澤山友佳(16)

 日本に難民がいる――この事実を知っている日本人はどれだけいるだろうか。現在日本には1万人以上の難民が暮らしている。しかし、その数は世界的に見ると圧倒的に少ない。UNHCR Statistical Yearbook 2009によると、難民条約加盟国141ヶ国のうち、人口1000人当たりの難民受け入れ数では132位。難民の受け入れが少ない原因はどこにあるのか。

難民事業本部の鈴木功氏への取材

 難民条約によると、難民とは、「人種・宗教・国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であること、又は政治的意見を理由に、迫害を受ける可能性があるために祖国から逃れざるを得ない人」のことである。現在日本に定住する難民は、3つに分けられる。一つがインドシナ難民で、1970年代後半、新体制となったベトナム・ラオス・カンボジアから逃れてきた人とその家族が当てはまる。2005年の受け入れ終了までに11,319人が受け入れられ*、在日難民のほとんどを占める。二つ目が、条約難民。日本が1981年に加入した難民条約に基づき、日本政府の難民認定を受け定住を許可された人で、インドシナ難民との重複を含め2010年度までに577名が日本に定住した*。三つ目が、第三国定住プログラムの下で受け入れられた難民だ。このプログラムは2010年に開始された開始された外務省の事業であり、3年間パイロットケースとしてタイの難民キャンプから毎年30人のミャンマー難民を受け入れることとなっている。*難民事業本部案内 2011年度版より

 日本へ逃れてきた難民は、難民申請をし、政府の認定を受けなくてはならない。複雑な書類の記入や面接を含む審査は、彼らにとって困難を極める。審査には半年かかり、その間法律上正規な仕事に就くことができない。特定非営利活動法人「難民支援協会」広報部の田中志穂氏によると、「再申請は可能だが、審査そのものの透明性にも疑問は残る。トルコからのクルド難民の申請は認定されたケースがない。それは日本と外交上友好関係にあるためのようだ」という。

 日本への定住を許可されてもさらなる関門が待ち受けている。財団法人アジア福祉教育財団 難民事業本部では日本語教育や生活ガイダンス、就職相談を行っている。長年在日インドシナ難民の支援をしてきた特定非営利活動法人「かながわ難民定住援助協会」会長櫻井ひろ子氏は、その経験から「難民定住者への初期支援の日本語研修が572時間では圧倒的に短い。これでは地域に定住した後も日本語の各種書類が読み取れて、提出書類が作成できるようなるまで追加の日本語研修支援をしなければ自立定住には至らない」と言う。

難民支援協会の田中志穂氏への取材

同協会は1986年から神奈川県大和市を中心に、インドシナ難民の自立を目指してボランティアによる日本語教育や法律相談を行っている。教室には年間延べ約14,500人が参加するという。日本に定住する難民を対象に最も苦労していることについて調査したところ、トップが日本語の問題だと回答した。日本語が十分に使えないということは、職業の選択肢が狭まることも意味する。

 事務局長の與座徳子氏によると、子どもたちの抱える問題も深刻だ。家族と共に日本へ来た子どもや、難民二世として日本で生まれた子どもたちは、学校で日本語を学ぶが日常会話は比較的簡単に習得できるものの、教科書の中で使われる日本語が理解できずに学習の遅れが生じがちだ。主に母国語を使用し、日本語の習得に困難を極める両親との間ではコミュニケーション・ギャップが生まれることもある。 

 文化・習慣の違いや、日本社会の仕組みが分からないことから起きる問題もある。例えば、難民が定住している地域で旧正月を祝うために公民館を使用したくても、事前に団体登録が必要で、しかも日本人の責任者がいることなど、手続きが難しいことがある。與座氏によると、難民のほとんどが、母国に戻ることは出来ない状況の中で、日本経済の悪化により失業したり、次の就職先をすぐに見つけられないことなど日本での居心地の悪さを感じているという。

 上記の第三国定住プログラムも、2011年10月に第二陣のミャンマー人家族をタイ国境にある難民キャンプから迎えた。定員は30名に対して来日したのは18名だったとアジア福祉事業財団難民事業本部の鈴木功氏は言う。震災の影響も否定できないが、日本の受け入れ態勢の不十分さが浮き彫りとなったと言えるだろう。「インドシナ難民定住者の負の遺産を引継いでいる。その反省を踏まえて初期支援を充実させることが、地域での自立定住を容易にする」と櫻井氏は訴える。

 難民は、少子化の進む日本社会にとってもはや欠かせない労働力だという指摘もある。輿座氏と田中氏が共に言及したように、日本とは異なる文化を持つ彼らは日本に多様性をもたらしてくれる存在でもある。日本が海外援助で橋や道路などを建設するだけ建設し、その後の影響を顧みていないことが多いという批判はしばしばなされるが、難民についても同様だ。単に受け入れる数を増やすだけでは解決にはならない。難民認定申請者の中には経済移民も含まれているため厳密な審査は必要だが、難民が日本で安心して生活できる環境を整える視点が忘れられがちだ。今までの難民定住における問題点を検証し、受け入れる以上は国や自治体がそれぞれ責任を持って、日本語教育を中心とした十分なサポートをしていく必要があるだろう。民主化が進むミャンマー情勢を見ても第三国定住の受け入れに関しては、日本への定住が本当に彼らにとって良いことなのかという見直しも迫られる 。一人でも多くの日本人が難民たちの背負っているものを理解し、文化や習慣の違いを認めることができれば、彼らのアイデンティを活かせる場が増えることになろう。「官僚主義」、「たらい回し」、「同一志向」――難民の抱える問題の解決に取り組むことは、日本の問題そのものと向き合うことでもある。