記者:川口洋平 (17)

 「汗水たらしてお金を稼ぐというのはいいことだ」と昔からよく言われているが、今の時代の子どもたちは、お金に対してどのような意識を持っているのだろう。

 金融広報中央委員会(事務局 日本銀行情報サービス局内)が行った「子どものくらしとお金に関する調査」 ( 平成17年度 ) によると全体の 32.7% 、約 3 人に1人の高校生が「お金を利用してうまく稼げるならそれにこしたことはない」と答えている。

 自分自身、コンビニで時給 800 円程度のバイトをするより、特に働かずに株式投資で1万円を倍にするほうがいいと思うことがある。他にも、実際にやっていなくても、株に興味を持っている中高生は多いはずだ。

 もちろん以前から株式投資というものはあったが、こんなにも身近になったのは、ホリエモン騒動をきっかけに、テレビや新聞など、株について取り上げられる機会が増えたのも要因のひとつだろう。

 そんななか、マネックス・ビーンズ・ホールディングスの投資教育会社マネックス・ユニバーシティが、「株のがっこう」という小中学生向けの投資教育プログラムを行った。このプログラムは株価に反映される社会の出来事に関心を持たせるために、実際に小中学生に 10 万円を渡し、 3 ヶ月間株などのオンライントレードを実際に行わせるというもので 2006 年 1 月から 3 ヶ月わたって行われた。

 参加者の中学 1 年生は感想で「経済指標や会社の合併や業績といった経済ニュースにも興味が出てきた」と述べるなど、多くの参加者が経済の動きに関心を持つようになったようだ。

 しかし、小中学生という段階で、大金を扱い投資をすることに関して弊害はないのだろうか。株の仕組みを学び、経済に関心を持つだけなら、なにも本物のお金を使わなくてもいいのではないか。

 内藤忍マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長は、「自分のお金は 1 円でも損をすると、その理由を探したり、社会問題に興味を持つが、ゲームだとリセットできるので真剣になれない」という。

 一方、慶応義塾大学ビジネススクール小幡績准教授は「投資を早くからやってもいいことはない。その分英語を学んだほうが、よっぽど充実した人生を送れる」といい、若いうちは他のことをやったほうが、人間形成に役立つという。

 投資で儲けるという側面から見ても、「投資というのは、みんなと同じ発想では儲からないので、豊かな発想ができるように様々な経験を積んだ方がいい」と言い、将来、優秀な投資家になるためにも、投資そのものを行うより、一見関係のない勉強をしていたほうがいいと語る。

 経済に興味を持ち、社会に目を向けるのは重要だが、必要性に迫られていなければ、どうしても「お金を増やす」という行為に夢中になってしまう。内藤社長は「仮に 1 億円あって、あなたはどうするかという質問に答えられなきゃだめ」という。

 「お金を利用してうまく稼げるならそれにこしたことはない」となんとなく考えているものの、現実はそれほど甘いものではない。

 仮に、大金を得ても、そのお金でやりたいことなどがなければ、有効に使えるとは思えない。お金を欲しがる前に、何がしたいかを明確し、そのためにはどれくらいのお金が必要かを考えたうえで、お金がどうしても必要だと分かったときから投資教育を受けても遅くはないのではないか。

 世の中お金を持つことだけが、財産ではない。若いうちにいろいろなものに触れ、体験することも自分にとって貴重な財産になることも忘れてはいけない。

慶應義塾大学ビジネススクール准教授の小幡績氏