出席者:三崎令日奈(17才)、大嶋はなみ(17才)、清水菜々子(16才)、関口ひとみ(16才)、秋津文美(16才)
2004/03/30

 第130回の芥川賞は19歳の作家の史上最年少受賞ということで話題となった。この受賞を、同世代の同性はどう見ているのだろうか? CEの女子高校生記者が率直な感想を話し合った。
そこに見えてきたのは、「共感」というより「違和感」の方が強かったかもしれない。「若者文化」と言う言葉で括ってしまう世の大人たちへも辛口の感想が語られた。

『蹴りたい背中』何を伝えたいのかわからない

令日奈:第130回芥川賞に『蹴りたい背中』と『蛇にピアス』が選ばれて、この二つが掲載された文藝春秋は今までで一番売れました。すごく話題になって、いろいろな意見があるのですが、まず『蹴りたい背中』を読んでどう思いましたか?
文美:若者が感じたことが書かれているとは思うけど、とりたてて面白い話とも思わなかったし、感動するような話ではなかった。 
はなみ:綿矢りささんが結局、何を伝えたいのかよくわからない。ただ淡々と原稿用紙百枚書いて終わったな、みたいな感じを受けた。足がポキッと鳴ったとか、文字数稼ぎにしか思えないところがある。
令日奈:普段みんなが目を付けることのない、クラスのはずれてる子の変わった日常を、みんなとは違う視線で見て書いてるのはよくわかるけど、それを通じて何を言いたかったのかはわからない。
菜々子:その人の置かれてる立場はよく書かれていて、確かにこういう思いをする人もクラスにいるんだろうなとは思った。
ひとみ:でも今の子たちってそういうグループの中で作り笑いとかして、居づらい環境にいるのを当たり前だと思ってるから、そういうのに染まらない主人公に共感する人も多いと思う。けっこういい刺激になるし、このままじゃいけないと思う人も出てくると思う。でも確かに何を伝えたいかはよくわからない。
文美:確かに主題が無いと思ったけど、青春ってあんまり主題が無いものかなとも思う。
令日奈:綿矢さんは裏カルチャーみたいな、みんながあんまり気にとめず、どこかに追いやるようなトピックに焦点を当ててるのかな、という感じもする。これは2作品に共通してることだとも思います。
文 美:結局(主人公は)本人なのかなっていう気もした。
ひとみ:そう思った。勝手な推測だけど『蹴りたい背中』は自分のことを書いてるから、あんな細かな表現までできるのかなとか思っちゃった。
はなみ:『インストール』については作者は「自分はこうではない」とか言っていたし、『蹴りたい背中』も”そういう子”系の話だから(作者と主人公は)違うと思うんだけど、自分とはかけ離れたのを想像してるから、だからなんかよけい薄っぺらになってるのかと思った。モデルがいるのか創作か、わからない。
文美:「こんな子いたらウザイ」って言ってたよね。
ひとみ:何を伝えたいんだろうね。共感を得るために書いたのかな?
文美:メッセージ性は無いよね。
令日奈:綿矢さんとしては何もこの作品一つで伝えなくても、『インストール』『蹴りたい背中』ときて、これからの小説家人生みたいなので、自分の作品すべてで言いたいことが完成するのかもしれないね。
文美:別に書きたいから書いたってだけかなとは思う。
菜々子:受賞するのは全然思いもしてなかったって感じかな?
文美:賞ねらいではないよね。だって『インストール』はちょっと賞を意識して、出会い系とか、(世の中が)飛び付きそうな話題だったり少しは商売を考えてたけど、『蹴りたい背中』は全然違うって感じがする。
令日奈:インタビューで、この『蹴りたい背中』は、スラスラ言葉が出てくるというよりも、パソコンで書いては手直しをして、1-2年たと言ってました。サササーッと書いたのかなと思ったら意外と長くかかってたりして、やっぱり考えてるんだなって思った。
菜々子:でも綿矢さんはまだ19歳で、自分の経験みたいなのが浅い。でもそれは青春時代特有の当たり前のことで、それなりにも頑張って細部まで何度も見直したっていう感じを持ちます。
はなみ:でも芥川賞って若いからというだけで、そういうのが許されるのかなって。
文美:でも芥川賞って新人だから。
はなみ:新人だと思うけど、まだ2作目じゃない? やっぱり文学界のアイドルを求めるというか、そういう思惑が見え隠れして私はイヤ。
文美:でも樋口一葉が『たけくらべ』書いて評価されたのも19だし、文学ってけっこう若い人も…。
令日奈:若い人が切り開いて行く。
はなみ:でも私は樋口一葉の『たけくらべ』と、この『蹴りたい背中』を比べたら、だんぜん前者の方が優れてると思う。
令日奈:『インストール』など、この人の作品の書評には「裏カルチャーといったものを、全然いやらしさがなく、さらっと書くところにこの人の文章のうまさがある」と書かれていたけれど、読んでみてそういう特徴はあるなあと思った。

