ファシリテーター、記事執筆:福田和偉 Kai Fukuda (17)
参加者: 愛(私立高校1年生)、惺(アメリカ留学中、高校2年生)、百夏(公立高校2年生)、萌夏(私立大学1年生)
東北大学が一般入試を廃止し、将来的に総合型選抜*を100%導入することを目指すと発表した。それについて言及したX(旧ツイッター)でのある投稿に対し、批判的なコメントが多く寄せられていた。記者はコメントした人々は、総合型選抜でも共通テストの受験を求められたり、学力テストを求められたりすることを知らない人が多すぎると感じた。総合型選抜についての世間的な評価や今後の人気(需要)はどうなっていくのか、これから受験する、あるいは経験した学生同士で話しあった。
総合型選抜*: 大学が求める学生像(アドミッション・ポリシー)に合致する人物を選抜する入試制度で、知識・技能・思考力・判断力・表現力・意欲・人間性などを多面的に評価する。
[INDEX] どんな受験方式を選ぶ? 総合型選抜の印象 偏差値重視の教育は本当に悪いこと? 全ての入試を総合型選抜にするのは得か否か ネットで批判意見が集まった理由とは!? 日本人は嫉妬しやすい? 今後の総合型選抜の需要
どんな受験方式を選ぶ?
和偉:皆さんは今後大学受験を迎える方々だと思います。まず初めに聞きたいのですが、その際にどんな方式の受験を予定していますか?
愛:私は一般入試か推薦入試のどちらかを考えています。
惺:僕は海外大学の受験を考えていますが、日本の大学も受けます。その際は一般入試で受けようと考えています。
萌夏:私の場合は昨年、大学受験をしました。その際に指定校推薦も使えたのですが、通っていた高校の方針で一般入試で大学に入りました。
百夏:私は海外大学の受験を考えているのですが、日本の大学を受ける際に、海外大学に入試形態が近い総合型選抜を選ぶか、総合型でも共通テストをどうせ受けなければいけないので一般入試にするか、今悩んでます。
総合型選抜の印象
和偉:次に総合型選抜についてどんな考えを持っているのかそれぞれ聞かせてください。
愛:総合型選抜は評定や課外活動などいろいろ準備しなきゃいけないことがあるので、高校3年間でコツコツ準備していかなきゃいけないのかなと思ってます。
惺:自分は海外の大学に行きたいと思っているのもあり、今日の座談会まで総合型選抜のことをあまり知らなかったというのが、正直なところです。座談会の前に調べてみましたが、日本の総合型選抜と海外の入試形態は結構違うのかなと感じました。海外はほとんどの大学が総合型選抜のような形だけど、日本はまだ一部の大学のみのようです。なので日本では、勉強が得意な人は一般入試を受けて、勉強が得意じゃない人が総合型選抜で受験するイメージが根強いのではないかなと思ってます。
萌夏:私は一般入試で受験したのですが、自分自身が総合型選抜を受けなかったことに対して、ネガティブな意見もポジティブな意見もあんまりないです。入学の方法は人それぞれなので、一般入試もあっていいと思うし、総合型選抜もあっていいと思います。例えば学校外の活動を一生懸命してきたのか、学校の勉強が得意なのか、人それぞれ得意なことが違うと思うから、どちらが良いとか悪いとかを決めること自体に違和感を感じます。私自身は総合型選抜で入学した人達に対してネガティブに捉えたことはないです。
百夏:共通テストや二次試験って、「ペーパーテストで一発で決まる」というイメージがあります。私はそういう一発で決まってしまうものより、コツコツ積み上げてきた成績や課外活動などで評価される方が、チャンスがある気がします。一般入試だと偏差値重視教育のイメージが強い。でもこれからは偏差値を重視した教育を受けただけでは生きていける時代じゃない気がしています。総合型選抜のためにとは言わないけれど、高校生のうちに何か経験するっていうことは大切だと思う。その点、総合型選抜はこれからの時代を生きていくために必要な能力を求められている気がします。
偏差値重視の教育は本当に悪いこと?
