飯沼 茉莉子(16)

  「出る抗は打たれる」という諺が日本には昔からある。そのためかリーダーシップをとることを避ける風潮になってしまっていた。チルドレンズ・エクスプレス(CE)が日本の若者34名にアンケートをとったところ、学校やそれ以外でリーダーシップ教育を受けた学生はわずかだった。しかし、最近の日本では、リーダーシップの重要性が盛んに叫ばれ始めた。大学の推薦入試や就職試験の際にも「リーダーシップ」があるかどうかが重要視されてきている。アメリカでは以前からリーダーシップ教育が行われ、イギリスでも盛んだという。そこで日米英三カ国でのリーダーシップ教育の違いや共通点を調べ、そこから見える「リーダーとは何か」について取材した。

■円の中心にいるリーダー
  カリフォルニア大学バークレー校でY-PLANという教育を行っているCenter for Cities and Schoolsのディレクター. デボラ・マッコイさんと、コーディネーターのジェシー・スチュワートさん(28)にインタビューをした。Y-PLANとは、若者が地域の活性化プロジェクトに参加し、自分たちのアイディアを市長や企業に直接プレゼンテーションをするまでを行うプログラムだ。スチュワートさんは「ここでは、自分の意見やアイディアを表現する場が与えられるため、自分がリーダーとなってこの地域を変えてみようという自信をもつことができるようになる」と自信たっぷりに語った。リーダーになるための要素は「周りへの思いやりとリスクを取る勇気。リーダーは自分のことだけではなくグループ全体のことも考えなければいけないし、反対意見も聞いてグループをバランスよくまとめる能力が必要なの」と指導のコツを教えてくれた。なぜリーダーシップが重要視されているかを尋ねると、「アメリカではこれまで、高等教育を受けた裕福な人たちがリーダーになっていたが、グローバル化した今、金持ちか貧乏か、教育をうけたか受けてないかは関係なく、誰もがリーダーシップスキルを持つ必要がある時代になった」とデボラさんはいう。
このY-PLANを体験した日本人がいる。東北で被災した100人の高校生たちだ。彼らがまとめた昨年の報告書によると、参加者の一人は、「リーダーとは一番偉い人で三角形の頂点に立っている人ではなく、円の中心にいて、みんなの意見を一つにまとめてきれいな円を作りあげる人のことだ」と述べている。さらに「一番変わったことは、人前で話すことが全く怖くなくなり自分の意見を言えるようになった」という前向きな感想が多かった。

■グループプロジェクトの効果
ロンドンにあるリーダーシップ教育の団体Changemakersと、CEの姉妹団体であるHeadlinersの支局を訪ねた。Changemakersは1994年に教育学者やNGOによって設立された団体で、リーダーシップを通じて若者の潜在能力を引出し、周りにもっと強い影響を与えたいという精神と、リーダーに必要な要素を自身で見つけさせることを目指している。Changemakersの指導者の一人であるスラッジさん(26)によると、このプログラムを受けた後の若者は、自信、コミュニケーションスキル、モチベーション、それに大志が身に付くという。「日本では出る杭は打たれる」と話すと、スラッジさんは「リーダーになって支持を得るには、まずはみんなから認められ、みんなをサポートするためにリーダーがいるということを強く伝えなければいけない」と強調した。現在イギリスではこうした教育機関が多くあるため競争が激しいそうだ。イギリスでどのくらいリーダーシップが重要視されているか想像がつく。

Headlinersのロンドン局でリーダーに必要な条件を聞いたところ、どの記者も必ずあげたのが、自信、他人の意見を聞く、チームワークを大切にできるという三つの要素だった。記者の一人ガブリエラさん(17)は、若者でビジネスを立ちあげるというプログラムに参加しリーダーを務めたそうだ。彼女はこのプログラムを通して「十人十色のグループを一つにまとめて、みんなをゴールへ導くことに苦労したがこの経験によって、自立心が芽生え責任感を持つようになった」という。日本ではグループワークが少なくリーダーになることを恥ずかしがると話すと、イギリスの若者は意外な表情を見せた。グループプロジェクトはコミュニケーションスキルが身に付くし、他人から学ぶこともたくさんあるから日本ではもっと頻繁に行うべきだと指摘を受けた。

北アイルランド地方ベルファスト局のナオミさん(18)は「リーダーシップはプログラムを受けなくても育つ。自分の人生を自分で引っ張っている時点でもう身に付いている」と言う。ディアナさん(18)はもっと冷静な見方をした。「もしリーダーが休んだら残りのメンバーの中からまたリーダーシップを取れる人がいるようにするためには、みんなにリーダーシップが必要である。リーダーになることは特別なことではない」と。リーダーとはトップで引っ張っていくという意味ではなく、みんなの中心になって様々な意見を聞きながら周りに認めてもらい、チームをまとめていく役割であると米英の同世代の若者たちが共通して語った。リーダーシップは若いころにリーダーを経験することで誰もが身に着くものなので、アメリカやイギリスではこのような教育団体が多く存在することが分かった。リーダーシップは特別なものではなく身近なものであることを若者が理解することが大事だ。アメリカやイギリスのような教育を取り入れれば日本にもっと多くのリーダーが誕生していくのではないだろうか。