原衣織(14)

 近頃、子供が被害者となる犯罪が毎日のように報道されている中、安全確保のためにGPS機能付き携帯電話やICタグなどの「発信機」を子供に持たせる親や学校が増えている。それはどういった仕組みで、どの程度の効果があるものなのか。また、そういった装置で管理される子供自身はどう感じているのだろうか。

 私たちチルドレンズ・エクスプレスは、日本の公立中学として初めて生徒に発信機を持たせる実験を行っている大阪府吹田市立古江台中学校と、昨年横浜市立みたけ台小学校で同じような実験を行った株式会社NTTデータの堀間利彦氏、またIT技術と社会との関係に詳しい産業技術総合研究所の高木浩光氏を取材した。

 古江台中学校では、名刺くらいの大きさの「ICタグ」を男子女子問わず生徒の自由意志で持たせている。持っているのは全校生徒 300 人のうち 160 人位、半数強だ。校門、通用門、廊下などに読み取り装置が16個ほど設置してあり、子供がいつどこを通ったのか親の携帯電話などに連絡が行く。装置をつけるのにかかった費用約二千万円は、内閣府都市再生本部の調査費とシステム開発会社の援助で賄われている。

 横内校長は 43000 平方メートルという広大な敷地と、学校近辺での変質者の出没などからICタグ導入の必要性を考えたという。生徒達自身は嫌がるのではないのかという質問には「自分の身の安全は自分で守るのが基本だという指導をしている。しかし中学生というのは親の保護と子供の自立がちょうどクロスする時期だから、地域の人々の支援とICタグ技術によるサポートが必要だ」と答える。生徒にとったアンケートでは「嫌だけれど、変質者などがいる以上仕方がない」という答えが多かったようだ。また、保護者にとったアンケートでは、ほとんどの人が肯定的だったという。

 みたけ台小学校の実験では、「見守りスポット」という読み取り機を通学路 24 箇所に設置し、子供がそこを通過すると保護者にメールが届く。参加児童の親は「駆けつけ支援者」となり、タグ上のボタンから緊急通報があったら駆けつけるという仕組みだ。実験に参加した児童たちは「タグをつけることで、何かあったときに近くにいる人に連絡ができて安心できる」と言っていたそうだ。堀間氏は「親だけでは子供を守れない、だからいざという時のためのお守りとしてこういう物が必要。発信機を利用する場合には、利点と欠点を十分理解して利用することが重要だ。」と語る。

 他方、高木氏は、ICタグを子供に付けるべきではないと断言する。悪意を持った人がタグの出している電波を読み取る事も可能であり、逆に子供が危険な目に遭う可能性さえあるという。そもそもICタグとは、家畜の管理のために使われていた物だそうだ。最近、発信機を子供に持たせる実験をする学校が増えていることについては「県や市からの補助金が貰えることから、とにかく実験をやっているのではないか」と分析する。

 「校門を出た時間が親に分かってしまうので、『家に着くのが遅い』と親に注意された。もう持ちたくない」。実際に発信機を持っている古江台中学校の生徒の言葉だ。安全のためといっても、やはり中学生ともなればそれが本音かもしれない。大人が発信機で子供を見張り、守る。それも一つのやり方だろう。しかし発信機を使ったからといって 100 パーセント安全になるのではなく、逆に別の危険性が高まるかもしれない。親子の間できちんとした信頼関係を築き、その中で子供が「自分の身は自分で守る」責任感と知恵を身につけていくことが基本であることに変わりはないのだ。技術が発達したからといってそれに頼りすぎず、人と人との関わりの中で子供を守っていくような社会、それが私たちの理想だ。

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