和偉:今、偏差値重視の教育じゃこれからは駄目だよね、みたいな話が出たと思うんですが、ほかにはどんな印象を持ってますか。
惺:僕の印象としては、日本の高校って試験のことばかり考えてて、学校内での多様性がないなと思う。それが偏差値重視の一つの弊害なのではないかな。もう一つはやはり親がお金持ちだと、教育にお金を使えるから、結局偏差値を中心にしてるとやはりお金持ちの子供は頭が良くなって、他の人は教育にお金をかけられないせいで成績が振るわないってことが起きる。それも弊害なんじゃないかと思います。一方でメリットもあると思います。今アメリカに留学中なのですが、「アジアの人って相当勉強ができる」と現地の人も言ってくれる。それって多分偏差値をすごい中心にしてきたから、勉強、特に数学などが得意になってるのだと思います。だからこそ偏差値が全て悪いことではないと思うけれど、表裏一体だなと感じています。
百夏:「お金をかければかけるほど偏差値が上がる」という話がでましたが、それこそ探究活動とか、総合型選抜での課外経験を積ませるためにお金をかける親も多分出てくるんですよね。おそらくそうなると、経済格差が顕著に表れるのは、総合型なんじゃないかと思うこともあります。そういう意味では一般入試は、ある意味平等なのかもしれない。
萌夏:総合型で受けた友人から話を聞いたのですが、だいたいの人が留学経験者でした。あくまでイメージですけど、総合型選抜は海外での留学経験を高く評価しているように感じます。偏差値重視教育と金銭面が関係してくるのも共感できるけど、総合型でもお金のかかる海外留学経験が重要視されてそう。「生まれた環境次第で大学の学歴などが決まってしまうのでは」と問題になっているけれど、実際にその問題点が総合型選抜が増えることで解決されるかと考えると、それは違うのかなと思います。
惺:留学とか特にお金で買える経験が総合型を目指す人に目立つというのはすごい共感できます。やはりそれは日本は変えなくちゃいけないなと思う。例えば海外だと、貧乏だったことも経験っていう考え方があり、例えば「貧乏だからこういうことを経験してきて、だからこそ周りの人にその学びを与えられるよ」みたいなことを書いても海外の大学は通るけど、多分日本の大学だと通らないと感じていて。日本の大学はそういうところも変えなくちゃいけないのかなと思います。
愛:少し今までの話とジャンルが変わるのですが、偏差値って相対評価だから、総合型選抜とかの絶対評価より評価を伸ばすことが難しいなって思うとこもあって、そこが偏差値のあまり良くないポイントなのかなって思います。
全ての入試を総合型選抜にするのは得か否か
和偉:東北大学が発表した全入試制度を総合型選抜にするという意見に賛成ですか、反対ですか。また、理由があれば教えてください。
愛:私はすべての入試制度を総合型選抜にすることには反対です。色々な入試の方法があった方がいいと思ってて、総合型選抜は、住んでる地域とか環境とかの差で、人によって活動実績の積みやすさが左右されやすいと思うからです。今までの学力を測るための試験も残しておいた方がいいのかなと思います。
惺:僕は賛成です。なぜかというと、さっきも言ったように、偏差値重視の教育だけだと、みんな同じ方向を向いてしまい、大学受験が目的になる。本当は大学生活が重要なのに、その目的を見失っちゃうというのもあるし、もう一つは、高校生のうちにいろんな経験をしておくと進路、自分が何をしたいのかわかりやすい。そうすると大学に行ったときに、自分の興味関心にあったことができるのかなと思います。日本の大学だと、大学受験で頑張ったのに入学後は遊んでしまう、みたいなことをよく聞くけれど、アメリカは逆。受験では日本人よりは頑張らないけど、大学ではめっちゃ頑張るみたいな。それって多分大学での学びがその人たちの興味関心に合ってるからこそ頑張れるのだと思っていて、だからこそちゃんと進路のことを意識するという意味でも、総合型選抜の方が時代に合ってるんじゃないかなと思います。
萌夏:私自身は賛成ではあるけど、全ての入試を総合型にするのであれば、ある程度の学力が求められる制度を作ったほうがいいと思います。例えば小論文だとか、自己アピールだとかそういう能力に長けているのは良いことだと思うけれど、実際大学に入って、基礎的な科目の能力は最低限必要なのではないかなと思います。
百夏:自分はどちらかといえば賛成です。総合型選抜は「総合的に評価をする」っていう方式だから別に学力が問われないわけではないです。最近は、高校と大学が連携する、高大接続みたいなものが結構あって、自分の高校でも関西の大学と連携して、高校生のうちから大学で、実践的な学びを受けられるプログラムなども増えてきてます。何でもかんでもお金がかかるってわけでもないと思ってます。前に言ってたことと矛盾するけど、お金のかからない、いろんな経験ができる活動も増えてきてる。
ネットで批判意見が集まった理由とは!?
