盲導犬からみた日本
飯沼茉莉子(12歳
デパートやコンビニのレジで盲導犬の置物がついた募金箱や、駅前で視覚障害を持つ人達が盲導犬と一緒に募金を募っているのをみかけた人は多いと思う。しかし実際、街中で盲導犬と視覚障害者が一緒にいる様子を見かけることは少ないし、周りにもあまりいない。では盲導犬は実際どれくらい活動しているのだろう。盲導犬の数は足りているのだろうか、どのような一生を過ごすのか、など様々な事を知りたいと思った。
そこで私達は日本盲導犬協会神奈川訓練センターと練馬区にあるアイメイト協会に取材に行った。日本盲導犬協会神奈川訓練センターのセンター長吉川明( 57 )さんによると、盲導犬を希望している人の数は、 13 年前の 1998 年に日本財団が調査したところ、盲導犬がすぐに欲しい視覚障害者は 4700 人、将来的に欲しい人を入れると 7800 人という結果がでたそうだ。「その後、どこも調査していないので現在の数は分からないが、現時点で 4700 人が盲導犬を欲しがっているとは感覚的に思わない。その半分の約 2000 人くらいではないか。でも盲導犬と暮らせる賃貸住宅や、盲導犬と一緒に入れる店や施設の理解がもっと増えて社会環境が整えば、盲導犬を欲しいという人が 4000 人ほどになるのではないか」と言う。
しかし、吉川センター長によると、現在日本にある 9 つの団体すべてを合わせても1年に多くて 140 頭しか「盲導犬」にならない事を考えると確かに数が足りない。それでも「社会の受け入れ環境が整い、視覚障害者に盲導犬への理解が進めば、盲導犬を希望する方の数がもっと増える」と話す。
一方アイメイト協会の中野薫さんは、「視覚障害者の中には高齢者や幼児、犬が苦手な人もいるため、視覚障害者全員が盲導犬を使いたいと思っているわけではない。そのため、盲導犬は 100 %行き渡っているわけではないが、世間やマスコミが言っているほど不足していない」と言っている。
吉川センター長によると、現在英国には約 4600 頭、米国では 8000 頭以上の盲導犬がいるが、日本には約 1000 頭しかいない。英国にくらべて、日本の人口の方がはるかに多いのになぜ盲導犬の数が少ないのだろうか?それには、国の歴史が関係しているそうだ。日本人は農耕民族であったのに対して、欧米人は狩猟民族だったため、昔から生活に作業用(ハンティング)の犬が欠かせなかった。そして室内での犬との暮らしが長いため、犬が盲導犬になりやすいという背景がある。一方、日本では室内で犬を飼う習慣は20年前まではあまりなかったそうだ。
盲導犬になるためのシステムについて日本盲導犬協会では、まず生後 2 カ月でパピーウォーカーのボランティア家庭に預けられ、10か月後に訓練所に戻ってくるシステムになっている。そこで、現在パピーウォーカー2回目の寺田さんと初めての功野さんにお話しをうかがった。
飼うときに気をつけていることは、家族の誰かが家にいるようにする、人間の食べ物を絶対にあげない、人間好きになるように育てる事である。散歩は普通の犬と同じくらいだが、散歩をする時間は決めずに、人間の都合に合わせて散歩をする。なぜかというと、視覚障害者の外出時間は一定していないため、時間を決めてしまうと犬がその時間に散歩を予測し、吠える癖がついてしまうからだそうだ。
離れるときの心境を聞いてみると、1年間一緒に暮らしていたため寂しいが、自分が育てた犬が盲導犬になれるかもしれないと思うとわくわくしながら育てられるし、大きなやりがいも感じられる。犬を返してからも、協会に会いに行くことが出来る。また、新しく仔犬が来ると寂しさも消えるため、パピーウォーカーは止められないと言った。その後、6~8ヶ月間訓練を受け盲導犬となった犬はユーザーのもとに行く。
ユーザーの石塚幸子さんと安藤藤男さんにも話を聞いた。石塚さんは、「盲導犬と暮らすようになって世の中が 180 度変わりましたね。白杖の時は常に神経を尖らせていたが、盲導犬を持つようになって安心して歩けるようになり、とっても嬉しい。でも、自分が元気じゃない時は、世話が面倒になる時があるんですよ」と言う。安藤さんは朝早く起きるようになって、生活が規則正しくなり、タバコをやめるようになったそうだ。
