2008/02/21 

 川口 洋平 (18)

 小中高生の理科や数学への興味、関心が減少している「理系離れ」は大学入試にも影響が現れてきている。平成 17 年に旺文社教育情報センターが調査した結果、理工系学部への志願者は、国公立大学は前年度比約 6% 減、私立大学では約 4% 減少している。入試状況を比較すると、この調査後も理工系学部では志願者が減少し続けているようだ。

都立小石川高校の金澤副校長を取材。同校は旧制府立五中時代から理系教育に力を入れている。

 2006 年に経済協力開発機構(OECD)が 57 カ国40万人の 15 歳児を対象に実施した国際学習到達度調査(PISA)の結果によると、日本は前回 2003 年調査と比較して「数学的リテラシー」は6位から10位に。「科学的リテラシー」は 2 位から 6 位へと、順位を4つずつ下げた。

 同時に実施されたアンケートでは、関心・意欲を示す指標が最下位。学習に対する楽しさの指標は下から 2 番目であった。理解度が低い層が目立つだけでなく、学習に対する意欲や関心は最低レベルといった課題も明らかになったといえるだろう。

 なぜ理系へ進もうと考えないのだろうか。チルドレンズ・エクスプレスの高校生記者 4 人 ( 文系 3 人、理系 1 人 ) で座談会を行ったところ、理系に進学しない理由として、「数学の自信がないから」「テストの結果が悪かったから」という意見が多く出た。文系に行きたいというよりは、消去法で理系選択をしなかったといえるだろう。

 「理系の地位を向上させる会」代表の坂井崇俊氏は、「理系の人が成果に対して適切な評価を受けていないことに問題がある」という。高い学費を払い大学院を卒業して企業に就職しても、半年で利益の出る研究をやらされ、長期研究もできず出世もできない。仮に大きな成果を出しても青色 LED のように、研究成果が会社に十分に認められないという事例もあった。

 そんな中、先進的な取り組みで理系への興味、関心を高めている高校がある。全国に 101 校 ( 平成 19 年度現在 ) ある、理数教育を重点的に行うスーパーサイエンスハイスクール ( 通称: SSH) では、実験や実践的な科学を多く教えている。日本で初めて SSH に指定された筑波大学附属駒場高等学校では、自分の口から遺伝子を採取して特定の DNA を解析する実験を行っている。首都圏有数の進学校でもあるこの学校では、大学受験と直接的な関係のない実験を取り入れることで、生徒からの反発もあるという。しかし大学進学後に「あのときやっておいてよかったといってくれる生徒が多い」と生物科の仲里友一教諭は言う。

 同じく SSH の都立小石川高等学校では、 SSH に指定される前からも壊れた黒板消しクリーナーのモーターを利用して実験器具を作成するなど、限られた費用の中で、工夫をこらして数多くの実験をしている。金澤利明副校長は「 SSH に指定されていなくても、工夫次第で実験を授業に多くとりいれることは可能だ」と主張する。他の学校が「実験器具がない」「時間がない」といって実験をしないのは、学校側の努力不足といえるのかもしれない。

 工業系の専門科目を設置している東京工業大学附属科学技術高等学校では「活きた数学」を教える取り組みをしている。数学科の多胡賢太郎教諭は、建築科の門馬進教諭らと共同で独自のテキストを開発した。テキストを見ると鉄骨の体積を測る問題などが並び、数学が実際の物作りに使われていることがよく分かる。

 「理系離れ」が進むことによる影響は10年、20年と徐々に表れてくるだろう。天然資源を採取できない日本という国においては、今まで高い技術力を持った製造業が日本経済を支えてきたと言われている。その製造業を支える優秀な理系人間が育たないと、日本経済全体が大きく落ち込んでしまうことにもなりかねない。

 学校教育だけでなく、社会的要因が数多く重なっているのは事実だ。それを解決する一歩として、まずは理数教育の取り掛かりを工夫してみてはどうだろうか。実験をできるだけ多く取り入れ、もっと面白いと思える授業や、理数学の知識が実際に役立つんだと思える授業をする。そうして、理系の魅力を未来の科学技術者達に伝えてあげることが大切ではないだろうか。

東京工業大学附属科学技術高校の門馬教諭と多胡教諭
数学科の多胡教諭は生徒を授業にひきつけるために、教科書にマスコットキャラクターを取り入れるなど工夫をこらしている

関連記事:座談会「若者の理系離れ