和偉:今回の東北大学の発表に批判が集まったのはどうしてだと思いますか。
愛:私は総合型選抜の中身を知らない人が多いから、批判が集まったのかなって思いました。私の学校でも一般入試よりは「総合型選抜の方が楽」とか「合格がもらいやすい」とみんなが思ってる雰囲気があります。そういう雰囲気があるから今回の東北大学の発表にも批判があったのかなって思います。
惺:世間的に「総合型選抜を選ぶ人は勉強が頑張れない」みたいなイメージがまだ全然あるんじゃないかな。さっき言ったことに重なるんですけど、一般入試と総合型があって、試験が得意な人がどっちで受けるか、たぶん一般入試を受けるんじゃないですか。それで結局、テストが得意でないから総合型で受けようかな、みたいな人がいるんじゃないかな。だからこそ全ての入試を総合型にした方がいいなって僕は思います。もう一つは日本人って、自分が試験で苦労したのにほかの人が違うことをしていたら、「なんで自分は苦労してるのに、あの人は苦労してないんだみたいな」嫉妬みたいな感情があるんじゃないかなと思っていて。もちろん、別に大学受験で苦労する必要はないし、大学でもどうせ苦労するっていう話なので、嫉妬のような感情は批判する理由としてはあまり意味がないと思います。
萌夏:批判が集まった理由としては、日本の風潮として一般入試の方が総合型より優れているという考えがあるからだと思います。例えば親世代とか、その上の世代は新しい制度とかに触れる機会が少ないから、批判的な意見はどうしても出ると思う。進学塾とかでそんな先生の発言に影響を受ける中高生が多いのも事実なのかなと思います。そんな偏差値至上主義の考えに影響を受けた中高生や親世代が批判コメントをしてしまうのかもしれない。
百夏:批判があった理由は、たぶんこの三つぐらいかなと思ってます。1つ目は、韓国で社会問題になってますが、幼い頃から塾に通わせたり、スペックっていうものを求めて、親がお金を出して経験を買わせるという問題がある。日本もそうなるのでは、という意見の人がいるのかなと。2つ目は「結局親ガチャじゃないのか」みたいな話で「実家が太くないから自分は無理だな」と嫉妬から出てる意見もあるのかなと。3つ目は「総合型は私立大学がやるもの、国公立はちゃんと勉強のみで評価すべきだ」という考えの人が多いんじゃないかなと。「国公立の大学の教授に総合型入試を本当に見る目があるのか」や「総合型はどうやって合否を判断しているんだ」という意見とか、国公立のいいところは勉強ができたりすれば入れるところなのに、指定国立の東北大が総合型選抜をやってしまって大丈夫なのかという意見もあるのかなと思いました。
日本人は嫉妬しやすい?
和偉:さっき、日本人の感覚として総合型で合格した人に対して、嫉妬とか、ずるいなみたいな感覚があるという話が出たと思うんですけど、みなさんもそう思いますか。
愛:自分が選んだ道だったら、そこまで羨ましいなとは思わないと思います。
惺:僕の場合、中学受験をしているので、学校から帰ったらすぐに塾行くみたいな生活でした。でも友達は、学校から帰って遊んでばかりみたいな人が多くて。で、友達は学校の宿題とかちゃんと出して、成績の評定はよかった。僕は塾を優先したので、学校の宿題とかをあまり出せなくて学校の評定は低かった。そんななかで、僕はテストを受けて合格したけれど、もし友達が例えば都立のどこかの中学、高校に、推薦で入ったとなると「自分はこんな苦労したのに、あんなに遊んでた人たちが入試もせずに受かるのか」と思ってしまいそう。
萌夏:私は全く思わないです。努力っていうのは人それぞれ違うと思う。総合型で大学へ入ったからといって勉強しなくていいというわけではなくて、大学に入ってから勉強する必要は絶対にあると思う。なので勉強するタイミングが変わってくるだけなんじゃないかなと思います。
百夏:私は嫉妬したりはしないんですけど、他人を妬むかどうかって結局自分がどれくらい努力したかだと思ってます。最大限努力してる人からすると、成功してる人はすごく尊敬できる人物に値すると理解できると思う。何故かというと、努力ってやはりしんどいことだし、成功するってことがどんだけ難しいことかっていうのを、努力した人だけが理解して、あの人すごいなって感心できるんだと思います。だから、中途半端に努力した人ほど「自分だってできるし」みたいな風に思っちゃうから、嫉妬したりとかするのかなと思います。
今後の総合型選抜の需要
和偉:今後、総合型選抜の需要(人気)は伸びていくと思いますか?