安藤さんと石塚さんは、「盲導犬に仕事中は声をかけないでほしい。なぜかと言うと盲導犬がそちらに気をとられて仕事を放置してしまって困るからだ」と言っていた。
この取材を終えて様々な疑問が解決した。まず日本が他国に比べて盲導犬の数が少ないのは、他国のほうがもっと簡単に盲導犬になれるのかと思った。しかし様々な考え方があり、社会の受け入れ体制や国の歴史が関係していることが分かった。「欧米は盲導犬の先進国で日本は後進国」という吉川センター長の言葉が印象深い。日本でも最近はドッグカフェやペット対応マンションが増えてきてはいるが、欧米のように国全体でユニバーサルデザインやバリアフリーが浸透していくには、まだまだ時間がかかりそうだ。また、公的機関からの助成金が少ないにも関わらず、周りからの支援や募金で9つの団体がそれぞれ盲導犬や訓練士を育成していることに努力と工夫を重ねていることが分かった。取材に行った日本盲導犬協会では様々なイベントを企画して盲導犬の活躍をアピールしていた。この取材を通して、ハーネスをつけて頑張っている盲導犬をもっとたくさんの人に知ってもらいたいと思った。盲導犬の数が増えていくよう日本の社会環境の向上を強く願う。
盲導犬への認識と理解
富沢咲天(14歳)
街中でたまに見かける盲導犬。私たちは盲導犬のことをどれくらい知っているだろう。
現在日本には政府の指定を受けた団体が9つあり、そのうちのひとつ、財団法人アイメイト協会を取材した。アイメイト協会では 12 月以外の毎月最終土曜日に見学会を開いている。私はまず、一般の人たちと一緒にアイメイト協会と盲導犬についての説明を聞き、体験歩行に参加した。体験歩行後、訓練・歩行指導歴 37 年のベテラン盲導犬歩行指導員の中野薫さんにお話を伺った。
アイメイト協会では盲導犬のことをアイメイトと呼んでいる。アイメイト(盲導犬)の訓練期間は3~4ヶ月で、現在訓練している犬の数は60~65頭。訓練した中から約7割が、アイメイトとして合格しているそうだ。
街で見かける盲導犬にラブラドールが多い理由をたずねてみると「盲導犬の発祥はドイツのシェパードだが、現在欧米では犬種にあまりこだわらず雑種の盲導犬も多い。日本ではラブラドールが短毛で使用者の視覚障害者の人たちが手入れしやすいし性格もおとなしいので扱いやすく、見た目もかわいらしいので好まれているのではないか」という答えがかえってきた。
犬以外で盲導動物になれないかと尋ねたら「猿は知能が高すぎて扱いにくいし、豚は排泄がコントロールできない。欧米では盲導馬というのもあるが、日本では大きすぎて無理でしょう」と言われた。やはり、犬が一番適している。
盲導犬の育成では 、 親犬を飼育する繁殖奉仕、生後2ヶ月から子犬を1年間預かって育てる飼育奉仕、訓練の結果盲導犬になれなかった犬をペットとして飼う不適格犬奉仕、引退した盲導犬を引きとって飼うリタイア犬奉仕など、様々なボランティアの人達が関わって支えている。
アイメイト協会ではアイメイト1頭につき約 600 万円かかっているが、公的機関からの委託費は 200 万円ほどだそうだ。残りは企業や個人からの寄付に頼っている。
世間ではよく「盲導犬はストレスが多いので短命だ」などと言われているらしいが、これは事実に基づいてはいないそうだ。アイメイトの使用者は、犬の健康管理と維持に細心の注意を払っていて、約 85 %のアイメイトが 12 才の誕生日を迎える頃に引退し、引退後はリタイア犬飼育のボランティア家庭でゆったりとした老後を過ごしている。 他のペットの犬と比べて寿命が短いなどということは決してなく、むしろ長いくらいだそうだ。
