大学へ行く意味は時代によって、国によって大きく異なります。もちろん個人の事情もあります。日本の若者は大学へ行く目的、あるいは青年期の4年間をどのように使おうとしているのか、高校生、大学生、そして高卒で就職した記者6人が本音で語り合いました。

井上麻衣(19社会人)、藤原沙来(19大学2年)、畔田涼(18高校3年)、三崎友衣奈(17高校2年)、建部祥世(17高校2年)、秋津文美(21大学3年・司会)
2009/03/01

率直な志望理由

文美 :高校生の祥世ちゃん、涼ちゃん、友衣奈ちゃんは大学へ進学志望だそうですが率直な理由は?

祥世 :将来は海外で仕事がしたいのでしっかりした学歴が必要だと思いました。

涼  :英語の学習をもっと深めたいのと、就職の時に大卒の方が有利ではないかと。

友衣奈:社会に出る前に、実践的に使えるものを大学で学びたい。大学へ行かないと就職できないなというイメージがあります。

文美 :大学に行かないと就職できないのではという考え方に(高卒で就職した)麻衣ちゃんはどう思いますか?

麻衣 :私も高校二年までは大学に行くと決めていたので、まさかこんな道(注:化学メーカー)に入るとは・・という感じはあります。大卒でないと就職できないと思っていたけれど、こうやって就職しているので、‘できる’というのが現実です。

文美 :会社では大卒の人と、高卒の人は同じ仕事をするの?

麻衣 :大卒よりも大学院卒とドクターが約 95 %です。研究職なのでそうなります。残りの5%が四年生大学卒と高卒です。高卒は 10 年ぶりに採ったそうですが同じ仕事をしています。

文美 :仕事は変わらない?

麻衣 :自分ががんばれば変わらないと思います。

世界には色々な生き方がある

涼  :麻衣ちゃんは、どうして進路を変えて就職しようと思ったのですか?

麻衣 :学歴がないとダメだぞ!と思っていました。でも私は世界の人に興味があって、世界には「学歴」でなく、フリーで活動している人も多く、いろいろな生き方があるのだと感じたの。そうしたら、大学へ行かなくても働けば同じように生きていけるし、楽しい人生は自分が選ぶものだと思えてきて、ころっと 180 度変わりました。

祥世 :今の仕事は自分が希望した仕事なんですか?

麻衣 :希望しました。将来を考えた時にこれをやりたいって思っているから。

文美 :沙来ちゃんはなぜ大学に行ったの?

沙来 :専門知識を得たいと思いました。本でも勉強はできるけれど教授の経験を通しての話や、友人からの刺激など、そういう環境にいることで得るものもあると思い大学に入りました。

文美 :大学でできる人脈や友だちは大事ですか?

沙来 :そうですね。自分一人で生きていては絶対に出会わないような色々なコネクションができるのが強みだと思います。

友衣奈:就職にコネは絶対条件というイメージがあって、大学には行くものだと思っていましたが、いま高校二年生になって考えると、このままあと一年で社会に出るのはすごく不安です。麻衣ちゃんがそのまま就職した勇気はすごいなと思います。

麻衣 :私は社会人というカテゴリーに自分がいることに実感がないの。周りは大学院卒やドクターが多いから、よけい学歴の差を感じてジレンマになるのだけれど、先輩たちが教えてくれる。それをコツコツ勉強して学生気分で仕事をしている感じなのです。社会人って言われるとびっくりします。

大学は自分探しの場所?

文美: 私の経験では、大学は知識を詰め込むところではなく考える場所なのです。知識は会社に勤めながらでも得られると麻衣ちゃんが指摘しているし高卒でも就職できる。それでもあえて大学へ行こうと思う皆さんが大学を出た先に描くビジョンってどういうものですか?

涼  :大学では自分探しの時期として利用したいと思っています。自分探しのためだけに親のスネをかじって大学に行かせてもらうのだけれど、でもやはり私にはそういった時期が必要です。今どの職業に就きたいっていう明確なものがないので。

麻衣 :とてもいい意見だと思います。高校卒業までにみんなが就きたい職業が決まっているかと言われたら絶対そうじゃないし、一生の事だから焦って決めなくていいと思う。

友衣奈:大学生って、社会人みたいなことをする人たちもいるでしょう?社会人予備軍的な存在なのかと考えるのですが、どうなんでしょう。

沙来 :私は、大学に入ってから「自分探し」では手遅れかなと思う。なぜかというと私は勉強したくて入ったからすごく嬉しいし、学ぶのが楽しい。フラフラしていたら四年間しか大学はないし、将来や自分を見失うと思うので、自分のやりたいものに絞ってやった方が有意義になると思います。

友衣奈:沙来ちゃんに質問です。例えば「自分には夢とか興味が何もありません」みたいな人が「とりあえず大学行くか」といって行くでしょう?そういう人はフラフラしがちで・・・大学に行く価値ってどんなものものだと思いますか?

沙来 :目的を持たずに成績によって入ってきた学生も実際にいます。授業を受けながらサークルに入って・・でも単位を取るために勉強しなきゃいけないし、みんな義務感を持って勉強しているのが現実なの。フラフラしているようでも自分なりに目標を立てているのが今の大学生かなと思います。

社会の風潮に洗脳

文美 :でも本当に目標もなく大学に行く人もいますよね。親も「大学を卒業しておけばとりあえず就職とかの間口も拡がるから」みたいに言う。私立で年間 100 万円の授業料。国立でも 50 万円以上でしょう。それに対して何か意見はありますか? 

