アーティスト、キタダタキさん

記者:邊愛 Pyong Sarang (16)

東京を舞台に、都市の写真×デジタルドローイング×絵の具を組み合わせて絵を描くキタダタキさんに、経歴から制作方法のこだわり、絵に込めた思いまでお話を伺いました。また、絵のコンセプトになっている娑婆即寂光*についても詳しくお聞きしました。

*娑婆即寂光(しゃばそくじゃっこう): この娑婆世界がそのまま寂光浄土(寂光土)であると捉えること。ここでいう寂光とは、真如の理体そのものの世界をいう。天台宗においては四土を説くが、そのうち究極的な世界として寂光土を立て、法身の土とする。(新纂浄土宗大辞典より 新纂浄土宗大辞典 jodoshuzensho.jp )

ストリートとともに歩む

記者:スナップショットを撮って作品を作られているということですが、街中を散策していて特に惹かれる場所、またよく写真を撮る場所はありますか。

キタダさん:それはまさに渋谷駅です。私の高校は久我山っていうところにあったのですが、そこでいつも遊びに行くのは渋谷や吉祥寺でした。私は音楽が大好きなので、ライブハウスやクラブなど、そういう音楽のべニュー(会場)をたくさん撮っています。その他にもストリートアートが好きなので、ストリートにいる人たちをたくさん撮って今を伝えたいです。

記者:ストリートアートのどういうところが好きですか。

キタダさん:現代の世界に生きてる人たちの、ギャラリーではないその町の道で自分自身を表現している姿がとても生き生きしてるところですね。本当に今の世界を見ることができます。

仏教とアートーどんな環境でも

記者:「娑婆即寂光」をコンセプトに作品を作ろうとお考えになった経緯を教えてください。法華経(大乗仏教)になにかご縁があるのでしょうか。

キタダさん:親が仏教徒だったので私も法華経を持っているんですけれども、自分が表現したいものを考えた時、とても好きな哲学の考え方を少しでも伝えていきたいなと思うようになりました。

法華経はガウタマ・シッダールタが一番最後に書いた仏典です。一人の人間には無限の可能性があって、それを開いていくことで、環境自体を変えていくという内容なんです。外でどんなにたくさんのことが起こっていても、一人の人間が変わることが社会を確実に変えていくというところがすごく現実的で、その明るくて強い考え方が大好きになり、私もそれを伝えていきたいと思うようになりました。

娑婆即寂光もその考え方の一部で、自分の今いる場所が汚かったりぐちゃぐちゃしてたり、田舎すぎるとか都会すぎるだとかがあったりしても「どんな環境も自分で楽園にしていける」という明るくて強い考え方なんです。なので私もそれを表現できるといいなと思っています。どんな環境からでも楽園を作っていけることを伝えたいので、自分が今住んでいる場所だったり、たくさん遊びに行った渋谷や下北沢などの街の現実の写真を撮って、そこを楽園の景色にしていくというコンセプトで使っています。

記者:色使いについて、どんなこだわりがありますか。どういう組み合わせだと「決まった」と感じるのでしょう。

キタダさん:私の尊敬する画家の方がおっしゃっている言葉で、人間誰でもその人が元来持っている色というものが3色はあるそうなんです。私の場合は、ブルー・パープル・ピンクをメインに使っています。それに加えて、素敵だと思ったもの(植物、場所など)の色を取り入れたりします。

また、全体が色だらけになると、観ていて少し苦しくなってしまうので、そこに白だったり黒だったり、グレーというような色を加えて、呼吸をできる場所を作ってあげることが色をたくさん使うときのこだわりです。

さらに、自然の中にある色の重なりをたくさん見ることが、もう一つ私の練習でもあり楽しみでもあります。人工のものって、すごくたくさん色を重ねていて結構チカチカしちゃうんですけど、自然の中には本当にいろんな色があるのに、それが解けるように一緒になって空間を作っているんです。その感覚をたくさん浴びると、こういうのがいい感じというものが自分の中にちゃんと溜まっていきます。それを繰り返していくことで「この感じがいい」と決められる感性が育つようになるので、たくさん散歩することも大事ですね。

アーティストを志したきっかけーアートに魅せられて

記者:ライブペインティングを定期的にされていますが、観客の前で描くのはどんな感じですか?活動する理由についても教えてください。

キタダさん:クラブやライブハウスの音楽が流れているところで、音楽とアートを一緒に楽しんでもらうために活動しています。ライブペインティングは描いてる私の姿も作品です。

なぜライブペインティングをするのかということに関しては、二つ理由があります。

一つは、ライブペインティングはイベントの4〜5時間という限られた時間の中で大きなものを描き上げるので、細かく描いている余裕がない代わりに、すごくダイナミックに物をどんどんと作っていけることに魅力を感じているからです。もちろん、大きな画面を短時間で描ききる筋肉をつけないといけません。

「完成した!」と綺麗なものを見せるよりも、私が書いてる姿自体をお客さんが楽しんでくれるのがライブペインティングの良さと北田さんは言う。

二つ目の理由は、できるだけ多くの人にアートを届けたいからです。

美術館と違い、ライブ会場とかクラブは本当にいろんな人たちが来ます。そのような人たちにも、アートをオープンに、誰にでも楽しんでもらえるように共有していきたいというのが、私の目的でありライブペインティングをする理由になっています。

楽園はどこに

記者:キタダさんの作品全体を通して伝えたいメッセージ、作品に込めた自身の価値観はどのようなものでしょうか。

キタダさん:本当の楽園というものは今自分の立っている場所にあります。「どんな場所でも美しくて、楽しい場所に変えていくことができる。それを叶える変化をつくる力は全て、一人の人間の中に、自分の中にある」ということを、私自身も、もがきながら伝えていきたいと思っています。

記者:今後の作品制作のビジョンなどがあれば教えてください。

キタダさん:私の作品は自分の立っているところで作っているので、主に東京の街を描いています。

でも旅をする中で、東京の外や外国にも、人が暮らしている素敵な地域があると感じたので、将来は東京の外に出て、その地方の方々のお話を聞いたり、他の国の文化の人たちと交流をしたりして、そこでの作品を作っていきたいというのが一つ。

二つ目は、これまでライブペインティングでは絵の具を使っていたのですが、音楽シーンの会場やクラブの後ろにプロジェクターで映像を映して、デジタルでライブペインティングをしていくっていうことを1回トライでやってみたら、とても楽しくていい機会だったので、これからはどんどん広げていきたいと考えています。


取材後記: 今回取材を受けていただいたキタダタキさんの絵はどれも格好良くて、見た人をその絵の中に引き込むようで、お話を伺うまではクールな人なのかなと思っていました。実際はとても情熱的な方で、そのパワーに圧倒されるほどでした。「どんな環境も自分で楽園にしていける」キタダタキさんがおっしゃったこの言葉を、私も大切にしていきたいと感じました。

記者雑感: 皆さんの生活の中で、アートとつながる機会はありますか?アートに興味がある、好きだという人以外は、あまり縁がないのではないでしょうか。生きていくのに不可欠な衣食住などに比べると、アートはどちらかといえば娯楽や贅沢の部類に入ってしまうと思うのですが、芸術からでしか得られないエネルギーがあると私は思います。それをキタダタキさんの描く絵やインタビューを通して感じました。