人々のアイメイトに対する理解のレベルは様々で、認識不足からなかには困った行動をとる人もいる。ぜひ知って欲しいのは、アイメイトは決して吠えたりかんだりしないので、むやみに怖がったり騒いだりしないことだ。そしてアイメイトが戸惑うので、勝手に犬の体やハーネスに触らない、エサを与えないこと。視覚障害者にとってアイメイトは体の一部のようなものだ。私たちはそれをよく理解しなければならない。
以上の点をふまえて、私たちが実際に街で視覚障害者を見かけたらどう行動すればいいのだろうか。たとえば、何か困っている様子なら「お手伝いしましょうか」や「どちらへ行かれますか」などと一声かけてあげる。もしプラットホームや道路などで危険が迫っていたら「ストップ」と大声で知らせてあげるなど、晴眼者(視覚に障害のない者)から先に声をかけることが大事だそうだ。
2003 年に身体障害者補助犬法が施行されて、盲導犬・介助犬・聴導犬は公共の交通機関、施設、デパート、スーパー、飲食店、ホテルなどに同伴できるようになった。しかし、すべての施設で受け入れてもらえるようになったわけではない。 日本中のより多くの施設で補助犬が受け入れられるよう、そのための知識をみんなに広めていきたいと思う。
受け入れる心~同じ人間として~
堀友紀( 15 )
最近、テレビなどのメディアで足りないと言われている盲導犬。実際はどうなのだろうか。
1998 年、 13 年前の日本財団の調査では、盲導犬がすぐに欲しい人は約 4700 人、将来欲しい人を入れると 7800 人になるだろうという数字が出た。現在日本にある9団体全てを合わせても、1年に多くて 140 頭しか盲導犬になることができない。盲導犬を欲しがっている人の数から考えると足りていない。
国によっても事情が違う。今現在、日本には約 1000 頭の盲導犬がいる。それに比べ、盲導犬の先進国の英国は約 4600 頭、米国は 8000 頭以上と圧倒的に多い。そして日本は英国と比べ、圧倒的に人口は多いはずなのに盲導犬の数は非常に少ない。この事からも、やはり盲導犬は足りていないように思われる。しかし、盲導犬が必要という基準は人それぞれ違うし、どの数値からが足りているのか、どこからが足りていないと言うのか、決まった基準がないため、足りているとは言えないが、足りていないとも断言できない。
ただ事実としてあるのは、盲導犬を頼んでから受け取るまでの期間が年々狭まってきているという事実がある。財団法人日本盲導犬協会に依頼したユーザーの石塚幸子さんは、平成 10 年当時は3~4年待つのが当たり前だったのに、最近は1~2年程でもらえることが多く、1頭目は運よく1年でもらうことができた。「盲導犬を欲しがっている人に少しでも早く渡せるように盲導犬をもっと増やして努力していきたいと思っています」と日本盲導犬協会デモンストレーターの山田美香さんは明るく前向きな声でこう言った。本気で、本当に必要としている人達の役に立とうとしているのだと思った。
今の日本は盲導犬を受け入れる環境作りがまだ出来ていない。例えば、身体障害者補助犬法ができ、盲導犬を受け入れる法律ができて6年になるが、賃貸住宅、お店や施設など、犬の持込を拒否するところが多くある。社会がもっと盲導犬を受け入れる環境が整えば、もっと多くの人が盲導犬を利用することが出来るようになるだろう。
そこで1番大切なのは、人々の「受け入れる心」ではないだろうか。ユーザーの安藤藤男さんは通学途中、満員電車に乗ろうとした時、「そんなの連れて乗るな!邪魔なんだよ」と言われ、その上に自分の盲導犬は蹴られていたと言う。とてもショックだったと寂しそうに語っていた。五体満足であろうが、不満足であろうが、同じ世の中で生きている人間として、仲間として、全員で温かみのある社会を作って社会全体が連動していける良い環境作りができたらいいと思う。
「盲導犬を持つようになって、天と地がひっくり返るくらい生活が変わって、毎日が楽しい」と嬉しそうに笑顔で話す石塚さん。この笑顔を増やすために、そのためにもっと盲導犬のことを知ってもらう必要がある。
たくさんの笑顔を、そして楽しい毎日を送るためにも、盲導犬をもっと受け入れる環境が整うことを、私は願ってやまない。