記者:池田真彩 Maaya Ikeda (17)

「いつか出版社を訪問してみたい」と憧れを抱いていた私(記者)。2024年8月22日、幸運にもその機会が訪れ、新潮社を訪問することができた。私は他の記者が株式会社新潮社 文庫出版部 新潮文庫編集部の編集長である大島有美子さんに取材する場に同行する機会を得たのだ。また取材後は、著作権管理部デジタルライツビジネス室の室長である後藤ひとみさんに案内していただきながら、社内を見学した。

 神楽坂駅から新潮社に向かう道は、神楽坂のメイン通りを外れているせいか、静かな雰囲気が広がっていた。スマホの地図を頼りに進んでいくと、歴史を感じさせながらもどこかモダンな印象の建物にたどり着いた。ビルに掲げられた「新潮社」の文字が目に入り、ひとまず安堵したものの、これから始まる取材を前に緊張が高まっていった。

 ロビーに入ると、様々な種類の文字が彫刻されている壁が目に飛び込んできた。私は世界史を勉強していることもあり、何が書かれているんだろうと、すごく興味を持った。彫刻の文字を見ていると、この会社の歴史や奥深さを感じた。また、様々な物語がここで綴られてきて、今も「文学」を守るための会社として続いているということを強く主張しているようで、新潮社を象徴する彫刻だと思った。

 社内の落ち着いた雰囲気の中、私の当初の緊張も少しずつほぐれていった。そして、私たち記者はロビーから取材をする部屋へと案内された。そこでは、十万部を突破した時に作られた革装本が並んだ本棚がとてつもない存在感を放っていた。まるで物語に出てくるような、昔の図書館にありそうな、上品な装丁の本たちに私たちは圧倒された。自分が興味を持っているお仕事をされている方に直接お話を伺えるなんて、そんな機会はそうそうないだろう。取材が始まると、私は少しドキドキしはじめた。たくさんのことを吸収しようと、大島さんのお話に全力で耳を傾けた。終始「裏側はそうなってたんだ!」と目から鱗だった。

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新潮文庫編集部の編集長 大島有美子さん

 一緒に行った記者が用意した質問は、新潮社についてうまく深掘りする内容で、大島さんより興味深いお話をたくさん聞くことができた。取材では「新潮文庫の100冊」に多くの人が関わり合い、本が選ばれることがわかった。取材が終わる頃には、多くの気づきや学びが得られ、まるで一冊の本を読み終えたときのような充実感があった。

 取材後、私たちは社内の各部署を案内していただいた。最初に訪れたのは編集部。廊下には見覚えのある映画のポスターが飾られ、これが出版社なんだ!という実感が湧き胸が弾んだ。部署内を覗くと、本や雑誌、デスクが雑然と並び、まさに想像していた「ザ・編集部」の雰囲気。まるで推しの聖地巡礼のような気分だった。おしゃれ雑誌『ニコ⭐︎プチ』が机に置かれているのを見つけ、小学生の頃は毎月友達と発売日に本屋さんへ行き、一緒に読んで楽しんでいた頃を思い出した。

各部署を案内していただいた

 次々と部署を回っていく。校閲部は一際静かな空気が流れていた。社員の方のデスクに向かっている姿勢から、一段と集中力を要するお仕事だということが伝わってきた。また、社内に「新潮社資料室」といういわば図書館のような部屋があるのも印象的だった。部屋の構造や匂いが学校の図書室と似ていて、親近感が湧いた。ここは自社、他社出版を問わず本を保管している場所だ。部屋に入ると、司書さんが優しく迎え入れてくださった。会社の中に立派な図書室が出来上がってしまう蔵書数に圧倒された。

司書さんもいる新潮社資料室

 私は、読んで良かった作品を友達に勧めて、相手にも「読んで良かった」と言ってもらえた時にとても嬉しいと感じる。これが自分も第一線で制作に近くで関わって、もっと色々な人に作品の魅力を伝えてみたいと思ったのが出版業界に興味を持ったきっかけである。今回の取材で現場の声を伺えたことで、もっとその気持ちが強くなったと感じる。特に大島さんの『くちぶえ番長』の制作に携わった際のお話を聞いて、私もたくさん試行錯誤を重ね、色々な人の手が加わった本を世の中に届けるという仕事のやりがいを味わってみたいと思った。


取材後記: 今回のYEJの取材では、一緒に取材に行った記者と同行者と、カフェでお茶をしながら感想を共有した。いつもの取材はそのまま帰宅して、一人であれこれ考えていたので、取材直後に感想を言い合えるのが新鮮で楽しかった。解散後、電車の中で次に読む本は何にしようか、と取材後に頂いた「新潮文庫の100冊」の案内冊子を開いた。

自己紹介: 今回の取材で初めて出版社に赴き、かねてからの憧れが実現しました。貴重な機会に感謝しています。「わぁ」と呟いてしまうほどの驚きと発見があり、多くの学びを得られました。「出版業界を目指す若者には、本が好きな気持ちに加えて、プラスαのアイデアの引き出しを持つことが大切だと思う」という大島さんの話が印象に残りました。この話は出版業界に限らず、どんな業界でも学生にとって必要なことだと思います。自分にはまだプラスαが見つかっていませんが、さまざまなことに触れて興味の幅を広げ、新たな自分を発見していきたい。また、取材を通して、一冊一冊に制作に関わった人たちの気持ちがこもっていることを実感し、その思いを最大限に受け取りたいと思いました。これからは、本を読む時間を今まで以上に大切にしたいと思います。