記者:寺尾佳恵(18)

 最近、日本の各地の「食育」への取り組みを伝える新聞や雑誌記事が増えている。食育とは何か。「食育」という考え方は意外に古く、知育、徳育、体育と同様、すでに明治時代には使われていたという。では、なぜ今「食育」への関心が高まっているのか。食育は日本以外でも問題になっているのか。この夏、日本と英国で食育の推進者にインタビューを行った。

 平成 17 年7月に施行された「食育基本法」によると、「食育」とは「国民一人一人が自らの『食』について考える習慣を身につけ、生涯を通じて健全で安心な食生活を実現することができる」ようにするために必要な活動を推進することだという。その背景には、急速な経済発展に伴う生活スタイルの変化がある。

 日本人の生活が変わるにつれ、脂肪分のとりすぎなどの栄養バランスの崩れ、朝ごはんを食べないなどの食習慣の乱れ、 BSE や野菜の残留農薬などの食品の安全性への不安などの問題が生じてきた。「食育」への関心が高まっている背景には、それらに対する強い危機感があるようだ。

 日本で 15 年前から食育を推進しているのは、服部栄養専門学校理事長の服部幸應さんだ。服部さんは「料理人を目指す自分の学校の生徒に朝昼晩1週間の食事の調査をしたところ、朝食抜きや、バランスの悪い食事をしている人が多く、驚いた」と言う。「よく勉強しなさい」と言ってから、2年後にまた調査をしたところ生徒の食生活がたった6%しか改善されていなかったことにショックを受け、食育の推進を訴えるようになったそうだ。

服部栄養専門学校理事長の服部幸應さん

 英国では、昨春、若手シェフのジェイミー・オリバーさんが「学校給食革命」を巻き起こした。安い上に子どもたちが好きだ、という理由でハンバーガーやフライドポテトが出てくる学校給食(英国では 1980 年代にサッチャー首相が学校給食制度を民営化して、公費給食が廃止された)のひどさを見かねたジェイミーさんは、自らロンドンの小学校に出向き、理想的な給食を作ってみせたのだ。この様子がテレビで放映され大反響を呼んだ結果、英国政府は学校給食に 1 人 1 食 35 ペンス(約 78 円)の公費を付けたという。

 今回、残念ながら超多忙のジェイミーさんへの取材は実現しなかったが、彼の運動をロンドンの小学校で推進しているポール・マーフィーさんに話を聞いた。マーフィーさんの学校では、食育週間を設けたり、食材ヘの関心を高めるため、子どもたちが自分達で野菜や果物を育てる「学校菜園」を作ることを検討しているという。

 日本では政府が国民生活の安全と健康を中心に「食育」を推進している。一方、英国では、市民による学校給食革命をきっかけに政府が「食育」の重要性を国民に訴えていた。しかし、毎日の食生活は、個人や家庭の価値観やものの考え方によって決まる。だから、実際に家庭の食事を変えていくことはとても難しい。

 日本でも英国でも関心の高まる「食育」。しかし、私のクラスの仲間30人は誰も「食育」という言葉を知らなかった。北アイルランドのベルファストでは、「ジェイミーさんのこと知ってるわ」と言いながら、私たちとの会話の間にスナック菓子を3袋も食べた女の子がいた。今後、日英両国政府がいくら「食育」を推進しても、ことはそう簡単には進まないな、とあらためて思った。

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