トビタテ!留学JAPANー日本の当たり前を疑え

記者:福田和偉 Kai Fukuda (17)

国際化が進む現代において、日本から「グローバルリーダー」を輩出することを目的とし、留学支援を行うプロジェクト「トビタテ!留学JAPAN」。プロジェクトディレクターとして活動されている荒畦悟(あらうね・さとる)さんに高校生が留学することの意義や、今後の展望などを伺った。

トビタテ!留学JAPANの強み

 「トビタテ!留学JAPAN」とは、2013年に文部科学省を中心として始まった官民協働の海外留学支援制度である。その大枠の中で、奨学金を出して学生を海外へ送るプログラムが「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」だ。国や公的機関が運営する留学支援制度と異なるのは、国の制度はほとんどが税金で運営されているのに対し、トビタテ!は民間の支援(寄付)で成り立っている点だ。「税金は国民に様々な意見を聞かないといけないけれど、寄付の場合は支援してくださる方々のご意向を反映する形を取ります。なのでトビタテ!は他とは違うプログラムを作ることができるという大きな特徴があります」と荒畦さんは説明する。

 税金を奨学金として使う場合、成績など説明しやすい基準が採用される。一方、トビタテ!は成績・語学力不問で、好奇心・情熱・独自性を採用基準としており、それを民間企業の方に書面審査や面接で判断していただくという形を取っている。自ら計画を立てる力や、海外でのイレギュラーな場面でも対応できる力などを総合的に判断することで多様な人材に支援を行うことができるのだ。

文部科学省官民協働海外留学創出プロジェクト トビタテ!留学JAPAN、プロジェクトリーダー荒畦悟さん

グローバルリーダーを育てるということ

 「実を言うと、私はグローバルリーダーではないんです」と荒畦さんは教えてくれた。今グローバルリーダーの育成に取り組んでいる理由の一つは「大学時代に海外に行けなかった後悔」、もう一つは「外資系企業に勤務していた頃の体験で、国境を越えて活躍する人たちに出会って刺激を受けた一方、エンジニアの採用に取り組んだ際には、インドや中国からは大量に応募があるのに対し、日本人の応募が本当に少ししかなくて、そこに危機感を感じたこと」だという。

 グローバルリーダーに必須となる条件を伺うと、ベースとなるものの1つとして語学力をあげられた。「世界の色々な人材育成プログラムや奨学金団体から日本人に参加してほしいという声を聞くけれども、語学力が課題で、世界で活躍してる人たちのコミュニティに入れないというのはもったいない」「俯瞰的に見ると、世界規模のコミュニティの中で、日本人はブリッジ役になれる特性を持っていると感じているので、その強みを活かすためにも、語学力をつけてもっと外へ出て繋がっていく方がいい」と荒畦さんは語る。

高校生が留学する意義

 荒畦さんの考える高校生が留学することの一番の意義は「日本の当たり前を疑う視点を持てること」だという。客観的に今の自分が置かれてる状況を見ることで、それを何か今後に繋げることや、逆に日本が生きづらい人にとっては、生きやすい世界を見つけることにもなる。自分は何か不幸だなと感じている人が、実は周りにはこんなにも支えてくれる人がいるんだという感謝を感じる経験ができるかもしれないのが留学だ。

 ただ、様々な障壁があるのも事実である。荒畦さんは次のように考えている。「高校生の留学には、経済格差、情報格差、意識格差の三つの格差があると感じています。経済格差は何とか奨学金でカバーしたいと考えていて、情報格差に関しても、文科省と官民協働の強みを活かして、全国の学校にポスターやチラシを送ることで対応できています。けれども、意識格差が一番の課題で、先生から反対されることや、親から『留学は大学からでいいのではないか』と言われてしまうケースもよくあり、今の日本はまだ留学というものを肯定する文化じゃないのかなと感じます。」

 このような現状において高校生で留学する人を増やすには、ロールモデルの存在が重要だという。「トビタテ!が運営する「留学大図鑑」というプラットフォームがあり、多くの学生がロールモデルを見つけられるだけでなく、世界で自分の学びたいことを見つけたり、様々な分野を掛け算することで視野を広げることができると思います。世界中から、自分が学びたいことを学べる先を探せるサイトとしてすごく価値があると思います。」と荒畦さんは胸を張る。

トビタテ!が見据える未来

 「世界と繋がり続けることによって、世界のネットワークとか、世界のリソースを自分のものにできる人をもっと増やしていきたいと思っています。そのためには留学に行って終わりではなく、留学先で繋がったコミュニティを継続していく、このような環境を作っていければいいなと思います」と荒畦さん。

 今の日本の教育ではレールから外れたらもう終わりみたいな感覚があるが、そうではなくて、「こういう生き方もある」など、多様な生き方を教える機会を学校以外で探していく方法もあるのではないか-荒畦さんは「学校は先生だけしかいない神聖な場所みたいな感じがしますが、実際は、色々な社会経験をしてる人たちが、学校現場や教育の現場に関わるような仕組みに徐々に変わりだしています。学生が親と先生しかロールモデルとして知らないような状況に置かれなければいいなと思います」と未来を見据える。

失敗を責めない文化を作る

 また「失敗を責めない文化」を作っていくことも大事なことだという。「アメリカに留学した高校生がいて、野球をやっていた子なんだけど肘を怪我してしまい、やめざるを得なかった。そこで次は指導者になろうと志し、ドミニカに留学した。練習風景を見て彼が一番感じたことは、みんなが笑顔で、コーチが怒らないことだったそうです。ミスしても怒らない。そこでコーチに『なぜ、怒らないのか』と聞いたところ、『怒ると萎縮する。生き生きとプレーができなくなる』と言われたそうで、それが一番、留学に行っての気づきだったと後で教えてくれました」とこれまでの経験を荒畦さんは話す。


取材後記: 僕自身、留学を経験して自分の価値観が大きく変わったという背景がある中で、改めて高校生が留学する意義や、留学に対する意識格差についての課題を伺うことができた。学生にはこの記事を通して留学を身近に感じてもらい、ぜひチャレンジしていただきたいと思う。

自己紹介: 記事を書き終えるころにはおそらく進級していると思うので、今年は受験生である。世間的には受験と聞くと憂鬱なイメージを抱くのかもしれないが、僕は勉強が好きなので良い具合に楽しめたらいいのかなと考えている。結果にこだわることなく気楽に取り組んでいけたらなと思っている。