「難民キャンプで暮らしてみたら」上映会に参加

記者:林遼太朗 Ryotaro Hayashi(17)

2024年12月14日、東京都港区にある明治学院大学白金キャンパスで「難民を自分たちと同じ目線で捉えて考える」という目的で学生たちが企画した「難民映画祭パートナーズ」が開催されました。映画上映後、この映画に関連して「シリア難民」を主題とした二人の専門家によるトークセッションが行われました。本記事は私(記者)が参加したイベントの体験記です。

難民UNHCR映画祭は、紛争や災害などによって母国から避難せざるをえなくなった難民の支援を行なっている国際機関のUNHCR(国連難民高等弁務官事務所 )の高等教育プログラムです。このプログラムに参加している明治学院大学で開催された上映会に参加しました。

参加したきっかけ

 私がこのプログラムに参加したきっかけは、国際情勢や難民に関連する問題に興味があったからです。特に映画「スター・ウォーズ」を好んで見ていた私は、その中の銀河共和国という民主主義議会が戦争の勃発に関わって国家の転覆に繋がることに気付き、国際情勢について考えることは重要であると考えるきっかけとなりました。そして、変わりゆく世界情勢に目を向け、難民に関することや紛争について人々に知ってもらうために記事を書いてみようと、このイベントに参加する事を決めました。特に今回のテーマであるシリアの難民問題について、昨今目まぐるしく情勢が変化しています。2024年12月7日にも、長年にわたりシリアを支配していたアサド政権が崩壊し、反体制派が政権を掌握しました。このような出来事も参加への後押しとなりました。

明治学院大学白金キャンパス 「難民を自分たちと同じ目線で捉えて考える」という目的で学生たちが企画した「難民映画祭パートナーズ」

映画の内容、印象的な点

 この映画は2014年にアメリカ人の二人の青年がUNHCRの協力を得て、シリア難民と1ヶ月間生活したドキュメンタリー映画です。二人は紛争によるシリア難民が多数存在するヨルダンのザータリ難民キャンプで生活を1ヶ月間送っていました。このキャンプでは8万5000人以上が暮らしていて、貧しいながらも学校や市場などがあり、生活を送る様子が写されていました。

 キャンプで生活をしていくなかで、二人が様々な紛争の現実に直面し、その辛さから涙を流す場面も見受けられました。そしてそこでの生活を通じて二人は「平和の実現には人間としての尊厳の保証が必要であり、国は難民を積極的に受け入れるべき」という結論に至りました。

 私はこの映画を見て印象に残った点がいくつかあります。まず、難民キャンプでの難民たちの日々を生きていく姿勢です。彼らは皆、空爆や戦闘により家や家族、友人を失い、戦闘を避けるように夜逃げしながらヨルダンに命からがら逃げてきた人ばかりです。加えてキャンプでも砲弾の音が鳴り、常に危険な状況に置かれているのです。その状況下にも関わらず、難民キャンプでコミュニティを作って常に励まし合い、平和を望みながら生きている姿が印象的でした。

 また、ラウフという難民の少年が心に残りました。ラウフは医者になりたいという夢を持ちながらも学校に通っていませんでした。その理由が、前に通っていた学校が空爆され、友人が亡くなって心に傷を負っていたからだと知り、私はとても大きなショックを受けました。

 シリア難民の寛容さも心に残りました。映画にでてくるシリア難民は皆、アメリカ人のこの二人に優しく接していて、互いに理解しあい、助け合いながら生活していました。テレビの報道では、時にイスラム教徒やシリア人の一面的なイメージが伝えられることがありますが、この映画で描かれるシリア難民は、それとは異なる彼らの姿があり、戦争は政治を含め、複雑な対立によるものなのだと感じました。「隣人として助け合う事で、世界は変えられる」というメッセージの重要性が伝わりました。

 最後に「教育の重要性」も痛感しました。紛争から国を再建するためには子供の教育が必要不可欠であり、施設での子供のケアの目的が将来国を担う子供への教育だと知って感銘を受けました。

専門家による解説・トークセッション

 映画の視聴後、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授の黒木英充先生と、認定NPO法人難民支援協会の渉外チームマネージャーの赤阪むつみさんの二名による解説・トークセッションが行われました。まず、シリア内戦の経緯について、黒木先生が解説を行いました。

「この紛争は2011年の南シリアでの抗議運動が全国に広がり、反政府派と政府の戦争が発生し、それが現在まで火種になっている。宗教や人、地域性など様々な要因が複雑に絡み合っている。」(黒木先生)

 また黒木先生は「現在シリアでは政府が打倒されて自由が戻ってきたが、内部にはまだ様々な問題がある。避難民の国内への出戻りや武器を流していた国はどうなのか、など、まだまだ安心という状況ではなく、これからも注視していく必要がある。またあらゆる軍事施設が破壊され、国内の国防力はゼロになっているので、テロやさらなる内戦という可能性もある。」とシリアの混乱する現状について言及しました。

 次に、赤阪さんによる日本に来るシリア難民の方について解説がありました。「日本に来ている難民の方で、家を持つことができず苦労している人もいる。一人一人物語が違う難民の方々にそれぞれに合った支援をする必要がある。」と述べた上で、次の点を指摘を指摘しました。

「世界の難民は増え続けていているにもかかわらず、アジア諸国では難民条約の締結国が少ない。そのため、日本が先頭に立って主導する必要もあるのではないか。日本では1000人ほどのシリア難民がいるが、日本では難民認定が少なく、受け入れられないこともあり、申請から平均して3年程かかる。一方、ウクライナ避難民は積極的に受け入れていて、そのような日本政府の対応は素晴らしいと思う。」(赤阪さん)

 シリア難民に対して私たち日本人ができることとして

  • ウクライナ人を受け入れたような制度の改善、予算化
  • 「難民を背景にもつ」ことへの理解」
  • 国籍や顔などの違いへの偏見をなくす
  • シリア難民たちの「声」の可視化

の4つの点を挙げ、「近所との関係のように関係を拡張していけば、支援の輪が広がる可能性が高くなる」と述べました。

認定NPO法人難民支援協会の渉外チームマネージャーの赤阪むつみさん(左)
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授の黒木英充先生(右)

 最後に「難民に対する視点のあり方」について、お二人が解説しました。黒木先生は、「移民を当たり前にし、自分ごとにしていくことが必要であり、自分たちの地続きの問題だと捉えていくべき」と語りました。赤阪さんは「日本の難民の受け入れが進まないのは、日本国民の難民に対する理解が進んでいないため、政党に声が届きにくく、よって政治家も真剣に問題に取り組もうとしていないことが多い。難民の受け入れは国籍で選ぶのではなく、同じ目線に立って、困っている人に手を差し伸べることが重要」と締めくくりました。

 私は今回のイベント参加を通じて、遠い国の話でも私たち日本人が「他人ごと」ではなく「自分ごと」として意識して考え、身近な出来事として捉えるべきだと考えました。そのため、普段の会話でも難民や紛争について家族や友人に話題として話してみる事も非常に良い試みだと思います。私たちの日常での小さな試みが、社会を動かすことに繋がるかもしれません。私たち若者にもできることはある、と考えた一日になりました。


自己紹介: 映画「スター・ウォーズ」を視聴してから戦争について興味を持つようになりました。そこから戦争による分断、難民問題や戦争を起こさないための安全保障について理解し、探究したいと思い、専門家や団体の方へ取材活動を続けています。