~No more 「役にたたない」~
記者:三崎令日奈(16歳)
暗記ばかり、文法ばかり、役にたたない、中学からやっているのに話せるようにならない・・・学校での英語の勉強につら~い思い出はありませんか?日本の英語教育のどこに問題があるのか。また英語をきちんと習得するためには何が重要なのか。英語の「エキスパート」の3人に聞いた。
アンソニー・デムコ氏(50)は東京・四谷にある日本の英語教育の草分け、日米会話学院で教えて17年になる。デムコ氏は英語をつかう機会がないこと、試験中心であることが、日本の英語教育の欠点であると考える。日本の学校は1クラスの生徒数が多いので、十分にひとりひとりがしゃべることが出来ない。そして、試験中心の勉強ではコミュニケーションをすることを教わらない。大人になって、コミュニケーションが必要になってから教わっても年齢的に遅い、というわけだ。「日本の英語教育は試験中心である限り、現状は変わらないだろう」という。
光成美樹氏(31)は大学を卒業後、2年半不動産関係の仕事をしたあと、ペンシルバニア大学院に初めて留学した。偶然にもデムコ氏の教え子であった彼女は、現在は富士総合研究所に勤め、毎日のように英文でメールのやりとりをし、週に1、2回英語を話しているという。光成氏も、学生のころは「試験のために範囲を終わらせるタイプでした」。中学から付属校に通っていたので、いわゆる受験英語もやったことがない。大学院留学の際には、留学準備のために英会話学校へ通い、毎月毎月TOEFLを受けた。留学後も辞書を調べ調べの生活は続き、「急に子供になった感じでした。ずーっと大変だった」と当時の苦労を語る。
光成氏は日本の英語教育の問題点について、試験以外に教科書の英語が優等生的過ぎる点を挙げる。「日本の英語の教科書では、How are you ? ときかれたら、必ずI’m fine と答える。でも留学した時、アメリカ英語では、fine というのはあまりいい感じではないということが分かった。本当に元気なら、very good なんですね」と語る。現実とのギャップを感じたという。そんな光成氏が勧める英語の勉強の仕方は、インターネットをつかって英語の専門媒体を読むことだ。もちろん日本語をきちんと学ぶこと、単語や文法を身につけることも忘れてはならないという。
「まず教科書の例文が面白くない。テキストブックを忘れたという例文をよくみますが、誰も教科書なんて忘れても取りにいかないでしょう。Cell phone (携帯電話)だったらどうでしょう。こちらのほうが現実味がある」というのは、大正大学の西陰浩子教授(53)。通訳養成学校の講師、企画をはじめ、ビジネススクールの校長を勤めるなど大学の英文科卒業以来ずっと語学の仕事に携わってきた西陰氏は、生徒に好きな音楽を聴かせ、あることに気が付いた。生徒が聞き取れないリスニングには、いくつかの決まったパターンがある。このルールさえつかめればリスニングは出来るようになるのではないか。こうして出来た著者「英語リスニングのお医者さん」が約5万部の売上げで、好評を博した。読者からは「なんだこんなにリスニングって簡単だったんだ」という驚きの声をたくさんもらったという。
大学での授業では生徒が楽しめるように音楽をかける、ちょっと変わった自己紹介や発表の仕方など、たくさん工夫すると言う西陰教授の話はとても面白く聞き手が吸い込まれていくようだ。教え方ひとつとっても”I got off”は「揚げ豆腐」と聞こえる、などとてもユニークなものだ。日本の英語教育について「訳などを全部日本語でしてしまって実際英語をつかっている時間が短すぎる。生徒はたいてい英文を読むとき、英単語の下に自分でひいた辞書の一番目に出てきた日本語の単語を書く。次にこの人が英文を読むとき、もう英語なんて読みませんよ。自分が書いた日本語の訳をみているだけ」と指摘する。
長年英語に携わってきた3人の意見。これらは日本の英語教育にちゃんと反映されていくだろうか。将来世界を相手に仕事をしたい、たくさんの人とコミュニケーションをしたいという夢に、こたえられるだろうか。日本の英語教育は今、ターニングポイントをむかえている。これ以上「役に立たない」を作らないために、実際に英語をつかって仕事をしている人の意見をもっとカリキュラムに取り入れて、より実用的なものにする必要があると思う。
取材チーム:三崎令日奈(16)関口ひとみ(15)
2003年9月8日、11月20日、23日に取材