「ステップアップ塾」を知っていますか?
記者:福田和偉 Kai Fukuda (17)
個別指導型・食事つきの無料塾「ステップアップ塾」を知っているだろうか。多くの中高生が塾に当たり前のように通えて、快適な学習環境が担保されている今の時代。ステップアップ塾は2014年に設立され、現在も家庭の事情で塾に通えない子ども達を支援している。どんな思いで無料塾を設立し、運営しているのか、塾長の濱松敏廣さんにお話を伺った。
今回の記事を書くことになったのは、記者自身がこの塾でボランティア講師をしていることが背景にある。ステップアップ塾では、授業後、生徒と講師に無料で食事を提供し、会話をしたり、食事をしたりという交流ができる場を設けている。また授業が無い日には自習室として教室を利用することもできるなど、子どもたちが学習しやすい環境を提供しているのがステップアップ塾だ。多くの中高生は普段、何気なく塾に通い、勉強がしやすい恵まれた環境にあると思う。私は無料塾でボランティアをしていく中でそういった環境が当たり前ではないということに気付かされた。中高生にはこの記事を通して、塾に当たり前のように通えることが当たり前でないことを知ってもらいたいと思う。
記者:無料塾を開いたきっかけを教えてください。
濱松さん:
まず、2008年に環境啓発の団体を立ち上げました。ゴミを減らして環境を守ろうという運動を始めたんです。少し私の父親の話をしますと、色々と問題があった人でね。所得は高いが他人を見下すような人間でした。人間的に駄目な人だなと当時から感じていました。そういう人を見てきてからでしょうか、強く「社会的に何か人のためになるような活動をしたい」と思うようになりました。
環境啓発のの活動をしていく中で3.11の東日本大震災が起きて、被災地で活動をしているときに親を亡くした子どもたちに出会ったんです。同時に実は「東京で苦しんでる家庭っていうのもたくさんあるんじゃないかな」という問いが生まれたんです。ちょうどその時に「教育格差」問題がクローズアップされて、そういう家庭環境に恵まれない子どもたちに学習環境を提供したいという思いで塾を設立するに至りました。
記者:子ども達と接する際に心掛けていることは何ですか。
濱松さん:
自分の子どもと接するようにしているだけですね。どうしても「支援」となるとこれくらいでいいよね、という気持ちの大人が多いんです。でもそれだと支援としては駄目だと思う。判断基準として「自分の子どもを通わせて恥ずかしくない塾」だと思うんです。自分の子どもを通わせたいと思えるくらいか、を心掛けています。
記者:講師を社会人ではなく大学生としているのはなぜですか。
濱松さん:
やっぱり子どもたちに勉強を好きになってもらうには、まず講師のことを好きになってもらわないといけないと思います。その点で高校生や大学生となると歳が近くて、お兄さんやお姉さんという感覚だし、憧れの対象になりやすいと思うんです。もちろん勉強を教えるスキルって凄い大事な事ですが、むしろ気持ちの部分ですね、生徒との向き合い方。そこを大切にしています。でも不思議なことに気持ちのある人って優秀な方が多くて、そういう人たちが集まりやすくなっている。だからありがたいです。
記者:9月には高知県にも塾を開いたと伺いました。
濱松さん:
新しく場所を借りて校舎を開くというのも良いんだけど、今検討してるのは高知県の全部の市にトレーラーハウスを置くことです。学習環境の提供だけじゃなくて災害時の避難場所にもなり得る。これを課題先進県*と言われている高知県でやることで他の地域の課題の解決にも繋がるのではないかなと考えています。
*課題先進県とは:高齢化や人口減少が他県より 10~15 年先がけて起きている県のこと。(高知大学HPより引用)
記者:今後、無料塾の活動をしていく中で目指していきたいことがあれば教えて頂きたいです。
濱松さん:
選択肢を増やすことでしょうか。学校ベースの学習支援はこの先も続いていくと思っていて、放課後に学校で補講したりとか残って勉強したりとかね。でも、そういう時にいじめられている子達はいじめている側に会うのが嫌で学校に残るのを避けると思うんです。そういう子達が、我々が学習支援を提供することで選べる選択肢を増やせることが重要だと思ってます。
記者:今の中高生に対して何かメッセージを頂けますか。また、大学生や社会の人たちにも伝えたいことがあればぜひお願いします。
濱松さん:
まずは中高生には「おじさんたちも頑張るよ」と。だから、「腐るな」と言いたい。ひどい奴は世の中にいっぱいいる。だけど、まともな人もいっぱいいる。それを信じて自分たちの進路を輝かしいものにしてください。頑張ってね。次は大学生や社会人へ向けて。大学生や社会人の皆さんはリアルに働くこととか、そういうのを意識してることでしょう。でも本当に次の世代を盛り上げていかないといけないと感じてるから、あとちょっとでいいから、皆さんの力を貸してほしい。稼げる人なんて世の中にごまんといるから社会の為になることを何か少しでもしていきましょう。
編集後記: 取材をして記事を書くというのが初めての経験で不安な点も多かったのですが、濱松さんの人柄や熱い気持ちなどに惹かれる部分が多く、この思いを読者の皆さんに共有したいとの思いで執筆しました。ぜひ多くの方に読んでいただけると幸いです。最後に、取材に協力してくださった濱松様、同行してくださった青野るみ様、本当にありがとうございました。
記者雑感: 最近、友人が「小説や漫画を映画化するのが許せないんだよね」という話をしていました。その時、「別にどっちでも良くないか?」と思ってしまったのが本音です。私自身、「君の膵臓をたべたい」という小説がものすごく好きで5回は読んでいるのですが、映画も好きで5回は見てます。なんなら漫画も読んだのでストーリーとしては10回以上見たことになります。皆さんは小説、漫画、映画、どれが好きですか?