記者: 飯沼茉莉子(13)、宮澤結(16)、 富沢咲天(14)
ニュースを伝えながら番組の司会進行を務める報道キャスター。テレビに映る華やかな一面の裏にはどのような仕事や努力があるのだろうか。国内外問わず多くの取材を行ってきた安藤優子さん(51)にお話を伺った。
報道キャスターという仕事のどんな部分に魅力を感じますか。
原稿を読むだけではなく、取材をして見たもの、感じたこと、聞いたことを自分の言葉で原稿にして、伝えられるというところです。活字メディアとは違い、映像と音声がなければ番組になりません。人が肉声で語っている場面を映像で撮らなければ放送できないというテレビの潔さが好きですね。
もともとジャーナリスト志望ではなかったそうですが、 30 年間報道の仕事を続けてこられたのはなぜですか。
本当に自分でもなんでこんなに続いてきたのか不思議に思います(笑)
ひとつは、何もわからないまま体当たりで飛び込んだ報道の世界で、周りから叱られたまま辞めるのが悔しかったから。もうひとつはいろんな出来事や、歴史が変わる瞬間を目にして、現場の空気を吸い、そのことを皆さんに伝えられる仕事のすごさに気付いたからです。フィリピンのマルコス大統領が亡命する様子をリポートしたことがありますが、革命派が勝ってマルコスが負けた瞬間、フィリピンが変わった瞬間に立ち会い、多くの方に伝えていたわけです。
取材の前の下調べはどのようにされているのですか。
新聞やテレビを通して日本のニュースは全部見るように心がけています。家では海外のニュースをつけっぱなしにしていますね。基本情報はインターネットで調べることもありますが、深い情報は本から得ます。とにかくいろんなジャンルの本を毎晩読むんです。今は関係ないかなと思う本でも後々つながってくるので。他にも外に出て専門家のお話を聞くなど、普段からあらゆる情報の引き出しを作っておくこと。これが私の下調べです。
急な取材のときはどうするのですか。
そのときは周りにある資料を全部持って移動の途中で読みますね。でも、地震や戦争などが起きた場合、書かれた資料が役に立たないこともあります。まっさらな気持ちだからこそ見えるものもある。資料に頼り過ぎず、自分が見たものに率直に反応するようにしています。実際には突然の取材で、何も持たずに出かけることもしょっちゅう。ニュースの取材は一刻を争うので、家に帰った途端電話が鳴り、 10 分で支度をして出かけたこともあるんですよ。
インタビューや生放送など、緊張するときにどうしたら平常心を保っていられますか。
緊張するのは準備不足のとき、ハプニングが起きたとき、自分をよく見せようと張り切ったときです。だから平常心を保つためにはこの逆のことをします。ニュース番組では想定外のことが起こるのは当たり前。どんなときでも「自分は全部知っているんだぞ!」と見せかけようとせず正直に、「自分もよくわからない、みなさん一緒に考えてみましょうよ」という姿勢で臨めば、落ち着いていることができますね。
インタビューの中で本音を聞き出せる質問とはどういうものですか。
インタビューには良いインタビューと悪いインタビューがあります。これはひとえに質問の力です。良いインタビューというのは相手の話をきちんと聞いてから質問をするもの。悪いインタビューというのは予め決めた質問をそのままの順で繰り返して、相手の答えをしっかり聞かないものです。相手の答えを受け止めて真剣に次の質問をすれば、本音で答えてくれると思いますよ。
事前にたくさん準備をした中から最終的にする質問はどのように決めているのですか。
まずは一度、考えた質問を全て書きだして、そのあと最初にする質問だけを決めます。本番は相手の話を聞きながらもう一度質問を組み立ててみる。だから私は相手との話を始めてから最終的な質問を決めます。先日もアメリカの大使にインタビューをしたのですが、事前に提出した質問の中で実際に聞いたのは一つだけ。でも、すごく面白いインタビューができました。コース変更を恐れずに、その場で本当に聞きたいことを聞く。これが大切ですね。
現場に行ったからこそ分かるのはどのようなことですか。
ニュースを起こしているのはその現場にいる“人”。単純でわかりやすいことばかりではなく色んなことが複雑に絡み合っているんです。例えば小さな川をめぐって A 部族と B 部族が争っていたとしますね。東京にいたら「川ごときで戦争をするなんて……」と思うかもしれない。けれど、現場に行ってみるとその辺りで唯一の水源であることが分かる。現場に行くことでそのニュースの本当の姿や、芯に当たる部分が見えてきます。
特に印象に残っている現場はありますか?