沙来 :日本がそういう社会なのです。四年制大学を卒業してないと採りませんと。例えばギャップイヤー(例:高校卒業して 1 年間海外でボランティア活動)とか、わずか一年間のことで「何をやっていたのか」って言われて、それでもうマイナスになってしまう。日本の企業に入りたいなら四年制大学を出るしかないっていう感じです。

麻衣 :そういう風潮が日本は強いです。「大学へ行かなくちゃ就職できない」みたいな固定概念がある。社会の風潮に私たちの考えも洗脳されている感じがします。

仕事にニーチェはいらない?

友衣奈:私の姉は就職したばかりですけど、友だちと似たような会社をとりあえずたくさん受けて、内定をもらったところに行く・・。就職目的は各人が違うのに、結局はみな同じようなところを受けて、そういう企業に入っていく。同じ進路になってしまうのがすごく疑問なのです。よほど専門的な道を選ばない限り受ける企業も同じっていう。

文美 :確かに文系で就職しようと思うと総合職か一般職で、ある程度専門的になるのは会社に入ってからです。仕事に歴史の知識や文学部の知識とかニーチェはいらないから、大学で違うことをやってきても同じ仕事に就くでしょうね。

友衣奈:それを否定しているわけじゃないんですけど。

沙来 :でも大学で学んだ経験や知識はみんな違うし、自分が興味あることをやってきたわけだから仕事のためにならなくても、就職するときにアピールできたり自分の興味のあることを伸ばせるし、それは無駄ではないと思います。

友衣奈:就職を最終目的としているのではなくて、自分のやりたいことをもっと吸収できる場所っていうこと?

沙来: 例えば現代社会を学んでいる人たちは一般的な企業に就職するしかないかもしれない。でも確かに彼ら彼女たちは現代の社会問題を大学で学んできた。私は児童問題についてしか学んでいないので、会社に勤めてから生かせる部分もきっと違うだろうし、将来大人になってからも生かせる部分が違うと思う。だから何かの目的を持ちつつ、自分が学びたいことを学ぶのが一番いいと思います。

大学・就職・人生

文美 :大学に行くのは就職に有利だと、そこまでは否定しないでおきましょう。今ちょっと思ったのは、人生のなかでは、生きる喜びが必要かなと。仕事には別にチェーホフとかはいらないから、大学はまったく楽しみのために行くもので勉強と仕事は違うと思っていたのですが、みなさんは大学で得る知識を仕事で生かそうと思っていますか? 

涼  :楽しみにプラスして、例えば自分のスキルアップをするために資格を取る期間として利用してもいいと思う。

文美 :それはそうだけれど、就職の先に何かないの?大学で学んだ事が母親、父親になった時に生かされるとか。お金を稼ぐだけじゃなくて国際的なことやボランティア論や起業など大学ではいろいろある。でも大学で取った教員資格が使えなくなったりするし、 TOEIC もある程度の点数がないと意味がない。やっぱり不況を意識しますか?親からも就職の話を言われますか?

友衣奈:「どの大学行っていいかわからない」と言うと、「大学行ったらコネがすごいのよ」とか言われるので、やはり就職につながっているものだと思ってしまう。

祥世 :私は別に親からこの大学に行ってとか、この仕事をしろとか、全然言われません。ただ自分の将来やりたいことがあるので、そのためにまず大学で知識をちゃんと学びたいのです。大学で学んだことは就職した後にも絶対生かせると思うし、学んだことを生かせる仕事に就きたいと思っているので、やはり大学は就職のこととつなげて考えます。

目的があれば将来につながる

文美 :私と同い年の CE の元記者が、一番行きたかった大学に入ったのです。ところが入ったら授業があまり興味をかき立てられなくて、まじめに勉強する学生が少ないという話を聞いたの。彼女はすごくショックを受けたらしい。友衣奈ちゃんが入手した統計では 2007 年の高卒者は 114 万 7 千人。そのうち 58 万7千人が四年制の大学に進学するそうです。数十万人は大学へは行きたいのに経済的理由で社会人になるという現実もあります。58 万人の大学進学者がどれだけ考えているのか疑問ですよね。

友衣奈:私はきょうの話を聞いて大学でやったことがすべて就職につながるわけではないことがすごく新鮮でした。目的があれば、大学は将来につなげるために学ぶ機会になり、目的がないなら、まだ学生でいたい人たちが行くのかなという弱い部分も見えたのでよかったと思います。

涼  :沙来ちゃんの話を聞いて、入学時にある程度目標を持っていないと大学は四年間しかなく自分の好きなことができる時間は短い。新たにそういう発見があったのでよかったと思います。

祥世 :麻衣ちゃんは高校三年生から短い期間に自分の夢をしっかり確立してすごいと思いました。私は将来やりたいことが決まっていないので、大学でそれを見つけに行くのも「あり」で、結局は自分次第で良くも悪くもなると思いました。

沙来 :私は、大学生になったらやりたいことがあったから今の学部を選んだし、講義を休んでまで行きたいところがあったから行ったりしています。それを理解してくれる教授がいればネットワークも拡がるし、ほんとうに将来一番自分を形成できる場所だと今すごく実感している。ただ勉強するだけじゃなくて、いろんな刺激を受けながら、自分のやりたいことを絞っていけるいい場所だと思う。就職のためにも、日本では大学に入っているといいのかなと改めて思いました。

麻衣 :大学へ行く理由とか、就職する理由の答えはないのです。ただ同じ四年間でも働いているか勉強しているかというだけで、結局はその人ひとりひとりの人生なのです。記者をしていると、情報に流されるな、鵜呑みにするなとよく言われます。大学に行ってもまわりが遊んでいるから、それに流されないようにする、社会が学歴を求めているからといってそれに流されたりしない・・。自分らしくあれば環境はどうであってもいいのかなと思います。

文美 :その場その場の環境で学べばいいという感じでしょうか。それぞれに大学へ行く意味が見いだせたところでラウンドテーブルを終わります。


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