愛:私は伸びていくと思います。総合型選抜は早く結果が出るから、気持ちの面でも総合型選抜を選ぶ人が増えると思う。総合型を取り入れる大学が増えてきていて、枠も増えてるから、一般入試よりもっと増えるんじゃないかなって思います。
惺:海外の大学を目指してる自分が感じるのは、日本の大学の課題として、入学後に頑張る人がすごい少ないっていうことだと思ってます。それは何故かというと大学受験のときに、科目の勉強だけしかしてこなくて「自分が何に興味関心があるのか」をわからないまま大学に入っちゃうっていうのがあると思います。そういう意味で総合型選抜だと、面接などがあることで自分に大学の環境が合っているかどうかもわかる。自己アピールやエッセイを書くことで、自分が何に興味あるのかとか考えることができる。大学にとっても、その分野に興味関心がある人を取れるし、学生にとっても、自分に合ってる大学を選べるので、需要と供給が成立するから、総合選抜は今後伸びていくのではないかと思います。
萌夏:総合型選抜の需要は増えると思ってます。けれど一方で一般入試の需要が下がるわけではないとも思います。ただ、「大学に入って何を学びたいのか」っていうのを考える過程は高校生のうちに踏んでおくべきだと思っていて、やりたいことがはっきりしている方が大学での専攻や、とる授業が選びやすいのは事実だと思います。私は、大学でやりたいことはある程度入学前に明確であるべきで「総合型選抜を目指す教育の方が入学の動機を明確にできる」と考える人が今後増えると思います。
百夏:自分も萌夏さんと似たような感じで、総合型の需要は伸びると思っていて、でもその一方、一般入試の需要が大幅に減るとか、そういうわけではないと思います。変化の多いこれからの入試制度の中で一般入試と総合型を併願する人も多分これからかなり出てくるのかなと思ってます。総合型の利点として、自分と向き合うっていうことが、やらないといけないこととして挙げられるので、18歳とかの時点でそういう経験ができるのは自分の人生にすごい影響を与えるだろうなと思います。だから、入試の選択肢が増えて、いろんな人にもっと門戸が開かれるっていう意味で需要は伸びていくと思います。
[INDEX] どんな受験方式で受験する? 総合型選抜入試の印象 偏差値重視の教育は本当に悪いこと? 全ての入試を総合型選抜にするのは得か否か ネットで批判意見が集まった理由とは!? 日本人は嫉妬しやすい? 今後の総合型選抜の需要
読んでみませんか?東北大学、慶應義塾大学に取材しました。
編集後記: 今回は総合型選抜について学生たちが考えていること、感じていることについて座談会をしました。僕自身、総合型選抜について肯定的な印象しか持っていなかったので、経済格差など課題も多く残っていることが再認識できました。総合型選抜の需要が今後伸びていくかという問いに対し、参加者全員の意見が一致したように人気も需要も伸びていくのではないか?と自分は予想しました。制度として、今のままの形ではなく改良されていくべきなのかなと感じました。
記者雑感: 普段はあまりテレビを見ないのですが、長期休みということもあって久々にテレビを見る機会がありました。小さいときはただ面白いなと思って見ていたバラエティ番組を今の年齢になって見てみると、芸能人の頭の回転の早さに驚かされることの連続でした。自分の意見が求められる場で期待以上の回答を出せるのってすごい才能だなと思います。