若者の代表と言ってほしくないが、大人の受け容れ体勢は評価

令日奈:学校が主な舞台だけど、学校だけじゃない。これを若者を代表している作品と言えると思いますか?
菜々子:描かれてる世界が確かに若者の話なんだけど、自分にはあまり身近じゃない。だから若者を代表してる作家かもしれないけど、あんまり現実の若者では無いなと思います。
ひとみ:全ての子がああいうふうにネクラなわけじゃないし。みんな必死で友だち作ろうとか頑張ってるわけだから、あんなふうにみんなが悲観的に思ってると大人から思われちゃ、ちょっと困ります。
文 美:私の青春はあの中にはない。
令日奈:カスタマーレビューの中にあったみたいに、「現代の女子高生の心の内をかいま見た気がする」とか「同感を抱けるのでは」と言われると、え、これを読んだだけでかいま見られちゃ困るなと思う。
ひとみ:子どもとしては、同感とか共感は得られるけども、それが全部じゃないんだよってことはわかってほしい。
令日奈:お父さん世代が読むのは、やっぱり少しでも娘が考えてることを知りたいからだろうけど、わからないのも私らくらいの世代の特徴な気がする。一生わからないんじゃなくて、いつか大人になれば難しい時期も終わるから、そんなわかろうとしなくていもいいとも思う。
ひとみ:お母さんとかに、自分が学校で必死になってるところとかを急にわかられてもどうしようもないし、どうしてくれるわけでもないんだから、せめて家庭で自分がいる環境をそのまま維持してほしいと思います。
文美:でも、こういう若い人が発信しようという時に、受信体制は万全じゃないけど、大人がアンテナをいっぱい張ってくれようとしてるっていうのは嬉しい。でも、カスタマーレビューにあったのは、甘いとは思う。
ひとみ:例えば先生なんかが読んで「ああ、こういう子もいるんだ」と思って、理科の班分けとかで気をつかってくれたりしたら、すごくありがたいと思う。必ずしもマイナスにはなってないよね。

『蛇にピアス』―うまい文章だけど、共感できない

令日奈:『蛇にピアス』はカスタマーレビューでは賛否両論なのですが、感想ありますか。
ひとみ:はっきり言って何が言いたいのかさっぱりわからなかったです。文章はとてもうまかったけど、でも普通の女子高生の世界の話じゃないから共感は持てなかったし、それにちょっと生々しすぎて気持ち悪いところもあった。芥川賞をあげるほどでも無かったんじゃないかなと思いました。
菜々子:私は芥川賞にならなかったから、たぶん読んでなかったと思う。読んでいて、最初は何やってんだろこの人たちって思うけど、死んじゃった頃からいきなり作者(主人公?)に同情させるような感じで、そういうところがうまいのかなと思ったし、そういう要素があるから遊びで面白半分に主張したかっただけじゃないんだなと思いました。でも、このピアスっていう題材にすごく頼っている部分があるから、やっぱり賞うほどでもなかったかなと思う。
令日奈:書評に「この人の書くものがこれから楽しみです」っていうのがあったけど、金原さんは今まで書いた作品も全部人が見て「えっ」と思うような世界とか、苦痛とか痛みとか、そういう人が避けたいドロドロなものをずっと書いてきていて、もうこの路線らしいですね。
ひとみ:せっかく文章力がすごくある人だと思うから、路線変えてみた方がいいんじゃないかな?
令日奈:この人自身、他の人と違う半生というのがあるから、それが書きたいことなのかもしれないけどね。
ひとみ:そういうのじゃないと売りが無くなるっていうか。
文美:でも文学には、自分の痛みも表現することで癒していくっていうのがあるんだって。だからこの人が考えたのならいいんじゃない、別にって思う。
はなみ:最初、芥川賞を取ったって聞いて、すぐ20ページくらい読んだんだけどやめたの。今回もう一度読んでみたけれど、現実味が無いというか、そういうのを文章にしてほしくないな、と思った。こういう人が実在するかどうかは知らないけれど、自分を安売りするバカな女がいるのはわかる。こういうのを読んで「あ、かっこいい」とか「私もあけてみようかな」みたいに思っちゃう人がいると思うの。結局、主人公は立ち直ってもいないし、流されて終わりって感じだった。だから何も得るものが無いって感じ。
菜々子:その流され具合が現代の若者なのかなって思った。
はなみ:それをね、こういうのはダメなんだなって気づかせるような書き方をしてくれないと読解力のない人はわからないと思う。
ひとみ:でもダメって決めつけるのも上から押さえつけているような。
文美:だから若者ならではの切り方なのかな。でも、これは若者の気持ちを代弁してると思って「わかるよ、俺、だって若者の声だろ」みたいなふうに大人が言ってるのもムカつく。ただ新聞に、娘がそういう方向に走って戸惑ってたお母さんが、これを読んでちょっと理解を示したみたいな記事があって、そういう面では役に立ってるいんだなと思いました。
はなみ:でもほんの一部だよね。
ひとみ:確かに自分が普段触れないような世界のことだから、興味ある、知りたい、という感じでみんな読むんじゃないかなとかも思った。
令日奈:金原さんがそれなりにそういうことを知ってるってことにびっくりする。
はなみ:そういう世界は、ここにいる人たちはたぶんみんな全然関わり無いと思うの。そういう世界もあるんだって興味はあるけど、一部の若者の代弁って感じ。
ひとみ:「これが若者なんだ」といって型にはめ込まれるのはすごくいやだし、『蹴りたい背中』も、『蛇にピアス』も微妙だけど、若者の気持ちを少しでもわかってくれてるならそれはいい方向だと思う。