ルワンダの難民キャンプですね。それまで目にしたタイやカンボジアの難民キャンプとは規模や悲惨さが違う。壁の枠だけが残ったホテルの片隅に寝袋を敷いて寝泊りしていたのですが、天井がないので横になると空が見えるんです。命からがら逃げてきた人がみんな同じ空の下で寝ている。同じ空気を共有すると少しだけ思いも共有できる気がしました。
現場に行って、危ないとか怖いと感じることはありますか。
不思議なもので現場では怖さを感じません。湾岸戦争の取材では化学兵器が打たれた時に備えて、ホテルの窓の隙間にマスキングテープを張り、身体に化学薬品がつかないようお風呂に水を張って常に浸かれるようにしておく、空襲警報が鳴ると非難する生活でした。でもその時は怖いとは思わなかったんです。混乱した病院での取材中、亡くなった人をまたいでしまったことがあります。その時は何も感じていないと思ったけれど、家に帰ってから疲れた時に、その病院の中にいて何階に行っても絶対に外に出られないという怖い夢を見ます。冗談ではなく 100 回以上繰り返し同じ夢を見ていて、自分の心は傷ついていたんだなと気づくんです。でもまた忘れて、次の取材に出掛けちゃうんですけどね。
お仕事を続けながらも大学に通われているそうですが、忙しいなか両立されているのはなぜですか。
それは学ぶのが楽しいから。 2008 年に修士をとり、今は上智大学の博士課程で政治学を学んでいます。高校を出て大学に入った時は遊んでばかりで、授業には真面目に出ていなかったけれど、社会に出たら何も学んでいなかったことに気がついたんです。その後お休みしていた大学に戻ってみたらなんと、自分が現場で見たことがよみがえり、教科書の活字が立体として浮かび上がるようにわかる。何を学びたいかが自分でわかるから、忙しくても楽しいですね。
これから取り組んでいきたい生涯の取材テーマはありますか。
「命」や「生きる」ということ。これはどういう分野にも通じるもので、環境問題にも政治にも経済にも命はかかわってくる。私は「人間はただ生きているだけでえらい」っていう持論の持ち主なの。生きるというのは大変なことだから、ただ生きているだけで、息をしているだけで偉いと思う。だから、命や生きるというテーマは大切にして取材をしていきたいと思っています。
取材をした記者の感想
飯沼茉莉子 (13)
今回、フジテレビのFNNスーパーニュースのメインキャスターとして活躍している安藤優子さんに多忙の中取材をさせていただく機会を得た。雑誌などでも常に取り上げられる存在であり、私たちのあこがれの女性である安藤さんへの取材が出来ることに私はとても興奮し、そして緊張して取材に臨んだ。
安藤さんへの質問は9個用意したが、私が一番聞きたかった事は「インタビュー前の相手への質問の決め方」だった。私は記者としてこれまでに何度か取材を経験してきたが、事前に質問を考える際に、「この質問をして相手に失礼ではないだろうか」、「この質問で本音が聞き出せるのだろうか」と頭を悩ませてきた。質問を決める基準というものがわからないのだ。プロはどのように準備しているのか。いつもは取材する側になっている安藤さんに聞いてみた。「取材の前はとりあえず10個の質問を決めておきます。でも実際に取材をすると、結果的に事前に考えた質問のうち1個しか聞いていません。他の質問は自分が取材している中で疑問に思った事を頭の中で組み立てていきます。たとえ相手が嫌そうでも、私たちは相手の機嫌を取るために取材をしているわけではないので、話しの流れの中でどんどん自分が聞きたいと思った事は質問した方がいいのですよ」と教えてくれた。答えを聞いて納得した事があった。それは、私たちは相手の機嫌を取るために取材をしているわけではないということだ。私はまだ初心者なので、安藤さんのように10個考えた質問のうち1個しか使わないような事はできないが、取材に慣れていくうちに自分がその場で感じた事や疑問を聞けるようになりたい。そのためには、「用意していたコースの変更を恐れない事」が必要だと教えてくれた。
