに指定されノウハウをオープンすることは私立校としてはマイナス面もある。しかし、自分の学校のことだけを考えていては地球社会の問題を解決することはできないと思う。」と強調する。そしてグローバルリーダーについては「物事を地球規模で考えられる、多数の意見を聞ける、冷静である、自分の意見を作り出せる、それを上手に伝えられるコミュニケーション能力がある人」、行動できるリーダーについては「観察力、想像力、行動力から成る思いやりがある人。理想や問題発見能力 がある人。」と北原先生は語った。
まだSGHの活動が始まって1年程だが、文部科学省やSGHに指定された学校へのインタビューからはグローバルリーダーの育成への熱意が感じられた。しかし、果たして5年間で成果が出るのかどうかなどの疑問点があるのも事実だ。それらも含め、今、日本の将来が変わってくる重要な局面に私たちは立っているのかもしれない。