記者:寺尾佳恵(17)
日本人は英語ができない、とよくと言われる。これは、日本の英語教育に問題があるのだろうか。第一線で英語を使って仕事をしている2人の方に話を聞き、日本の英語教育について考えてみた。
文法中心は悪くない!
中学校に入ってまず始めるのは文法の勉強である。「 S (主語)の次に V (動詞)が来て……」という具合だ。日本の英語の授業は文法が中心、と言われることから「文法ばかりやっているから英語ができないのだ」と考える人も多い。本当のところはどうなのか。
『朝2時起きで、なんでもできる!』( サンマーク出版) など多くの本を出し、同時通訳者でもある枝廣淳子さんも、 『中年英語組 プリンストン大学のにわか教授』(集英社新書)などの著者であり、官民両方の世界でご活躍の岸本周平さんも、口をそろえて強調したことは 、「英文法をしっかり教えることは決して悪くない」だった。
「英文法をしっかり学んでいるからこそ、イントネーションやスピード、雰囲気に慣れれば、英語の力がぐっと伸びる」と枝廣さんは言う。どうやら「英文法中心だから英語ができない」わけではないようだ。
英語は目的ではなく手段である
では、なぜ英語がなかなかできるようにならないのだろうか。枝廣さんは「多くの人は英語でどう伝えるか、何を伝えるか、という目標を立てるのではなく、ただ英語ができるようになる、という目標を立てる、それが問題だ」と言う。岸本さんも「何のために英語を勉強するのか、という目標を明確にし、どの程度のことを英語を使ってやりたいのか、を決めることが大切」と語った。
英語を目的化している代表例の一つに受験があるのではないだろうか。確かに基本は詰め込まないと覚える機会がないので、そういう意味では受験は良いものだと思う。しかし、だんだんとテストで良い点をとるため、受験に合格するため、という考え方で英語を勉強するようになる。これがまさに英語の目的化なのだろう。岸本さんは「文法も丸暗記ではなく、興味を持たせるように教えた方がいい」と言った。
小学生の時から始めなくてもいい
今、小学校から英語を教え始めよう、という話が出ている。 小学生に英語を学ばせるかどうかについて検討してきた中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の外国語専門部会は 2006 年 3 月 27 日、5年生から週1時間程度を必修化する必要がある、との提言をまとめた。しかし、小学生の時から英語を教え始めてはその他の教科に当てられる時間が少なくなり「国語力」が低下するのではないかなどの意見も出されている。
これに関して枝 廣 さんは「現在、語学教育の方法として2つの考え方がある。ひとつは赤ちゃんが日本語を覚えるくらいの段階に日本語と一緒に覚えさせる母国語方式で、もうひとつは母国語が完成したあとにそれと対照する形で勉強する方法である」と教えてくれたうえで、「乳幼児期にやるか、日本語がしっかりした中学生になってからやるか、そのどちらかがいいのではないか」と語った。同様に岸本さんも「音は幼稚園からでいいが小学生のうちは日本語に力を入れた方がいい」という意見であった。
英語を使って何をしたい?
実際に苦手だった英語を「通訳者になる」という目標を持って勉強し、夢を実現した枝廣さんの「英語というのは手段のひとつであり、英語を使って何をするか、が大切」という言葉は印象的であった。英語ができるようになるために英語を勉強するのではなく、何か自分のしたいことがあるから、そのために英語を勉強する、というふうに英語に対するスタンスを変えていくことが、英語力をのばすカギだと実感した。
英語の先生には「英語って楽しい」と思わせる授業を行い、文法をしっかり教えつつ、生徒が「興味」を、そして「夢」を持てるような英語の授業を行ってほしい。
今、私たちに必要なのは「英語ができるようになりたい」と思うことではなく「英語を使って○○をしたい」という「夢」や「目標」を持つことなのだ。