取材を終えた時、安藤さんは私の手をきつく握手してくれた。この握ってくれた手の強さは私を大人の記者として認めてくれた気がして嬉しかった。安藤さんのようにどんな取材にも対応できる引き出しをたくさん持つ記者になりたいと思う。
富沢咲天 (14)
アメリカのNY郊外に住んでいた小学生のとき、現地で見られる日本語のニュース番組を毎日楽しんで見ていた。そのころから私のなかでは日本のニュースキャスターといえば安藤優子さんだった。だから今回の取材は数ヶ月前からとても楽しみにしていた。
インタビューのための部屋に入ってきた安藤さんは、テレビで見るそのままの気さくな雰囲気の方だった。何度も質問の打ち合わせをしてしっかり準備していたつもりだったが、やはり本人を前にするとあがって緊張してしまう。
自己紹介のあと、さっそく「取材の時にどう平常心を保つか」を質問した。上がり性の私にとって、今すぐにでも知りたいことだ。安藤さんも取材の時緊張するという。そういう時は、なぜ緊張しているのかを考える。その理由として、「準備不足」、「自分をよく見せようとするから」などが挙げられる。ならばその逆をすればいい。ちゃんと取材の準備をして、自分をよりよく見せようとしない。ハプニングはつきものだが、緊張する原因の逆をすることで平常心を保つそうだ。なるほどと納得した。
まっすぐこちらの目を見て丁寧に話してくれた安藤さんは、まさに何千回ものインタビューをこなしてきたプロだ。子ども記者として、安藤さんの一挙手一投足はとても勉強になった。最後に力強い握手をしながら、取材相手から話しを聞き、それをみんなにしっかりと伝えるジャーナリストになるには、人と人との対話がきちんとできることが大事なんだと思った。
宮澤 結 (16)
私たちの周りには、新聞、テレビ、インターネットなど、国内外の情報を伝える様々な媒体がある。その中でも、私にとって朝、晩必ず見るテレビのニュースは一番身近な「情報を取り入れる媒体」だ。
安藤優子さんは大学生の時にアルバイトとしてテレビ局で働き始めてから約30年もキャスター、そしてジャーナリストとして活躍している。お話を伺うまで、いつもテレビで見る安藤さんが、どんな危険な取材をしても続けている報道の仕事とはどのようなものなのか、疑問に思っていた。「活字で表すことの出来ないものも、テレビでは映像や声で表すことが出来る。そんなテレビの潔さが好きなんです」と笑顔で答える姿に、報道の仕事に対する誇りや愛情を感じた。
これまで湾岸戦争、難民キャンプといった数々の危険な取材も行ってきたが、不思議と現場にいるときは“怖い”と感じないそう。後で日本に帰ってきてから怖かったと気付くという。「でも、また取材に行くときには忘れているんですよ」と笑いながら言う安藤さんが印象的だった。また、現場へ行く意味を問うと「どんなニュースも主体は人間。だからこそ有機的だし、抱えている問題の深刻さや現地の匂いは実際の現場に行かないと分からない。ニュースの5W1H (when,where,who,what,why,how) では収まらないくらい、現場はもっと複雑なんです」と力強く語った。取材中、真剣に話してくれた安藤さんは、私がノートにメモを取ることを忘れてしまうほど凛としていてかっこよく写った。
沢山の情報が渦巻く今の社会で、自分の見た情報を自分の言葉で伝えるジャーナリスト。「 5 W 1 Hでは収まらない」報道の世界にテレビのニュースを見る目が変わる取材となった。