記者:佐藤美里菜(17歳)
アメリカ、カリフォルニア州にある、南カリフォルニア大学でロケットを作っている大学生たちがいる。大学生が作るロケットが宇宙へ行った例はまだない。未知の世界に飛び込んだ彼らはどのようなことを考え、どのようにしてロケットを作っているのだろうか。
2009年11月30日、ロサンゼルスにて「ロケット・プロポルション・ラボラトリー(Rocket propulsion Laboratory )」プロジェクトのメンバーである大貫実穂さん(21歳)、3代目リーダーであるジョーダン・マイケル・フォーネスさん(20歳)に取材を行った。「ロケット・プロポルション・ラボラトリー(Rocket propulsion Laboratory )」は、2005年に当時この大学の生徒だったイアン・ウィッティングさんとイビット・リースさんによって始まった。「宇宙に届くロケットを一から作ること」を目的とし、当初は6?7人で活動していた。メンバーは南カリフォルニア大学の生徒や卒業生によって構成され、現在は45人で活動している。メンバーには宇宙工学、航空工学、機械工学、電子工学を専攻するエンジニアの他、物理学、経済学を専攻する生徒もいるという。彼らはすでにこの4年間で6つのロケット(デルカーボン、シルバースパーⅠ・Ⅱ、ターボエンキャプレーター、ダブルダブル、デルグランデ)を作った。これらは、宇宙に届くロケット“トラベラー”を作るための実験台であり、アメリカ国内のモハビ砂漠などで打ち上げられたが、まだ宇宙にたどり着いてはいない。
6つのロケットには気圧計や高度計などが内蔵されており、その飛行実験から得たデータをもとに改良を繰り返していくのだとジョーダンさんは言う。11月30日の時点で、彼らのロケットが得た最高至点は上空15.2キロメートル。エンジンの中の最高気圧は5.5メガパスカル、最高飛行速度がマッハ2.5?3(時速3060?3670キロメートル)を記録した。宇宙までの距離は海抜100kmである。まだまだ遠い道のりのようだが、来年には“トラベラー”を完成させる予定だ。
「アメリカ国内にロケットを作っている大学のプロジェクトは他にもあるが、他のプロジェクトと違うのは、“すべて手作りである”ということ。デザインから考え、エンジンも作る。釘など、元々の素材は無理だけど…」と大貫さんは言う。彼女は2008年から南カリフォルニア大学に通っており、このプロジェクトには2009年8月から参加している。日本で生まれ、高校まで日本で育った。「アメリカに来て日本は小さい」と感じるようだ。ロケットを作ることは簡単ではない上に、資金がかかる。そして打ち上げる環境が整っていなくてはこのプロジェクトは成立しない。資金のほとんどは、学校からのものであるが、航空機を作る企業であるザ・ボーイング・カンパニー、ロッキード、ノースロップ・グラマンからの寄付もある。資金だけではなく、ロケットを作る上で必要なカーボンファイバー(炭素繊維)などの材料の寄付もある。そしてそのような点を大貫さんは「アメリカのいいところ」だと言う。
「実際に自分の手でロケットをつくることは、授業で勉強すること以上に学ぶことがある。そして常に挑戦しつづけなくてはならない感覚が楽しい」と言うジョーダンさんに続き「自分の作ったロケットの飛行速度が音速を超え、できると思っていたこと以上のことができるのが楽しい」と大貫さんは語った。生徒が宇宙へ届くロケット作りに挑戦できることに喜びを感じているようだ。
このプロジェクトを通して、貴重な経験を得るだけではなく、「宇宙は政府や企業、限られた人たちのものだったが、これからは宇宙という空間がもっと身近になる」ということをジョーダンさんは強く伝えようとしている。
想像を絶する大規模な宇宙という空間の中で、小さな星、地球から宇宙に飛び出す大学生達は、自分の可能性を広げながら日々挑戦し続けているのである。そして、近い未来、宇宙は政府や企業、限られた人々だけのものではなく、私たち学生にも身近なものとなるだろう。