もっと重くわかりやすい、本棚に置きたい文学が欲しい

文美:もっと重い文学が欲しい。
菜々子:そうそう、わかりやすい。
はなみ:全体的に軽いよね。
文美:薄い、軽い。
ひとみ:でもさ、私とかほんと本嫌いでわかんないから、そういうものの方がわかりやすいし、それにちゃらちゃらした人たちも『蹴りたい背中』とかの語り口の方が読みやすいんだと思った。
文美:女子高生とかが「文藝春秋」を探してたり、活字離れとか言われてる若い人でも読んでいたみたいだった。でも文学って一部の人の楽しみだし、芥川賞って一応、純文学を売りにしてるでしょ。大衆文学は別に直木賞とかがあるし、大衆文学を求めるのだったら他でやってっと思いますね。
はなみ:芥川賞では無くてね。
菜々子:はなみちゃんがこんなのが売れる世の中はどうかと思うって言ってたけど、私もその通り。こんなに売れて、こういうのを読んでも別に何とも思わないという世間になったらいやだなって思う。
はなみ:あんなセックスしてたらすぐ妊娠するしさ、すぐエイズにかかるしさって思う。
文美:話題作りだよね。絶対メディアの力だと思う。
ひとみ:芥川賞にしたのは、ちょっと「えっ」とか思う点はあったけど、でも今っぽい話題にしたことによって、普段あまり本も読まない活字離れした若者も読むきっかけになる。それを読んだことで、今度は違う題材の違うものも読んでみようかなとかいう気になるかもしれないし、そしたらけっこういい傾向になると思う。
菜々子:最近話題になってる本って、私たち本から離れてる世代も読むようだけど、どれも自分で買おうとまでは思わない。この作品はちょっと本棚に置きたくないなと思うし、買いたくなくて借りて読んじゃえ思うのは、文学として自分があんまり求めてるものじゃないのかなって思う。
はなみ:私も買うのいやだったから本屋で読んだ。
菜々子:夏目漱石や、そこらへんだったらちょっと買って読もうとか思うけど。
ひとみ:夏目漱石、太宰治、森鴎外とか、そういう文章って今の若い人たちにはすごく読みにくいんだと思うのね。だからすごくいい主題でいいことを書いていても伝わらないことも多い。私がそうなんだけど。だから『蹴りたい背中』みたいに今の若者を主題にしたシンプルでわかりやすい作品がいいのかもしれない。文学から離れちゃうのかもしれないけど、本を買う人って必ずしも文学を味わいたくて買ってるわけじゃないから、別に悪くはないと思う。
菜々子:そういう点では全然悪くないと思う。
令日奈:だけど文学として考えてみると軽いな…。
ひとみ:文学として考えてみると、芥川賞をあげたりするのはちょっと間違っているとは思うね、確かに。

若者の活字離れの歯止めになるか?

令日奈:文学界もビジュアルの時代とか言われて、ニュースで授賞式がこんなに話題になったことはあまりないと思うんですけど、それについてどう思いましたか?  
はなみ:商戦に乗ったって感じ。大衆が、売ろう、儲けようという文藝春秋の。
令日奈:でも結局身の周りにある若者文化って全部そうじゃない?
はなみ:そうなんだけど、ちゃんと文学として評価するならいいんだけど、この二人が若いということに乗っかってるじゃない。だから直木賞も二人出たけど、こっちに喰われてそっちはほとんど話題にならなかった。
菜々子:二人が話題になったのを見ていて、綿矢さんはすごい芯があるような感じがするけど、金原さんはかなり乗っているという印象を受けた。この子をビジュアル的に話題にしていきたいという、出版側の意図を感じたように思います。
文美:あれだけ注目を浴びて、綿矢さんはほんとにえらいと思う。対応とかがすごいしっかりしてるなと思った。金原さんも別にそこまで図に乗ってるってわけでもないと思う。
文美:でもつまんなかったら消えてくよね、たぶん。一発屋ってこともあるし。
はなみ:出版社は売り出すと思うけどね。
菜々子:今までに無いタイプだもんね。
ひとみ:でも、これまでみたいに若者をネタにした話じゃないと売れないと思う。まだ19歳と20歳だから、この人たちが普通に大人の文章を、愛をテーマにして書いても面白くないと思う。
文 美:ただ青春は永遠のテーマぽくって、ずっと青春について大人は書いてる、追い求めてる部分もあるのかなと思う。
はなみ:それにしては軽いけどね。
菜々子:小説って文芸部の人とかが書いてるというイメージしかなくて、「小説書いてる」と聞くとちょっとびっくりするのが普通なんだけど、そういう中でああいう二人が書いていることは、若者の活字離れを防ぐ効果があるんじゃないですか?

(終わり)