記者:Nili Fukumoto(14)

昨今、食品ロスについての議論がよく交わされるようになっている。ファミリーマートなどのコンビニエンスストアで行われている「てまえどり」(購入してすぐ食べる場合には、手前に陳列されている販売期限の近い食品を選ぶこと)も食品ロス問題を解決するための取り組みだ。そもそも食品ロスとはなんだろうか?そして教科書に掲載されている「フードバンク」という言葉だが、実際はどんな活動をしているのだろうか。兵庫県神戸市にある認定特定非営利活動法人フードバンク関西の理事長中島真紀さんとボランティアの川﨑知浩さんに話を伺った。

日本は世界で14番目

 消費者庁ホームページによると「食品ロス」は「まだ食べられるのに廃棄される食品」のことを指し、2021年度ではその廃棄量が約523万トンにものぼった。これは国民1人が1日に114g、つまりお茶碗一杯分の食べ物を捨てたことになる。また、国連環境計画(UNEP)の発表した資料によれば日本は世界で14番目に食品ロスの廃棄量が多い国だ。

 その解決策の1つとして挙げられるのが「フードバンク」という活動だ。これはまだ食べられるにも関わらず廃棄されかけている食料を、困窮している家庭や子ども食堂などに届くように直接的、あるいは間接的に斡旋するものだ。フードバンクは全国252ヶ所に拠点があるが、数を比べてみればアメリカやヨーロッパよりもまだまだ少ない。

フードバンク関西の理事長中島真紀さんとボランティアの川﨑知浩さん

扱う量は拠点での貯蔵以上

 フードバンク関西は約140もの非営利団体と取引があり、彼らがこの事務所まで食品を取りにくることを基本としている。フードバンク関西があり、中間団体として様々な個人のニーズに合わせた非営利団体が存在し、彼らを仲介して個人が食料品を受け取るのだ。では、そもそもどのような食料がフードバンク関西に届けられるのだろうか?

 寄付される食料は、乾パンなどの防災用の食材、缶詰など日持ちのするものしかないようなイメージをする人が多いのではないだろうか。記者も取材するまではそう考えていた。

 しかし、実際は全く違う。フードバンク関西には冷蔵庫2台と冷凍庫4台の計6台があり、要冷蔵の冷凍食品や豚まんなども貯蔵されていたのだ。お米を保存するための専用の冷蔵庫もあった。人が数人入れるほどの巨大な冷蔵庫だ。また「コストコなど大型の食品小売店に直接もらいに行き、そのまま支援が必要な人のところに届けることもある」そうで、フードバンクで扱う食料品の量は拠点で貯蔵している以上なのだと知った。

赤いスズランテープ   

 突然だが、兵庫県あるいはコープこうべなどで行われている「フードドライブ」という活動をご存知だろうか?フードバンクは食品を提供する立場であるのに対し、フードドライブというのは食品を集めるのが主な活動だ。集めた食品は直接必要な人に届けられることもあれば、フードバンクに届けられることもある。フードバンク関西ではフードドライブや企業から寄付された食品が大量にあり、もちろんのことだが仕分けをする必要が発生する。

 ここでは、ある非営利団体から要望を受け、月に1度、直接宅配で食品を送る「子ども元気ネットワーク」に参加している。川﨑知浩さんの話によると「1つ1つ袋が破れていないか調べ、終わったら賞味期限を確認して分類分けを行う。そしてその後、食品の種類によって分類分けをし、最後に適切な食品が送られるようにマッチングを行う」そうだ。マッチングとは、例えば困窮子育て世帯に対しては子ども用にお菓子を入れるようにする、など受け取る側の家族構成を考えた組み合わせ作業のことだ。 マッチングをした後の梱包する様子も見学した。その工程で2つ印象に残った点がある。一つ目は、マッチングの際にダンボールに無造作に入れられた食品たちをきちんと整えてからダンボールを閉じていた点だ。取材をするまでは流れ作業的に段ボールに食料を詰めてはガムテープを貼っているのかと考えていたのだが違った。一つひとつ、受け取った方のことを考えながら梱包しているのだ。もう1つは20kgを超える食料が詰まったダンボールに赤いスズランテープを巻いていたことだ。初め、なぜ巻いているのかわからなかったが「持ち手を作ってやることで玄関先で受け取った力の弱い女性などが引きずって運べるようになる」という工夫をしているのだ。大の大人であれ、20kgもの荷物を持てば腰などを痛めかねない。スズランテープを巻くことによって、大人や、子どもでも運びやすいようにするという細やかな配慮にはとても感動した。

赤いスズランテープで持ち手を作る

常に自問自答していかないといけない」 

 フードバンク関西は平成15年から活動を開始、すでに20年以上さまざまなことを経験してきた団体だ。今回はコロナ禍で表面化した貧困家庭における食糧難について、フードバンク関西が各家庭に食品を提供する上でぶつかった課題とそれをどのように乗り越えたのかを聞いた。

 代表の中島さんとボランティアの川﨑さんはまずコロナ禍での対応について答えてくれた。コロナ禍では1200件を超える問い合わせがあり、当時は問い合わせのあった個人にはできるだけ支援を行っていたそうだ。しかし「食だけでは根本的な世帯の課題解決にならないので、なにがしかの生活再建のための支援につながってほしい、ただ、食べなくては動けないので『まずは食べてもらう』そして、次の行動を起こしてもらう」という意味からフードバンク関西では個人への支援は原則1人1回までとしている。

コロナ禍後、物価高の中で

 次に、コロナ禍が終息しつつある今について伺った。コロナが終息し、社会全体がコロナ以前の生活に戻ろうとしつつある中でフードバンクの活動はコロナ以前と同様のものになりつつあるのだろうか?
 この問いに2人は「コロナ禍よりも今の円安による物価高の方が困窮する人が増えているのでは、と感じることがある」と答えた。

 物価高の中で十分な支援はできるのだろうか。そこで、寄付される食材や寄付金について伺ったところ、寄付は減っているそうだ。しかし、「子育て世帯応援食品パック」事業で7月と12月に積極的に募集をかけることで、寄付を増やす仕組みをつくっている。「夏休みと冬休みは給食がない。だから『子供に美味しいものを食べさせてほしい』と考える支援者の方の賛同を得ている」と川﨑さんは語ってくれた。

命を繋ぐという活動

 最後にフードバンク関西のゴールについて伺った。中島さんは次のように語ってくれた「フードバンク関西の最終的な目標はもちろんみんなが食に困らず食べられることです。ですが、これはなかなか難しいゴールで、フードバンクの活動は命を繋ぐという活動に他なりません。自分たちだけではできない部分が見えてきたので行政や他のフードバンクやNPOなどと協力して活動していきたいです」。


取材後記: 私にとっては初めての取材だったのでとても緊張しました。フードバンク関西は、写真からではわかりにくいかもしれませんが、奥行きがしっかりあってとても広かったです。想像以上に食品が保管されていて、その全てが秩序づけられて配置されていたのが印象的でした。

自己紹介: 食品ロス問題に関心がある中学3年生。アプリ開発などを通して食品ロス問題の解決に取り組んでいる。