富沢 咲天(16)

 2010年の世論調査では国民の85%が「凶悪な犯罪であれば死刑はやむを得ない」と答えている。その一方で死刑制度廃止を訴える声もある。これから先も日本は死刑制度を維持していくのかどうか。死刑存置派と廃止派の双方に話を聞いた。

 全国犯罪被害者の会(あすの会)代表幹事代行の松村恒夫氏は、死刑は必要だと断言する。「冤罪を理由に死刑をなくそうというのは意味が違う。冤罪を生まないように警察が適切に取り調べしたらいいのであって、被害者遺族の死刑を望む心情と冤罪は関係がない。」「加害者の人権を主張するのなら、被害者と被害者遺族の人権も考慮して欲しい。」

全国犯罪被害者の会(あすの会)代表幹事代行松村恒夫氏への取材

 世界的な流れで言えば死刑存置国は減少しているのかもしれない。現在EUの加盟条件には死刑制度廃止があり、アムネスティ・インターナショナル(2009年)によると世界で死刑を存置しているのはアメリカの一部の州、日本、中国、インド、イラン、サウジアラビアなど3割ほどである。これについて聞いてみると、「他国は宗教的な思想が背景にある場合が多いので日本とは事情が違う。また、国の数ではなく人口比でみると、世界の人口の半数以上が死刑存置派である」と松村氏は答えた。
 さらに、死刑の代わりに終身刑を導入することについても松村氏は疑問を口にした。現在日本では生活保護以上の税金が受刑者のために使われているが、終身刑が導入されればそれだけ刑務所の経費も増加する。自分たち犯罪被害者の税金が加害者のために使われると思うと納得できない、というのが被害者たちの意見だ。「生きて償うって、どう償うんですか。被害者の遺族が犯人に望むことは、殺された人を生き返らせることなんです。でもそれは不可能。できないなら自分の命で償うしか方法はないんです」と切実に語った。

 一方、「死刑廃止を推進する議員連盟」会長の亀井静香氏は死刑制度廃止を主張する。元警察官僚だった亀井氏は取り調べの可視化などが進んだとしても冤罪は100%防げるわけではないと語った。「罪を犯した人であっても国民の人権は尊重されるべきである。国民の人権を守るために国家があるのだから。」

 死刑肯定派が多数を占める世論調査については、質問の方法に問題があると主張する。選択肢をせばめ、死刑はやむを得ないという答えに誘導しているという。議員に「終身刑が導入されれば死刑を廃止にしてもいいか」という調査を行ったところ、「はい」という回答が多かったそうだ。終身刑という選択肢を提示したうえで調査すれば、国民の死刑肯定の割合はもっと少なくなるのではとの考えだ。

 亀井氏は死刑廃止のための第一歩として終身刑の導入を提案している。10年から20年で仮釈放される場合もある無期懲役と違い、出られる希望もなく一生刑務所で過ごすことになる終身刑は死刑より残酷だという意見もあるが、犯罪者に罪の重さを自覚し反省させるようにするためそれは仕方がないとの考えだ。「国家が国民を殺すことはあってはならない。」政治家として亀井氏が信念を持って訴えていた。

亀井静香衆議院議員

 裁判員制度により一般市民が裁判に関わるようになった今、私たちは嫌でも死刑の適用に向き合わなければならなくなった。しかし死刑について勉強し、深く考え悩むことは死刑を存置する国民として負わなければいけない責任なのかもしれない。死刑制度の是非についてはこれからも議論がなされるだろう。